ボッチ57 ボッチの超演技
年始投稿です。
俺は勇者じゃない。
でも勇者ならどうすれば良いかは分かる。
俺は勇者じゃない。
それでも誰よりも勇者に成り切る事は出来る。
俺は勇者じゃない。
たけど今だけは、勇者に成り代わって見せよう。
使えもしない剣を取り出す。
そして逃げから反転、迂回しながらもアンデッドの王を目指す。
退避していた棺のアンデッド、英雄アンデッド達が砂埃の巻き上げなどから軌跡を辿り、風景同化を見破る。
殺到するかつての英雄達、相変わらず災害魔法は避けられ、だからと言って速度を重視したファイヤーボールの嵐は尽く避けられ、叩き落とされる。
やはり格が違う。
あっという間に包囲され進めなくなる。
攻撃自体は空洞で防げているが、袋叩きだ。
魔法が駄目ならと、ダメ元で出した剣を振るうが、手応えは皆無。
一太刀も交わらず無視されている。
相手にもされないようだ。
だからと言って魔法もノーダメージ。
しかし俺には効かなくても魔法を撃って剣を振るう事しか出来ない。
勇者の在り方を身に降ろしても、勇者の力が手に入る訳では無かった。
当然だ。俺は演技しているだけの偽りの勇者なのだから。
それでも諦める事はしない。
それが勇者の在り方であるから。
それこそが、今の俺に唯一出来る事だから。
更に勇者をイメージする。
勇者軍を目に収め、真の勇者を意識する。
在り方だけでない。
動きをもそれに寄せて行く。
すると驚くほど太刀筋が鋭くなった。
今見ている姿、目に焼き付いた姿しか再現出来ないが、それは本物に瓜二つの動きだった。
だが動きが本物の勇者になっても、剣は一向に交差しない。
違う相手と戦っている剣筋を真似ただけだからだ。
剣舞にしかなっていない。
在り方を降ろしても、技を降ろしても、やはり俺は勇者じゃない。
どこまでも演者でしか無かった。
何度剣を届かせようと演技する場面を変えるが、尽く避けられる。
ならばと、在り方は勇者のまま、動きは英雄アンデッドを真似る。
同じ動きなら、少なくとも剣は交わる。
しかしこれも上手く行かなかった。
真似るには、どうしても先に相手の動きを見る必要がある。
どんなに早く動かそうとも、動けるのは必ず相手の後。
高速で襲いかかってくるかつての英雄に対してはそれが致命的だった。
ほんの少し遅れただけで、全く同じ動きをしている筈なのに、相手になれなかった。
《熟練度が条件を満たしました。
ステータスを更新します
ギフト〈超演技〉のレベルが1から2に上昇しました。
アクティブスキル〈剣術〉を獲得しました》
超演技のレベルが上がり、剣術のスキルを獲得してもその差は全く埋まらない。
元より魔力任せに強引に超演技の力を引き出している。
レベルが上がったところで、今している演技に追い付いていない。
魔力の消費が緩やかになった程度で、出来る事は何も変わらなかった。
せめて剣が交差すれば、それだけで武器の性能から相手の儀礼用の飾りを断ち切り、戦力としては相手を無効化出来るだろうに、その僅かな一歩がどうしても届かない。
だからと言って運任せで違う動きの演技を繰り出しても、演舞になるだけ。
やはり戦闘センスでは遥かに及ばない。
アンデッドとして操り人形になっていたとしても、その力は紛れもない英雄だ。
ダメ元で光る剣戟や飛ぶ斬撃などの演技も試みる。
「“剣王爪”!! “ギャラクシアス”!!」
自然と魔力が流れ身体が動く。
そして一振りで大地に五本の斬撃を刻み込み、魔力で天まで伸びた光の剣で城を両断した。
英雄アンデッドには避けられたが、技自体は成功だ。
「ぐっ!」
しかし反動が大き過ぎる。
強引に演技を行ったのだから無理も無い。
服の下はどうなっているのか分からないが、手の血管は何本か破れ出血している。
それ以上に袖から垂れてくる血は流れているのがくっきり分かる量だ。
多分、筋も切れ、骨にもヒビが入っている。
加えて魔力で焼けてもいる。
幸い、再生スキルがカンストしているおかげで目に見えて治っていくが、これを続けてはどう考えても身が持たない。
何故英雄アンデッドは頻繁にこんな技を使えるのだと観察すると、どうやら技へ繋げる手順のようなもの、技の順番が有るらしい。
動きがどれも流れるように自然だ。
反動に備え聖属性の魔力を纏いながら、試しに動きを初めから完全に真似してみる。
「“流星群”!!」
三度願いを唱える事も許さない無数の高速突き。
反動は殆ど無い。
やはり自然な動き、繋げるように剣を振るう事が大切らしい。
しかし、これでは的確なタイミングで求める技を使う事が出来ない。
完全に真似るのでは、結局動きの遅れから技は届かない。
だからと言って繋げる技やそこから繋がる技を繰り出す技量もセンスも俺には無い。
俺に有るのは演技力だけ。
やはり勝機を見出すとすれば、演技を速めほぼ同じタイミングで動くしかない。
だが、それは未来でも見ない限り出来そうもない。
いや待て。
「女神様! 未来を見る魔法とかありますか!?」
『未来視の能力自体は存在します! なのでそれを再現する魔法は有ると思います!』
未来が見えるなら勝機は十全に有る!
頼む、有ってくれ、未来視魔法!
魔導書は開いてくれた!
「女神様!」
『未来視魔法です!』
「“未来視”!」
動くもの全てが薄い像重なって見える。
薄い像が未来の位置だ!
その動きに身を任せる。
すると初めて剣が交差した。
そして俺の剣は、英雄アンデッドの儀礼剣を断ち切った。
かつての英雄はそれでも一瞬たりとも止まらず、残った剣で斬りにくる。
その像に俺は従う。
未来を切り拓いたのは俺の剣だった。
俺の剣は遂に英雄アンデッドに届き、その骨を断ち斬る。
斬った場所から骨は砂に変わり、縛られた英雄の魂は解放された。
俺は勇者を演じ切れたのだ。
このまま結果も演じ切って見せよう。
次話は成人の日までに投稿したいと思います。




