ボッチ55 ボッチ見つかる
年始投稿です。
昨日予定していた投稿には間に合いませんでした。
珍しく戦闘回です。
見事なまでの速さで撤退する勇者軍の大艦隊。
まるで交戦する気が無いらしく、撤退に全てのリソースを割いていた。
例外は撤退する大艦隊を守って変人二人を含めた四人の戦士と、大艦隊の先頭にいた勇者軍の中でも有力かつ実力者らしき老紳士達。
そんな彼らはアンデッドの軍勢と交戦している。
一太刀交わるだけで空間が軋むような魔力の波動が拡がり、魔法は余波だけで地形が変わってゆく。
それも瞬きするような間に何度も何度もぶつかり合う。
戦闘全般に関してド素人の俺もひと目で分かる高度過ぎる異次元の戦場だ。
勇者軍が弱腰だったから即座に撤退を決めたのでは無く、アンデッドの軍勢が勇者軍に撤退を決意させるほどに強過ぎたらしい。
勇者軍が見事なまでの速度で徹底を決断したのが納得出来てしまう強さをアンデッドの軍勢は有していた。
数だけで無く質も恐ろしく高い。
一対一では四人の戦士が頭一つ抜けて強いようだが、勇者軍側で最も強い戦力と頭一つ分だけ弱いだけのアンデッドは無数に居た。
無数と言っても正確には二十体程度だと思うが、その力は勇者軍を率いているらしい老紳士よりも上に思えた。
そして、老紳士と力が並ぶように見えるアンデッドは、ぱっと見では数え切れない程いた。
それでも持ち堪えているのは、勇者軍サイドが守りに徹しているのと、アンデッドが強大な存在感を持っていても実力を出し切れないからだ。
骨のドラゴンや巨人などのアンデッドは十全に力を出しきれている様に見えるが、人のアンデッドは装備が釣り合っていないのが大多数を占める。
遺体をアンデッド化しただけだからその時に装備しているものしか無かったのだろう。凄い装備に見えても見た目だけで実質装飾なもので戦うアンデッドが殆どだ。
本体が強くともそれを引き出せない個体が多かった。
剣の無い剣豪など凄みと身体能力が段違いだが、同格相手では多少厄介なだけだ。
しかし勝てるかと言うと、数が多過ぎ、全個体が中途半端な訳でも無いので今の勇者軍の戦力では厳しそうに見える。
加えて老紳士と同格に見えるアンデッドの殆どは人のアンデッドに見えるが、それ以上のアンデッドは全て異形だ。
そもそも武器を使わないドラゴンのような存在が大部分を占める。
一番厄介な相手が弱体化されていなかった。
「と言うかこれ、俺達もかなりまずいんじゃ?」
『ええ、転移魔法が封じられている事に加えて、勇者軍も撤退せざるを負えないとなると、かなりまずいです。これは残念ですが、隠蔽を考えている場合ではありません』
隠蔽の事、まだ片隅だとしてもあったんだ……。
『時間がありません。強力なアンデッドが勇者軍に向かっている今が最大のチャンスです』
「と言っても既に全面アンデッドだらけですけど? 風景同化を使っているとは言え、この数のアンデッドを避けながら街の外に脱出するなんてどう考えても無理ですよ?」
『そこは、焼き払うなりして道を作るしかありません』
自分で道を切り拓く。
確かにそれしか無さそうだが、だとしても無謀だ。
仮に巨大鎧とは違い災害魔法一発で街の外までアンデッドを殲滅出来たとしても、そこまで派手な事をしてしまった確実に居場所がバレる。
あのアンデッドを召喚したアンデッドの王は災害魔法で倒された事に怒り狂い自らをアンデッド化し蘇ったようだから、見つかってしまえば全てのアンデッドを差し向けられるだろう。
あまりにも危険過ぎる。
と言うかそうなれば勝算は無い。
が、やらなくてもこの数のアンデッドがいたらどこかで見つかってしまうだろう。
風景同化も、流石に接触すれば気付かれる筈だ。
それで結末は同じだ。
「女神様、これ、詰んでないですか? 魔法で道を切り拓けても、それで見つかって終わりですよ?」
『移動しながら様々な方向に魔法を放てば勝算はあります。撹乱するんです。相当難しいでしょうが、ここで隠れ続けるよりはマシです』
確かにそれなら勝算はゼロじゃないかも知れない。
『これはやるかやらないかの問題ではありません。やるしかないんです』
「分かりました。やりましょう! “業火滅消”!」
決意を固めると走りながら災害魔法を一発巨大鎧に放った。
前と同じく爆炎の暴威が吹き荒れる、
突き抜けない的に当てれば一発で視界は奪えた。
一度走り出したら止まれない。
俺も爆炎で殆ど見えないが、進行方向にもう一発災害魔法。関係無い方向にも災害魔法を放つ。
そして暫く進むと進路変更。
だがここで誤算が生まれた。
巨大鎧ほど頑丈な的は他に居なかったらしく、拡がっている爆炎が消えてしまった。
加えて流星着陸と前の災害魔法三発で可燃物の殆どは燃え尽きてしまったらしく、燃え移った炎として留まらなかった。
早くも丸見え。
気が付けばガキンと爆音。
一瞬で目の前に豪華な鎧を着たスケルトンが光剣を空洞に突きつけていた。
丸見えからの一瞬で見つかってしまった。
慌てて災害魔法を放つが、スケルトンは軽やかに避け、そのまま再び光る剣を振り下ろす。
空洞は破られなかったが、反動で僅かに残った瓦礫が吹き飛ぶ。
そんなやり取りの間にも棺のアンデッド達が駆け付け、次々と地形が変わりそうな一撃を叩き込んで来た。
災害魔法を放つもこちらも当たらない。
無詠唱で発動出来るようになったとは言え、大魔法故に術式構築に数秒かかるのが致命的なようだ。
そして本当の意味で致命的な事に、空洞も破られ始めた。
加えてそれに気を取られている内に、莫大な魔力の収束が骨のドラゴンによりされていた。
大艦隊に放った時よりも大幅に魔力が収束している。
気が付かなかった事がおかしい魔力の高まりだが、あのアンデッドを召喚した骸骨が結界で隠していたらしい。
『見つけたからにはもう逃がさん!! 原悪と戦い大陸の半分を焼き払ったとされる龍のブレスを喰らうがいい!!』
まるで太陽の如き圧倒的な魔力、それが破壊の暴威へと変換され放たれた。
次話は明日の投稿を目指したいと思います。




