ボッチ54 ボッチと救援?
新年、明けまして、おめでとうございます。
今年も、よろしくお願いいたします。
膨大な魔力が渦巻く爆心地。
その中心に居たのは魔王でも巨大鎧でも無かった。
膨大な魔力を渦巻かせて居たのは豪華な骸骨、闇の壁で災害魔法を防ごうとした魔法使い骸骨がそこには居た。
ただその姿は先程までとは違う。
骸骨は霊体になっていた。
骸骨の幽霊ともでも言うべき状態だ。
『我が身を滅ぼした程度で図に乗るな魔術師が!! 我は【白原冥帝】!! 死霊魔術こそが我が本領!! 貴様は我を本気にさせた!!』
なんと骸骨は倒した筈の魔王軍四天王【白原冥帝】バールガン=ドゥ=アッシュールであるらしい。
討伐した筈なのにその存在感は元の状態を上回る。
俺が居るのと全然違う方向に向かって怨嗟の叫びを上げているので拍子抜け感が凄いが、本気になったと言うのは嘘でない様に思える。
魔力の渦はドロドロとした闇のような形を取り広がった。
するとその闇から次々と動く死体が現れた。
どうやら、この戦場で散った遺体をアンデッドにしているらしい。
最初に見たときにはあった魔王の配下と思わしき化け物の亡骸が立っている。
その殆どは災害魔法で元の亡骸が燃え尽きたのか、霊体になっているが、それでもゾンビからスケルトン、その中間まで様々なアンデッドが無数に存在していた。
恐らく、この戦場で散った全ての死者だ。数が多過ぎる。
『出し惜しみはしない!! 我が魂を賭けてこの世に災禍という災禍を振りまいてくれる!!』
バールガンはそう宣言すると、拡げた闇からこれまた無数の棺を召喚した。
棺は形も大きさも全く揃っていない。
揃っているのは単純な造りの棺が無いという事くらいだ。
金と宝石で造られた財宝的な棺から、頑丈さをとことん追求したのか無数の封印が施されたものまで多数ある。
『今尚讃えられる英雄も、語る事すら憚れる怪物も、どんな伝説も魔王すらも、亡骸さえ残っていれば我が配下!! 恐怖し光栄に思え!! 貴様は伝説に呑まれ死すのだ!!』
相変わらず全く検討違いな方向に宣言しているが、その中身はやばい。
あの無数の棺は各地から集めてきたものらしい。しかもその棺の主は伝説に語られるような存在ばかり。
口上が本当であるとすれば、その中には過去の魔王すらもいるようだ。
とんでもない事態以外の何ものでもない。
棺が開く。
軽く五十メートルはある骨のドラゴン、同じく五十メートルはゆうに越える巨人。
うん、本当にとんでもないところにちょっかいをかけてしまったかも知れない。
「女神様、どうしましょう?」
『隠れましょう!』
「そんな堂々と言う事ですか? 小声で器用ですね」
ツッコミつつも、他に策がある訳でもないので隠れながら打開策を探る。
そんな時、ちょうどいいタイミングで動きがあった。
『勇者軍本隊!! もう戻ってきたのか!?』
ここからでは確認出来ないが、援軍、いや全員撤退して俺の事など知る由もないから討伐隊か、兎も角名称からして人類最高戦力的なものがやって来たらしい。
『まあいい。海の藻屑となるがいい!! 征け、我が下僕達よ!!』
勇者軍が来たからにはこれで一安心だ。
凄そうなアンデッドを大量に用意したようだが、所詮は一人の操り人形、名前からして精鋭揃いっぽい勇者軍の前にはひとたまりもないだろう。
「女神様、勇者軍が来ましたよ!」
『人類最高戦力である勇者が来たのならもう安心ですね! 危うくどうなることかと思いましたよ』
どうやら本当に勇者軍は精鋭揃いの人類最高戦力であるらしい。
本当にこれで一安心だ。
どれ、ステータスの上昇で強化された視力聴力を駆使して戦況を見守ろう。
「総統! メリアヘムが半壊状態です!」
「くっ、遅すぎましたか」
「すまん、儂らが居ながら守りきれんかった。あの様子じゃ、儂らの為に時間を稼いでくれたゼルシエの聖人ももう」
そこには大艦隊、その先頭には執事のような老紳士と、さっき一瞬だけ見た、背中を魔王に狙われていた賢者と呼ばれていた髭の長い如何にもな老人がいた。
そして話的に、その最後まで残ったと信じ切っているゼルシエの聖人とやらが魔王だろう。
「いえ、オルゴン様も、そしてゼルシエの聖人も、多くの人々の、そして人類の希望たる勇者の退避を成功させてくれました。十分過ぎます。その献身は我ら人類一同、決して忘れる事は無いでしょう。
メリアヘムは守りきれませんでしたが、それは私の責任です。散った命はもうどうにもならない。
ですが、ここで災禍を絶ち切る事は出来る! オルゴン様も皆さんも、ここで悔いている場合ではありません! 我らが背中には人類がいる!」
老紳士がそう力強く言うと、艦隊中から雄叫びが上がった。
「災禍はここで絶ち切る!!」
まるで艦隊が揺れるような雄叫びだ。
士気はこれ以上なく高まっている。
『我らの掌の上で転がっている人類如きに何が出来る!! 貴様ら如きのアンデッドは吐き捨てるほどいる!! 貴様らもすぐ仲間にしてやる!!』
対して魔力で悍ましき声を轟かせるバールガン。
それに続き咆哮を上げるアンデッド。
『さあ、海の藻屑となれ!!』
その言葉と同時に骨のドラゴンがブレスを吐いた。
斜め後ろにいる俺のところまで熱波が届く強烈なブレスを。
俺自身は空洞で何とも無いが、ブレスの進行方向とは、まるで関係無いこちらまで赤熱し始めた。
相当強い。予想以上だ。
勇者軍も危ないかも知れない。
だが、ブレスは大艦隊に当たらなかった。
「逃げなさい!! あなた達には荷が重いわ!!」
「逃げることは恥ではありません!! 未来を考えるのです!!」
そこに居たのは四人の戦士。
内、二人は全裸シーツの狐美人と、ムキムキなオネェ系と濃い面子。
しかし存在感は勇者軍の人達よりも大きい。
この人達が来なければ大艦隊は危なかったかも知れない。
だが、どんなに危険でも守りたいものの為なら決して逃げないのが我らが勇者。
きっとここからドラマが始まるのだろう。
俺は戦いが白熱した隙に逃げるとしよう。
「……分かりました。全軍撤退!! 今は、未来を取りましょう。今の我々では、役不足です」
「よく判断した。殿は僕達が努める!!」
くるりと転回する大艦隊。
「『へ?』」
マジで撤退して行く。
艦隊が去る、俺達が逃げるチャンスと共に。
「『何しに来たんじゃぁーーー!!』」
気が付けば、心の底からそう叫んでいた。
次話は明日投稿したいと思います。




