ボッチ53 やはりボッチ
年末年始投稿です。
第一村人が魔王、しかもその正体を秘密にしている。
そんな魔王と出遭い、更にはその秘密まで知ってしまった。
「めめめ女神様、どどどどうします!?」
『取り敢えず隠れましょう! 魔王相手では風景同化も完璧とは限りません!』
俺達は小声で高速で相談すると、そのまま行動に移そうとした。
「女神様、クレータです! 建物も全て吹き飛んでます! 遮るものなんかこの近くにありません!」
『それでもやらないよりはマシです。音を立てない様にかつ出来るだけ早くクレータから撤退しましょう。少しでも魔王がこちらに気付いた素振りを見せたら転移でこの都市からも撤退しましょう。流石に魔王相手は荷が重過ぎます。
ですが、出来る事なら勇者達も同時並行で探しましょう。魔王が相手では彼らもいつまで隠れていられるか分かりません。そして、魔王が居てもまだ見つかっていない場所でもあります。撤退するには最適の場所でしょう』
話している間にも移動を開始する。
勿論、風景同化と空洞は全力全開。
魔王相手にも今の所効果は有るようで、遮るものの無いクレータを移動していてもバレる様子が無い。
「そう言えば、近くなら同級生達の場所が分かるって言ってましたけど、何か反応はありましたか?」
『それが、本来ならこの都市の近海も含めて探知出来る筈なのですが、欠片も反応が有りません。相当強固な結界に守られているのでしょう』
「反応が無いのなら、既に脱出した可能性とかは?」
『それはありま…………、さて、魔王が相手ですが何とか証拠不十分の無罪を掴み取りましょう!』
「…………はいっ!!?? まさか、同級生達退避していたんですかっ!!??」
『はい、いつの間にか、えっと、その、常に場所を確認していた訳では無いので……レベルアップとか言う突拍子もない話が出る前までは確かにここに居ました、その後はメリアヘムから気配が消えたので、てっきり隠れたのかと……』
「…………つまり、今までこの都市の事しか探ってなかったと?」
『はい……』
衝撃的過ぎる事実だ。
十中八九、何故かステータスが上がった頃には退避に成功していたのだろう。
とんだ無駄骨だった訳だ……。
「普通、気配が無くなったら逃げたとは思いませんか?」
『突然消えたので、結界が張ってある建物にでも入ったのかと。転移魔法で脱出するとは予想外でした』
「俺に転移魔法で助けに行けと言っておいて、船で逃げると思っていたんですか?」
『はい……、転移魔法、使える古代遺物の方が術者よりも珍しい魔法なので』
そうこう問い詰めている内に、クレータの外に辿り着いた。
「なんにしろ、同級生達の所まで撤退するのは無理って事ですね。じゃあ、他の残っている人達の救出にでも行きますか」
せっかく来たのだから、せめて人助けをして帰りたい。
『……いません』
「へ?」
『今更ですが、人の気配が全くしません。撤退に成功したようです』
本当に、何しにしたんだろう俺達?
流星になって燃えている街を更に壊しただけだ。
「もう、帰りますか? 危ないですし」
『待って下さい。完全に陥落した都市と言えど、あの魔王は会話からして人に偽装しとけ込んでいる魔王です。これをネタに陥れられる可能性があります。
それにどの道、全ての元凶はあの魔王です! 口封じでも天誅でも良いので一打撃でも与えてから帰りましょう!』
「……はい」
一理有るが、多分に保身と八つ当たりにまみれた提案だ。
しかし、確かに放置すると危険そうなので同意しておく。せめて真相を知っていそうな巨大鎧だけは排除せねば。魔王を何とかする必要はない。
真実さえ闇に葬れれば良いのだ。
魔法をぶっ放して、速やかに撤退しよう。
幸い、まだ見つかっていないし不意打ちで何とかなりそうだ。そして、人が誰もいないのなら被害を気にせずにぶっ放せる。
さあ、ストレスも込めてぶっ放すとしよう。
「―――生ける者に終わり有り 生けぬものに終わり有り 万物が辿り着くは終焉 唯一の平等 唯一の慈悲 唯一の完成 終焉を以て完成とす ここに終焉を体現す 全ては煉獄に還り 火に還る―――」
放つのは最大火力のこの魔法。
街はとんでもない事になるだろうが、もう人は居ないし崩れているし関係あるまい。
「“業火滅消”」
獄炎の放流は一直線に巨大鎧へと向う。
流石に気付いた巨大鎧は魔王を守る様に一歩前へ。
近くに居たらしいズタボロの悪魔の王的な骸骨、ゲームに照らし合わせるとリッチとかノーライフキングらしき存在は黒い光の壁を作り出す。
だがこちらは災害魔法、黒い壁を止まることもなく簡単に燃やし尽くすと巨大鎧に直撃した。
とてつもない爆発が起こる。
こちらまで爆風に巻き込まれた。
想定よりも威力が強い。
まあ、なんにしろ巨大鎧はこれで始末完了。
そう思っているとガラガラと瓦礫の音がした。
見ると、かなり吹き飛ばされているが巨大鎧は健在だ。
その後ろに魔王の姿も見える。
魔王は兎も角、見たところ巨大鎧には傷跡すら見えない。塗装は剥げていたが、中身はまるで無事。
「なっ」
『アレは、ただの鎧ではありません。あの姿、大昔に見た事があります。アレは星鎧、この世界最強と言われる兵器です。永年行方不明とされてきましたが、まさか魔王の手に渡っていたとは』
「どうします? 撤退しますか?」
と言いつつ転移魔法を発動する。
聞きはしたが、俺の答えは決まっている。
「あれ?」
『どうしました?』
「転移魔法が発動しません!」
『転移阻害ですか。魔王は私達を逃がす気が無いようです。一先ず、何か煙幕を出して隠れましょう!』
「はい! “業火滅消”!」
と言う事で大急ぎの災害魔法。
詠唱を省略したが割と行けた。レベルアップの影響がここに来て良い仕事をしているらしい。
よし、おまけに三発くらえ!
追加の災害魔法をおまけして、発生する超大爆発の中、逃走を開始する。
俺も爆炎で全く前が見えないが、明暗で暗い物陰を探して兎に角走る。
《【魔王軍四天王】、【白原冥帝】バールガン=ドゥ=アッシュールを討伐しました。
経験値を獲得しました。
ステータスを更新します。
“異世界勇者”のレベルが71から72に上昇しました。
“勇者”のレベルが30から35に上昇しました》
何気に何か四天王とやらを倒していたらしい。
災害魔法も全くの無駄では無かったようだ。
そう思っていると、爆心地に膨大な魔力が渦巻いた。
これで今年最後の投稿となります。
皆様、一年間、ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
尚、次話は明日投稿の予定です。




