ボッチ52 ボッチは第一村人と出会う?
年末年始投稿です。
「空はとても暗く」
『フィーデルクスは青みがかっていた』
冗談を言っている場合では無いが、俺たちにはそれしかする事が出来なかった。
から笑いでもしていなければやっていられない。
本来、宇宙に行く自体子供じみた夢、あらゆる意味で夢の場所、何ならこの世界では偉業ですらあるかも知れないが、それを喜ぶ気にはなれなかった。
感情すら、空の彼方に飛んでいってしまったような気分だ。
だからと言って立ち止まっている訳にもいかない。
「女神様、どうしましょう?」
『もう、落ちましょう。空洞が有るから大丈夫です』
しかし、集中出来る状態でも無いので投げやり気味に方針が決まる。
どちらにしろ、降りるしかないのだが。
ファイヤーボールを二つ衝突させ、その衝撃を反動に無重力下から脱出する。
後は墜落するまで待つだけだ。
「あっ、結局盛大に墜落したら、魔王軍に見つかったりしないですかね?」
『もはやメリアヘムは陥落していますが、勇者が取り残されている様に人類の戦力が全員退避出来た訳ではありません。各地で抵抗を続けているでしょう。
そんな中で多少大きな音を立てても大した注目は浴びないでしょう。風景同化で隠れれば流れ弾か何かだと思うだけだと思いますよ?』
「なら、さっきそのまま海にドボンしても良かったんじゃ?」
『……ですね』
まあ、お互いあの時は慌てたし、深くは考えないようにしよう。
「じゃあ、このままドボンしちゃいますよ?」
『行っちゃいましょう』
と言う事で特に手を加えず加速を続けながら一直線に地上を目指す。
空洞は重力すらも一定以上は拒絶するようで、ジェットコースターに乗ったような浮遊感や圧力を感じないからか思ったりよりも恐さは無い。
ただ景色が高速で流れて行くだけで、その景色も空だから代わり映えがしない。
加えて魂が抜けたような精神状態なのでただ傍観しているようだった。
隕石と同じ様に落下しているせいか、炎まで吹き始めたが実害がないので問題ない。
ソニックブームが出ても過剰な音も遮断してくれるし、もはや快適とすら言える。
加速は止まらないが、問題はその程度の事しか無い。
やがて目的地が見えた。
相変わらず燃えている城のような都市が。
後は海にドボンするだけ。
「ん、進路が海じゃ無いんですけど?」
しかしここに来て問題が起きた。
『ですね』
うん、問題無いようだ。
どうとでもなれ。
そして俺達は災害的な衝撃を伴いながらメリアヘムに、そこで暴れ回っていた炎を纏う黄金の巨大鎧に激突したのだった。
抉られるように燃え熔解し蒸発し、無残に崩れ落ち吹き飛ばされた街。
高く厚かったであろう堅牢な城も、美しく格式高かったであろう教会も等しく倒壊し崩壊している。
全てがクレータだ。
「魔王軍め! なんて残酷なんだ! 何の罪も無い人々の住む街を破壊するなんて!」
『それっぽく言っても無駄です。ここまで破壊したのはあなたです』
「なっ、落ちろと言ったのは女神様ですからね!?」
俺達は一つ見落としていた。
宇宙からの落下は何ら隕石と変わらなかった事に。
そう、俺達は実質的に空から落ちる隕石になってしまったのだ。
それも空洞で完全に質量が保存されていただけに、災害級の隕石に。
『……まあこれは事故です。不慮の事故です。誰も悪くありません。強いて言えばメリアヘムを襲った魔王軍こそが悪いのです』
女神様へも責任問うと、華麗なまでの掌返し。
完全無罪を主張し、あまつさえ魔王軍に責任転嫁する。
まあ、当然俺も乗らせてもらうが。
「そうです。魔王軍こそが悪いんです! 魔王軍がここに来なければ俺達が宇宙に放り出される事も、ここに墜落する事も無かった! 全ては魔王軍のせいです! なんて残酷で狡猾なんだ魔王軍は!」
『その通りです。全ては魔王軍が悪い! そんな魔王軍を許してはいけない! 天誅をくださなければ!』
「えっ、戦うんですか?」
そう思わず聞き返すと女神様は小声で言う。
『風景同化で感知できていないとは思いますが、誰かが見ているかも知れません。特に神々にはバレている可能性があります。ここはあくまで我々は魔王軍に謀られただけで、被害者であるアピールと正義の味方アピールをしておかないと』
「なるほど」
この女神様、実は転生を司る女神では無く、保身を司る女神では無いだろうか?
しかしこんな時はとても頼もしい。
『幸い、ここは退避済みだったようで死者の魂は見当たりません。死者の魂から訴えられる事がないのでなんとかなります』
「……なるほど」
普通、幸いと言うならば被害者がいないと言う事が先に来るのではないだろうか?
と言うよりもその部分だけで良い。言い方を変えればそこ以外はいらない。
それでも保身が来るなんて、流石だ。
なにはともあれ、死者がいないようで良かった。
『後は一応、本当に周りの魔王軍を処分しておきましょう。万が一、何かを喋られるとまずいので。魔王軍なら私達を陥れようとしても不思議ではありません』
「つまり口止めですね」
どこまでも保身が先に来るようだ。
一瞬でも正義の女神だと思った俺が馬鹿だった。
まあ、全力で口止めをするのだが。
そうなると一番気になるのは直撃した黄金巨大鎧だが、あれは何処に行ったか?
流石に木っ端微塵なっただろうか?
そうであれば嬉しいのだが。
「あの巨大な鎧みたいなのはどこへ行きました?」
『それならあそこに』
女神様が指す方向に目を向ければ、なんとそこには特に凹んだようにも見えない巨大鎧があった。
なんて頑丈な。
あれは処分が大変そうだ。
加えて、その近くに第一村人を発見した。
髪金のイケメンだ。
天使の様に整った姿の男が鎧に剣を振り下ろした形でいた。
「まさか、賢者オルゴンを逃してしまうとは。運の良い奴め。
そしてお前はなんだ! 後ろから刺してやろうとしたところに飛んでくるとは!?
賢者を逃したのはまだ良い! だが、もし奴に我が魔王であるとバレていたらどうするつもりだったのだ!! 今までの計画が全て無駄になっていたぞ!」
……第一村人は魔王だった。
そして、聞いてはいけない事を聞いてしまった。
次話は明日投稿の予定です。




