ボッチ7 ボッチギフトと詫びギフト
女神様の姿が見えるようになった。
恐らく〈神託〉スキルの効果だろう。
う~ん、見かけは物凄く神秘的で美しい女神様なんだけどな~。
『何か誉められているよう貶されているような気がするんですが?』
おっと、心の声を聞かれていたらしい。
いつもならここで怒るのだろうが、今回は俺の訴えを受けてか静かにしている。
「そんな事よりもサポートって何してくれるんですか?」
『まずはギフトの使い方を覚えて貰おうかと思っています。それがあなたにとっての最大の力、この先を切り開く大きな力ですから。
それでどうします? もう始めても大丈夫ですか?』
「もう落ち着いたので大丈夫です。お願いします」
そんなこんなでギフトの練習が始まる。
『ではまず〈空洞〉からいきましょう。これはあなたの適性から生まれたギフト、あなたはすでに使い方を知っています。思い出すように意識すれば自ずと使い方が分かる筈です』
「使い方を知っている? でもそんなの……あっ、できた」
本当に知っていたように、いや手足を動かすように当たり前の事として使い方が分かる。
それに従い発動させる。
すると俺を中心に灰色の世界が拡がった。
何者も近付けない、そんな力だ。
これが〈空洞〉か、まさか自然とできていた空洞を自分から作れるようになるとは。俺は一度も自分から人を避けようと思った事は無かったのにな……。
『それが〈空洞〉、空洞を生み出す、もしくは空洞にする力です。結界のような力ですね。それを発動する間、何者もあなたには近付けません。それどころか剣も魔術もあなたに触れることが叶わないでしょう。
それでいて一定の空気や音、光は通しますので安心してください。ボッチ領域に維持する力でもありますから、例え海底の底でもぽつんと存在できますよ』
「そうですか……」
どうやら凄い能力らしいが、それ以上に悲しい内容に聞こえる。
海底にぽつんと存在って、寂しすぎない? ボッチ領域の維持って何?
『では次に〈風景同化〉を試してみましょう。これも既に使い方が分かる筈です』
「風景同化!」
この力も手足を動かすような感覚で使い方がわかったのですぐに発動した。
しかし何の変化もない。感覚的には確かに発動しているのだが、特に変わった事は起こらなかった。
「……何か変わりました?」
『勿論変わってますよ。今のあなたは風景の一部となっています。姿は何の変化もしていませんが、今のあなたを見つけられる者は殆どいない筈です。この能力は相手に認識されない力。仮に警備厳重な城に正面から堂々と侵入しても相手に触れたりしなければ発見される事はありません。警備兵にとってあなたはそよぐ風と同じものとして認識されます。
友達の輪から外れた風景、それを自ら体現する力ですね』
「そうですか……」
これまた凄い能力と言うよりも悲しい能力だと思うのは俺だけだろうか?
『因みに〈空洞〉と〈風景同化〉、とんでもなく相性のいいギフトなので魔力の消費無しで使えますよ。
あれ? どうして泣くんですか?』
「……凄い能力でうれしいからです…………」
強力な力を対価も無しで使えるなんて、俺には一体どれだけ才能があるのだろうか?
しかも強力は強力でも守りの能力だったり、隠れる能力だったり、どうせ俺に積極性はありませんよ……。
俺、このまま人を拒絶して避けながら、やがてぽつんと誰にも知られることなく死ぬのかな?
はは、拒絶する相手も避ける相手もいないけどな……。
『ちょっ、何で独身中高年の悲しい未来を想像してるんですか!? 何かもっと悲惨ですし!』
「犬と猫、どっちがいいですかね?」
『ペットの話!? あなたまだ希望に溢れる若者ですから! しかも夢一杯の異世界転生ですよ! もっと前向きに!』
悲しい老後の想像から現実に戻ってきたところで最後のギフトに移る。
『〈超演技〉は私が無理矢理与えたギフトであなたと相性が良いわけではありません。ですので魔力も必要ですし、思い出すようには使えません。このギフトは明確に何かに成りきると意識して発動してください。
いきなりは難しいと思いますので、服装から入るといいと思いますよ。その為に沢山用意しておきましたから』
「えっ、あれってただの遊びじゃなかったんですか?」
『絶対使わないだろう服を入れたのも事実ですけど、全部が面白さ求めてじゃないですよ。私をなんだと思っていたんですか?』
「すいません。人を玩ぶポンコツ駄女神だと思っていました」
『……』
それにしても服装から演技できるって事は、今までも勝手に能力が発動していたりしたのか?
今更だけど俺、服に興味ないしな。見てくれ気にしたって見てくれる相手いないし……。
このギフトのおかげで自分にないテンションで試着してたのかもな。
特に露出趣味なんか一欠片も無かったのに、女神様に見られるまで全裸を隠す気にならなかったし、凄い解放感だったし。
そうだ。そうに違いない。
「女神様、もしかして俺、結構〈超演技〉発動してました?」
『いえ、今まで一度も発動していませんよ』
「……ん? 試着と全裸にほぼ一日費やしたのは?」
『紛れもない素のあなたです』
「…………」
落ち着け、これは何かの間違い。俺は真っ当な普通の人間。断じて変人でも変態でもない。
俺は真人間!
そう思うと身体から魔力が抜け、違う何かになって舞い戻ってくる。まるで何かが俺に降りてきたようだ。
自然と身体が動く。
「ははは、ご冗談がお上手で。僕は真人間ですよ」
服装を整えながら笑顔で対応。
『ちゃんと〈超演技〉が使えたようですね』
「…………」
降りてきた何かが拡散する。
途端に真顔になる俺。
……えっ何? 今のが〈超演技〉?
確かに身体の動かしかたとかが急に分かったけど……。
……俺って演技しなきゃ真人間じゃないの? ギフト使わなきゃ真人間に成れないのっ!?
いや演技する必要ないことも演技しちゃうギフトなだけだよねぇっ!? そうだよねぇっ!?
確かに笑顔なんか作れないけどさぁっ!?
『演技とは自分でない何かとして振る舞うことです。演技を構成するパーツはあなたから引き出したものですが、完成するのはあなたとは別の存在です。
えーと、つまり、残念ながらあなたは真人間ではないと言うことですね』
「…………グスン…」
やはり悲しいギフトばかりだ。
適正のあるボッチギフトは俺から溢れるボッチを具現化した力。そして与えられた〈超演技〉はきっと、俺がボッチだと知らしめる力。
こんな力で俺はどうこの世界を生き抜いて行けば良いのだろうか?
次話は2時間後に投稿します。