ボッチ48 ボッチと転移魔法
年末年始投稿です。
『メリアヘムが、陥落しました!』
…………。
「か、陥落ってあの?」
『どの陥落の事を言っているか分かりませんが街が滅びるあれです!』
なるほど、女神様が慌てて来た理由が分かった。
しかし街が滅びるのもここにある災害級の水も脅威度的にはそんなに変わらない。
こうも簡単に災害水がスルーされる理由が分からない。
『そんな落ち着いている場合ですか!? メリアヘムが陥落したんですよ!!』
襟を掴ような仕草で迫ってくる女神様。
実体が無いから実際には触れられていないが迫力が凄い。
余程切羽詰った事態であるようだ。
「あの、そもそもメリアヘムって何処ですか?」
『…………』
訪れる一瞬の静寂。
複雑な表情に変わった女神様の顔が至近距離にあるせいか長く感じる何とも言えない静寂だ。
だがその静寂のおかげで女神様は少し落ち着いてくれた。
『すみません。説明していませんでした。メリアヘムはこの世界最大の城塞都市です』
「えっ? 世界最大の都市が滅びたんですか? 一大事じゃないですか!?」
地球で例えると東京、いやニューヨークとかワシントンが崩壊したと言う大ニュースだ。
十年二十年先も報道され続ける大ニュースだろう。
ん? 待てこのタイミング、もしかして原因俺なんじゃ。
火と水、がっつり災害級の魔法を放ってしまった。
ここが世界の最果てだとしても、あの威力ならもしかしたら届いているかも知れない。
サーと血の気が引いていく音が聞こえる。
『どうやら、事の重大さを分かってもらえたようですね』
幸い、内心はバレなかった。
都市が崩壊した事にショックを受けていると受け取ってくれたらしい。
「な、何で崩壊したんですか?」
恐る恐る聞く。
聞きたくないが、聞かない訳にはいかない。
『魔王軍の強襲を受けたようです』
セーフ、関係無かった。
「それは、大変でしたね」
『何を他人事の様に、同級生達が襲われたんですよ?』
「え? 集団召喚されたのってそこだったんですか!?」
『はい、あなたも本来なら召喚される筈だった場所が魔王軍によって陥とされてしまいました』
危ない、今回ばかりはこんな最果てに召喚された事に感謝だ。
おかげで襲われずに済んだ。
「いや〜、世の中何が起きるか分かりませんね」
『何を言っているんですか? 助けに行きますよ!』
「助けにってここからですか? 無理ですよそんなの。と言うか同級生、まだ生きてるんですか?」
『今都市からの退避を試みているところです。包囲されていてかなり危険です。早く助けに行きましょう』
「だからここからじゃ無理ですよ。助けたかったですが残念です。ここからご冥福をお祈りしましょう」
こんな時ばかりは転移魔法が使えない事にも感謝だ。
危うく、とんでもなく危険な所に行かされるところだった。
『魔導書頼りに転移魔法を使えば何とかなります! 一刻を争う事態です。急行しましょう!』
「そもそも俺、か弱いただの一般人なんですけど?」
『気付かない内に魔王を倒す人間をか弱い一般人とは言いません。仮にもあなたは勇者です。征きますよ!』
「そんな無茶な! 無理です無理無理!」
魔王を倒したのだって偶然だ。
きっと滅茶苦茶弱ってたとかそんなんだから倒せただけに過ぎない。
ガチガチの戦闘なんて到底無理だ。
俺に出来るのは精々魔導書を取り出して山を炎で抉ったり、洪水を引き起こして水没させる事くらいしか……あれ? 割とイケる気がして来た。
『何も戦えとは言っていません。助ければ良いんです! 転移で拾えればそれで十分です!』
「と言うかヒーローのように颯爽と登場なんて無理ですからね! ただでさえ注目されるの苦手なんですから!」
『一番はそこですか!? もう征きますよ! 早く魔導書を出して!』
「分かりました。でもちょっと待ってください」
俺は魔導書の前に着替えを取り出した。
密偵の服やら魔術師のローブといった装備、そして仮面を取り出して着込む。
装備は安全第一に防御力を堅める為、何より仮面で注目を浴びてもあまり恥ずかしくない様にする為だ。
そして着替えが完了すると、渋々ながら魔導書を呼び出した。
「転移と言っても、どんな魔法を使えば良いんですか? 変な所に飛ばされると魔王軍関係無く詰みますよ?」
『自分が直接転移する魔法では無く、空間を繋げる門を開く魔法を使いましょう。繋げた先を直接見れば目的地かどうか分かります。それに避難を成功させる為に行くので、他者も大勢転移出来る転移門系の魔法が最適です。合流して避難する時の為にも転移門系の魔法を使って慣れましょう』
「分かりました。つまり、どこで●ドアみたいな魔法を使えば良いんですね?」
『一言で言えばそういう事です』
問題は転移魔法自体が成功するかどうかだが、ちょうど空間魔法の練習をしていたし、成功するかは使える、少なくとも発動までは出来るだろう。
「出よ! メリアヘムに繋がる転移魔法!」
さっきは魔導書の魔法で大惨事が起きたが、その心配も殆ど無い。
何故なら、女神様に魔法の内容を読んでもらえば良いからだ。
「女神様、この魔法で大丈夫そうですか?」
「どれ、“英雄の背中”。あなたの助けたいと言う気持ちに呼応したのか、完璧な魔法です。これは助けを求める者の所へと転移門を開く魔法です。救いを求める声と救いたいと言う気持ちを繋げる完璧な魔法と言えます。
これなら転移座標を間違える事なく、かつ迅速に必要とされている場に転移出来るでしょう」
凄そうな魔法名らしく、凄い魔法を引き当てたようだ。
名前のように、絶体絶命のピンチで目を開けたらそこには英雄の背中があると言う、あの光景を生み出せる魔法なのだろう。
よし、颯爽と助けに行くか!
そして助けたら何も言わずに去ろう! 格好良くて話さずに済んで一石二鳥だ!
満を持して魔法を発動させる。
「“英雄の背中”」
持って行かれる魔力はそこそこ大きいが、災害魔法に比べたら全く大した事なく、制御自体も難しく無い。
成功を確信して転移門を開く。
俺の英雄道を示すかのように、門の先は輝いて見え―――。
「アァあぁぁーーーーーっっ!!」
何故か、俺は爆発に巻き込まれるのだった。
次話は明日投稿する予定です。




