ボッチ46 ボッチ、方舟を造る
ハロウィンは少し過ぎてしまいましたが切が良いので投稿します。
融解し穴の空いた山から、莫大な量の水が流れ出す。
水流は炎も木々も地形すらも押し流しながら更に外にあった山すらも押し流した。
山が、山が大水流で砕け沈んで逝く……。
山って、水で砕けるんだ……。
大部分が岩の山だったんだけど……。
水が大量に溜まっていた分、とんでも無い威力だ。
破壊力だけなら業火の魔法よりも強い。そんなもの、全く求めていないが……。
と言うか、もしかしたら業火の被害よりも普通に大きいかも知れない。
盛大にやらかしてしまったかも知れない。
しかしもはや人智を超えた勢いの水はあっという間に炎を押し流し消火した。
取り敢えず、めでたしめでたしとしておこう。
結局、樹海の外にまであった砂漠まで木々を薙ぎ倒し流してしまったが……。
後、雨が止まらない。魔力の流れは強引に断ち切ったが、既に流した魔力で術式は、雲はそこに在り続け相変わらず金ダライをひっくり返すどころかそのまま落とすが如く大雨が振り続けている。
つまり術式の制御が完全に離れたのにも関わらず、魔法は続いている。
完全にお手上げだ。車のハンドルがスポリと抜けたどころかブレーキもアクセルも折れた状態だ。
どうしよう?
ここも、山の跡地から下の高原に水が流れ出していると言っても、ここを囲む山々に降り注いだ大雨もここに集中している為、水嵩は増し続けている。
このままだとこの丘も水没してしまいそうだ。
取り敢えず流されそうなテントはアイテムボックスに収納した。
俺に出来る対策はこれくらいだ。
後は出来るか分からないが船を造ってみよう。
木属性魔法が有るから何とかなるかも知れない。
まずは既存の魔法が有るか確認。
船を造る魔法なら万が一にも三次災害を生み出すことは無い筈。
「来い! 船造り魔法!」
………………。
うん! 無いらしい!
何で地形を焼き尽くしたり沈めたりする魔法が有るのに船造り魔法は無いんだ!?
絶対地形破壊魔法の方が需要無いだろう!?
あー! 色々有り過ぎてテンションもおかしくなってきた!!
こうなれば地道に木材生成魔法を応用して何とかするしか無い。
創造する木材を大きくより頑丈に。
出来た。これはある程度魔力を多く込めるだけでも形になる。
形の変形も魔力操作とイメージで何とかなる。
基本的に、土魔法で温泉を造った時と同じ要領でいける。
まずは丸太を、切り倒した杉の木のような巨大な丸太を生成。
どの程度浮くかを確かめる。
あっ、簡単に水に飲み込まれた。
莫大な雨に山脈から流れてくる水流で見かけ以上に水上は荒れているらしい。
相当安定性の有るもので無いと役に立たない。
試しに筏の形になるよう木材を生成。金属の釘を生成する魔法は使えないので木に穴を作り、そこに木の杭や部品を埋め込む形式で纏めてゆく。
しかしあっという間に波に呑まれ折れ砕け沈んだ。
筏の上に水が来てしまうとあっと言う間に呑み込まれてしまうらしい。
こうなれば上に水が来ないように高さも必要だ。
筏状に並べた木材を五枚造り出し、箱状の船を生み出してみる。
おっ、沈みはしない。
計画通り波が内部に入らないようだ。
と思ったら、すぐに大雨が溜まり沈み、いとも簡単に波に呑まれて沈んで消えた。
屋根も必要なようだ。
今度は筏状に並べた木材を六枚用意してサイコロ状の船を造ってみる。
すると今度は沈まなかった。
均等に力が伝わるからか水流によってコロコロ回転していて、実際乗ったらとんでも無い事になりそうだが、兎も角沈みはしない。
基本構成はカッコ悪いがこの箱状の船を元にすれば辛うじて使える船になりそうだ。
安定性を保つ為に大きさは巨大に。
波に耐えられるように厚く頑丈に。
万が一壊れた時の為に箱状船の中に箱状船を。
「良し完成だ!」
後は乗り込めば。
「…………」
入口、忘れた……。
これじゃ船じゃ無くてただの箱だ。
もう一度造り直すしかない。
だが、入口を造るとまた安全性に問題が。
どうしても入り口は弱点になってしまう。密閉性に問題がなくとも軟な鍵や蝶番では水流によって簡単にもみくちゃにされてしまうだろう。
だが、やるしか無い。
よくよく考えれば〈空洞〉でボッチ領域を維持すれば海底の底でもポツンと存在出来るとか言っていたから割と大丈夫な気もするが、保険をかけるのは悪くない。
と言うか保険をかけなければ不安だ。
なるべく、いや完璧な船を造らなければ。
試行錯誤の末、求めていた船が完成した。
我ながら船が輝いて見える。
希望の船だ。
水滴がキラキラと光り輝いてとても頼もしく―――。
ん? 本当に輝いて見える。
精神上のものだと思っていたが、水滴は輝き続けている。
と言うかさっきから妙に明るい。
空には虹が…………。
あれ? 雨、何時の間にか止んでいる。
雲の間からは、顔を覗かせる太陽……。
うん、船、必要無かった。
しかし、視野が拡がるとその事はどうでもよく思えた。
晴れてから見るその光景は、雨を降らす前とは大きく異なるものだったからだ。
そこは、いやここは山々に囲まれた湖に浮かぶただ一つの小島。
山々からは数々の滝や急流が流れ込み、水面は光に照らされ激しくも穏やかな音が拡がる。
結果的にやってしまったのは環境破壊である筈が、世界の神秘を感じさせる光景が、ここには広がっていた。
下に行く程、破壊の被害は大きいが、そこにも雄大な自然と呼べる光景が広がっている。
数多の滝が、湖が成す絶景。
大樹が倒れ沈む湖も、不謹慎だが美しいものであった。
そして破壊の被害も主に一方面のみに集中しており、残っている元来の姿とも何故か調和して見えた。
また水中も絶景だ。
早くも高い透明度を持ち、覗かせるその光景は幻想的で神秘的だった。
沈んだ後も高原は不思議と健在で、草花は風に吹かれるように水中で揺らぎ、木々も水上から注ぐ光を浴びて倒れる事なくそこに在った。
何故そうなっているのかは理解出来ない。しかし美しい事だけは確かだった。
これは、終わりよければ全てよしって奴かな?
遂に陸の孤島に加え、本当の孤島に閉じ込められ、更にボッチ度が増したが……。
次話は冬至での投稿を予定しています。




