ボッチ45 天災的なボッチ
何故かとは言いませんが、筆が進んだのでもう一話。
辺境の長いトンネルを抜けると炎国であった。
結論から述べよう。
ゴミはキレイさっぱり消えた。
……景色と共に……。
目の前に有った魔法ゴミの山は跡形も無く、その先も跡形も無く消し飛んでいる……。
燃えている部分はまだマシだ。
“業火滅消”が直撃した場所、通り過ぎた場所は岩だろうが土だろうが、そして山だろうが消失し抉れ、残る部分はマグマの様にドロドロと言うよりも夏のアイスの如くトロトロに熔けている。
そんな惨状よりは大分マシとは言え、直撃を免れた箇所も、視界に映る範囲は全て灼熱の業火一色。
天までも業火に焦がされている。
例外は抉り熔かされくり抜かれた山の向こうに広がる空のみ。
だがその風景すらも染まりつつある。
正しく、トンネルを抜けると炎国状態だ。
……国、燃えてないよね?
こんな時ばかりは誰もいない場所に召喚された事に感謝したい。
あっ、トンネルが貫通した山が崩落して逝く……。
もはや驚きと言う感情が、起伏のある感情が浮かんで来ない。
ただ無感動に見送ってしまう。
真に唖然呆然とは、こう言う事かも知れない。
驚き過ぎると、剰りの出来事に遭遇するとまともに驚く事も出来ない。ドラマで急に撃たれて暫く『えっ……』と時が止まる様なアレだ。
まさか自分にそんな事が起きるとは……、本来ならどうでも良い事をまた知ってしまった。
って、現実逃避して余計な感傷に浸っている場合では無い!
取り敢えず消火しなければ!
水だ水! 魔導書よ水を!
「―――神にも間違い有り 神にも後悔あり 故にやり直そう 無に還そう 一握りの希望を残して これは浄化にして選定 終わりにして始まり ここに創造は終える 神話は終わり 歴史が始まる―――」
願うは炎を散らし、良きを守る大雨。
「“神の剪定”」
莫大な魔力が轟音を轟かせながら荒れ狂う雲となり拡がって行く。より遠くへ、より高く。
あっという間に視界を覆い尽くし、視界が開けた時には大量の水。まるで水族館に来たかのように全面水がある。
そして留まることなく雲はより高くより広く広がり、やがて空を覆い始める。
それに伴い水の高さは低くなり、完全に視界が開けた。
激しく蠢く雲からはバケツをひっくり返したが如く雨が降り注ぎ、足元からは未だ雲が登り続け大量の水が噴出している。
雲の拡がり水の拡がりと共に災火の跡は凄まじい蒸気を上げながらも消えて行く。
空と地から注ぐ莫大な水に呑み込まれて行く。
良かった、火は消えそうだ。
問題はどの範囲まで雲が拡がるかだが、早くも高原内を覆っても衰える様子が無い。
山脈も越え始めている。
足元の洪水の如き水も高原を覆い、崩落した山の穴から山の外へと流れ始めている。
全ての炎を消せるかは分からないが、一先ずやれる事は出来ただろう。
後は経過観察だ。
この雨降らし魔法はファイヤーボール等の魔法と違い、発動時以外にも魔力供給を必要とする魔法であるようだが術式の維持に手間がかかる訳ではないので維持しつつも他の事に魔力を使う事ができる。
「“ウィンドソナー”!」
だから探知魔法を新たに発動した。
そして魔力感知やレベルアップによって強化された視力を総動員して状況を観察する。
驚く事に、大雨は燃え盛る跡地のみならず高原全てを覆い、一面を水没させていた。
…………まあ、燃え続けるよりはまだ良い。
やる過ぎた感は否めないが……。
幸いと言うべきか、振り続ける大雨でその水深はそこまで深くなる事は無く、山の崩落場所から高原の外へと、丁度燃え盛っている方面へと水は流れている。
世界三大瀑布並の水量と凄まじい勢いで、崩落した山の残骸を押し流しなが流れ、炎をあっという間に消していた。
山がどんどん削れ崩落しているようにも見えるが、きっと気のせいだ……。
水は距離を延ばす程、勢いを落として行くと思いきや反対に水量と勢いを増して行く。
どうやら水源である雲も拡がる事により、先に行く程、低い所に行く程、瞬く間に地を沈める空の水源を維持したまま高所の水も集中させる事で凄まじい事になっているらしい。
しかしその流れもこの高原を囲む山脈の外に拡がる高原で止まった。
外の高原も山脈に囲まれていたからだ。
そしてその山脈には穴が無い。斜め下に終焔魔法を発動したが、あくまでも斜め下で山脈に直撃しなかったからだ。
通り過ぎた事により燃えてはいたが、抉れたりはしていない。だから山脈に堰き止められ水が溜まってゆく。
一先ず、これで水の大災害、消火の二次災害は防げた筈だ。
その代わり、山を越えた業火の被害を抑える効果は弱まってしまった。
外の山脈を越えても雲は延び、そしてバケツどころか鉄タライその物を落とした様な大雨が降り注いでいるが、山の外は大樹が多く高い位置で燃え盛っているために効果がいまいちだ。
業火は普通の炎出ないのか、もしくは大樹が特殊なのか炎の拡がりは異様に早く、消火の勢いよりも炎の拡がりの方が早い。
樹海の先は砂漠であり、そこでは流石に炎は拡がらず食い止められるだろうが、それまでの被害が大き過ぎる。
こうなれば仕方ない。
山をぶち抜こう!
そうすれば山に貯められた水は拡がる炎を消し去る筈。
もう一度業火を使っても後を追いかけるように水が押し寄せるから炎の被害も小さい筈だ。
「―――生ける者に終わり有り 生けぬものに終わり有り 万物が辿り着くは終焉 唯一の平等 唯一の慈悲 唯一の完成 終焉を以て完成とす ここに終焉を体現す 全ては煉獄に還り 火に還る―――“業火滅消”」
そして保険をかけ威力を調整出来るように自力で発動した。
驚く事に、魔力の消費は激しいが術式構築と制御自体は魔法スキルのレベルアップ修行時の他属性同時多発動よりも簡単だ。
威力と魔法の難しさは比例する訳では無いらしい。
構築された業火は流星のように飛び出し、大雨と湖を蒸発させながら山に衝突。
殆ど抵抗を許さず山を融解し、山をぶち抜いた。
次話は未完成なので完成したら今日中、しなければ冬至に更新したいと思います。




