ボッチ44 ボッチの魔法ゴミ掃除
温泉から上がり着替え終わると、手持ち無沙汰になった。
魔法の練習は一段落したし、朝食も終えた。
急ぐ用など皆無だし二度寝でもしようか?
まだ日は昇ったばかり。時計が無いから分からないが、地球ならまだ寝ていた時間かも知れない。
転生してから騒がしい毎日だったし、一日のんびりするのも良い。
しかし、温泉に入ったばかりで眠気は飛んでしまった。
無理にする二度寝など存在しない。二度寝はやめよう。
だが、そうなるとする事が無い。
テレビや漫画、ゲームかスマホが有れば一日中、何も考えずにダラダラ過ごせるがここは異世界。そんなものは無い。
話し相手すら皆無だ。
あっ、それは元からか。
ははははは……。
おかしい、快晴なのに視界が雨で歪む……。
まあ何にしろ、時間を潰せるものが無いと言う状況は初めてかも知れない。
何もせずにぼーと過ごすにも限界がある。
ぼーとするにも暇つぶしが必要なのだ。
取り敢えず、綺麗な景色でも眺めて気長に考えるか。
気が付いたら時間が経っているかも知れない。
そう思って景色を眺めると、やるべき事が見つかった。
景観の保全、つまりゴミ掃除だ。
美しい景色の中に、生成魔法で出した物が散乱していた。
手付かずの自然を変えたままではいられない。
ゴミ拾いをする事にしよう。
だが、よく見れば予想以上に散乱している。
急激にスキルレベルは上がったが、それでもスキルレベルが上がる程に魔法を使っていた事には変わり無い。
校庭程の広さに軽く積もる程、散らかっている。
一つ一つ拾っていては、一日が潰れてしまいそうだ。
流石にそこまでは求めていないし、続ける自信も無い。
魔法で何とかならないだろうか?
掃除機みたいに風で上手く巻き上げられるかも知れない。
まあ、やってみよう。
木材や氷は普通の掃除機じゃ絶対に吸えないから、竜巻レベルの風を起こしてみるか。
急に竜巻を生み出すと加減が難しそうだから、元から有る風に魔力を同調させて動かしてゆく。
すると旋風は簡単に生まれた。
後はこれを大きく、吸引力を強く。
旋風はやがて竜巻と呼べる大きさに。
しかし木材、薪のような木片は重いらしく、揺れ動くも地を離れはしない。
竜巻の勢いを高めてゆく。
より強くより早くより大きく。
勢いを強めた竜巻は遂に木材や氷、また石までも吸い寄せ巻き上げた。
あっという間に散乱物は消えた。
少し元々の地形も巻き込んだが、そこまで大きな被害は無い。
一通り確認し竜巻を消す。
ふぅ、これで綺麗に―――。
「おっ、あっ、ひぎゃぁっ!」
空から硬い物が落ちて来る!
石だ木だ氷だ!
竜巻で巻き上げた物が空から降って来る!!
「酷い目に遭った……」
まあ、空に巻き上げた物が落ちてくるのは当然だけど……。
完全に自業自得だけども……。
そして魔法ゴミは余計に散らばった。
空高く吸い上げられた為、かなりの広範囲に散らばっている。
俺はゴミを散らかし危険な目に遭っただけの様だ。
本当に俺は何をしていたのだろう……。
兎も角、失態を忘れる為にも今度こそ片付けよう。
念力的な魔法でも有ればいいのだが。
あっ、そう言えば自分が出した物の制御って取り戻せたっけ。
生み出してなくても風を操れたし。
生成された後も残留する魔力を頼りに、再びその魔力を制御下に置く。
うん、成功した。
後はこれを動かす。
これも出来た。
魔力を制御してからは普通に魔法を使うのと何も変わらない。
ただ、出した魔法ゴミが多過ぎて動かし難いと言う欠点がある。だがそれ程の労力を必要とする訳でも無いのでこのまま続行。
次々と魔法ゴミが浮き上がり纏まって行く。
集めてみると魔法ゴミの量は想像以上に膨大だ。
体育館くらいの面積は優に有りそうだ。
今いる丘の上には置き場がなさそうなので下の草原に置き、まずはそこまで向かう。
近付いて見るとやはり体育館規模の山になっている。
どう処分すべきか。
ここまでの量だと置いておく訳にはいかない。
氷も木材も一応自然に還るものだが、放置で片付けるには何年、いや何十年も必要だ。
地面に埋めるとしてもこの体積を大き過ぎる。
待てよ? 木と氷?
普通に燃やせばいいじゃないか。
丁度燃やしやすい物だ。
石も魔法ゴミに含まれているが、石ぐらいなら放置してもそこまでの問題は無いだろう。
よし、燃やそう。
竜巻のように自力でやったらまた失敗するかも知れないから、ここは魔導書で既製の魔法を使おう。
もしかしたらゴミ処理用の魔法が既に存在しているかも知れない。
「出よ! キレイさっぱり焼き尽くす魔法!」
求めに応じて開いた状態で魔導書が現れた。
早速魔力を流す。
魔王討伐前なら魔力の枯渇とかの心配があったが、流石にレベルアップした今なら魔法の詳細を気にする必要はない。
……何か魔力の吸い込みが中々止まらないが、元の魔力量などとっくに超過しているが問題あるまい。
……元の百倍近くの魔力を吸っているが問題あるまい……きっと…………。
しかし何だかんだ魔力の流れも落ち着いて来たので、脳裏に浮かんだ呪文を唱える。
「―――生ける者に終わり有り 生けぬものに終わり有り 万物が辿り着くは終焉 唯一の平等 唯一の慈悲 唯一の完成 終焉を以て完成とす ここに終焉を体現す 全ては煉獄に還り 火に還る―――」
あれ? 今まで呪文が浮かんでくる事なんてあったっけ?
だが疑問に思ってももう遅い。術は完成しかけている。
ここで発動させなけれぱ暴走してしまう。
止められるならば止めたかったが、暴走を回避する為に俺は脳裏に浮かんだ魔法名を最後に唱えた。
「“業火滅消”」
そして、発動すると同時に光も音も全てが紅く染まり、呑み込まれて消えた。
そして俺の平穏も、多分消えた……。
次話も今日か明日に投稿したいと思います。




