閑話 勇者2 勇者と魔王
「まずは概要からご説明させて頂きます。端的に申し上げて、皆様を召喚したのは約千年ぶりに魔王が出現したからです」
そう言いながら、デオベイルさんは水晶玉から立体映像を投影する。
「これは先代の魔王ユグリドス」
そこに映し出されたのは鋼鉄と溶岩の巨人。
暗い溶岩で出来た鬼が、燻んで凸凹な黒い鋼鉄の鎧を着込んだような巨人。
巨人と言っても10メートルあるか何かくらいだが、異様に大きく見える。
マントのように流れ出るドロリとした黒い液体は大地を燃やし、過ぎた場所は山だろうと川だろうと例外無く燃えていた。
その炎の中には、畑も村も街もある。
魔王の足元には無数の異形。
黒い液体で燃えないらしく、侵攻を阻む白い法衣や鎧を着た軍勢に襲いかかっていた。
数は白い鎧をした人の軍勢の方が何倍も多い。
しかし、数人がかりでも異形は止められす、白は紅く染まってゆく。
後方で魔法陣を展開していた法衣の集団から、一輪が車程もある巨大な光の鎖が魔王に向かって伸びる。
鎖は四方八方の部隊から伸ばされ、縦横無尽に魔王に巻き付いた。
そこに最後方の部隊、一際大きい魔方陣から一筋の光が空に放たれた。
光は空で魔法陣を何重にも再展開し、白い流星のような一撃を魔王に浴びせる。
光とは思えない重い一撃は一帯の炎をかき消し、異形の怪物も纏めて滅ぼした。
魔王も光に包まれ、激しい衝撃波は山を揺らし、大地を沈めた。
しかし、光が止むと魔王は顕在、一歩も後退すらしていない。
慌てて白の軍勢は攻撃を再開する。
異形の怪物が排除された事により、そちらに回されていた戦力も魔王に集中攻撃を浴びせかけるが、まるで効果が無い。
魔王は力強く踏み込む。
それだけで炎の衝撃波が生まれ、白の軍勢は蹴散らされた。
重そうな鎧を纏い盾を構えた騎士が玩具のように吹き飛ばされ、結界は落とした飴細工の様に砂に、山間に築かれたもう一つの山の如き砦もただの瓦礫と化す。
そして魔王以外が燃えた。
残っているのは少数の豪華な装備の人達。
装備に見合うスーパーヒーローのような動きを見せ、魔王に挑むがその歩みを遅らす事すら出来ずにいた。
天から神々しい光が降りてくる。
光は白い人達に宿り、その動きと技の威力は格段に上がった。
目で追えるものでは無くなっている。
一際強い光に包まれた司教のような人が、神々しい杖を振り下ろす。
すると空から星のような色合いの光が魔王に降り注いだ。
光は柱となり、魔王の動きを止める。
鋼鉄の鎧に傷が入り、光で出来た煙を上げた。
しかし魔王は光を抜け出すと、司教目掛けて剣を一振り、間に大盾を持った人が駆け込み、司教も咄嗟に結界を張ったが、凄まじい勢いで吹き飛ばされ、砦の残骸に叩きつけられ、それでも止まらず残骸を吹き飛ばしながらその遠方にあった都市の城門にめり込んだ。
生きてはいるが、映像越しにも重症だと分かる。
そして魔王はその都市に向かう。
数キロ離れた都市も、巨人のような魔王の歩みではすぐ近く。
生き残った戦士と、都市からの増援も魔王を止めにかかるがまるで効果が無い。
魔王と剣を交えるまでも無く、魔王の広げる炎に呑まれ倒れてゆく。
「そして、彼らが皆様と同じ勇者です」
そこにデオベイルさんが言う勇者が三人、炎を割いてやって来た。
魔法使いと神官と戦士の三人。
年齢は俺達と同じか少し上。
その動きは光を宿した軍勢の生き残り達よりも速く力強い。
戦士は魔王と切結び。
その隙に魔法使いが多種多様な魔法で攻撃及び援護。
神官はそんな二人の回復や強化に努めている。
そんな勇者と魔王の激突は、地形を変えていた。
魔王は剣で応戦する以外、その場を殆ど動いていないが、勇者達が動くその風圧だけで強風を生み出し、踏み込みで砕けた大地の欠片はその強風で飛ばされる。
勇者の光を纏った剣と魔王の闇の纏わりついた剣は交差する度に激しいスパークと衝撃波を生み、大地を焼切り砕く。
そして魔法使いの弾かれた魔法は山に大穴を空けた。
もはや、精鋭でも勇者達に近づく事も出来なかった。
だが、魔王には余裕があった。
鬱陶しそうにしていたが、それだけ。
必死さは無い。
そんな魔王に、再び無数の鎖が巻きつけられた。
勇者はいつの間にか退避。
かなり離れてから魔法使いは重力の檻に魔王を閉じ込め、神官は光の檻を魔王の周りに展開、戦士も光の剣を幾つも生み出し魔王の周りに突き刺す。
都市の城門には吹き飛ばされていた司教。
神々しい杖を掲げると、都市中から、いや大地中から光が集まり、魔法陣が完成。
そこから凄まじい光を放つ光線が魔王に向かって放たれる。
魔王は何とか剣で受け、二つに割れた光線は砦の両隣にあった山を完全に吹き飛ばす。
が、その拮抗も一瞬で魔王は吹き飛ばされ、剣も折れ、光線を全身に浴びて消失した。
そして光線は魔王が消失した地点で大爆発を起こし、魔王に燃やされていた地域を大穴に変えた。
その衝撃波が映像にも迫り、そこで映像は消えた。
「これが先代の魔王と勇者との戦いです」
デオベイルさんはそう言うが、俺達は何も言えなかった。
「先代魔王、そして先代勇者はこれでも、歴代の中ではそこまで強くない、それどころか弱い部類であったと言われています」
デオベイルさんは説明を続ける。
これには声を出さない訳にはいかない。
「よ、弱い? これで?」
「はい、魔王の強さは召喚された勇者の数と比例すると言われています。この時、召喚された勇者は映像に映っていた三人のみ。三人の時代はこの時だけではありませんが、三人と言うのは最小人数です。そして勇者も、映像に映っていた軍勢の国、この映像を撮ったケペルベック神国やその周辺国が率先して魔王軍と戦っていた為に、経験を積めなかったと言われています」
そう言われて思わず思考停止に陥りそうになるも、気が付いてしまった。
「……俺達、四十人いる筈ですけど?」
「はい、元々、魔王は現れるまでの期間が長いほど強大になると言われており、前回からおおよそ千年の月日が経過していました。先代魔王が出現までに要した時間は約三百年。単純計算で先代の三倍は強いと言う事になります。この時点で我々だけでの勝利は難しいと考え、皆様をお招きした訳です。三月前、召喚陣を召喚した際、四十人規模だったのは流石に想定外でした。
今回、酷な事を言いますが、我々では皆様を守り切る事は出来ない、力不足である考えられます」
「……そこまで……」
「はい、以前は万が一の予備戦力として勇者の皆様をお招きしていました。前回がそれです。しかし今回は、皆様に縋るしかありません。どうか、この世界をお救い下さい」
そう言ってデオベイルさんが頭を深く下げると、続けて部屋中の人が頭を下げてくる。
そこでやっと、勇者とは何かを自覚させられるのだった。
追伸、次話は本編4周年に合わせて投稿したいと思います。同級生視点は長くなりそうなので一旦切り上げ、原悪、旧神、女神、余裕があれば変人視点を予定しています。その後、登場人物紹介を挟み、次章に移行する予定です。




