閑話 勇者1 異世界転生
俺達は死んだ。
何故死んだのかは覚えていない。
一瞬の事だったと思う。
クラス丸ごと、林間学校のハイキング中、俺達は死んだ。
ハイキングをしていたと言う記憶までしか無い。
皆の記憶がそこまでだったから、間違いは無いだろう。
気が付けばこの白い空のような空間にいた。
クラスメイトの姿はあるが、一緒にハイキングをしていた引率の先生やガイドさん、写真屋さんの姿は無い。
クラスメイトだけが死んだのだろうか?
一体どうして?
もしかして俺達が狙われた?
なら、クラスの皆は俺達に巻き込まれて?
いや、俺だけじゃ無く真理も開星も恵理も一緒にいた。
負けることはあっても、何も気付かずに負ける事は無い。
だとすると、一体何故?
混乱しながらもクラスメイトと情報共有していると、いつの間にか一人の見慣れない少女が立っていた。
人とは思えない程、美しい少女だ。可愛い綺麗と言う次元では無く、美しいとしか思えない、何なら人にも思えない絶世の美女だ。
俺達と変わらない歳のように見えるのに、何故かずっと年齢を重ねているように思える。
自然と脳裏に女神と言う言葉が浮かぶ。
一度そう思うと、女神にしか見えなかった。
「皆さん、私の名はアウラレア。女神と呼ばれる存在です。単刀直入に言います。貴方達は死にました」
衝撃的な筈なのに、誰も声を上げない。
驚き過ぎて何も言えないのでは無い。
すんなりと納得出来たからだ。
皆既に自分の死を自覚し、目の前の少女が女神だと本能的に理解していたからだ。
そしてその二つしか考えられない程、混乱していたからだ。
「ですが、貴方達を受け入れたい、生き返らせたいと言う神々が居ます」
「生き返る事が出来るんですか?」
誰も声を上げられない中、代わりに比較的冷静でいた俺が応える。
「はい、ですがその神々の世界は所謂異世界、生き返れる世界はこの世界ではありません。加えて異世界の神々は勇者として、魔王を倒す戦力として貴方達を求めています。生き返えってもすぐに死ぬかも知れない修羅の道です。勇者としての力は授ける事が出来ますが、私からはそれくらいのサポートしか出来ません」
女神は沈痛な面持ちでそう語る。
女神としてはあまりオススメ出来ないらしい。
「どうか、世界を救うため、異世界に転生してはくれませんか?」
しかし、願うようにそう言った。
オススメ出来なくとも、行って欲しいようだ。
「俺で、良ければ」
俺は即答していた。
修羅の道など慣れている。
「まだ、誰かを救えるのなら」
出来るのなら、やらないと言う選択肢は無い。
「私も」
「俺も」
「私も」
仲間もついて来てくれるようだ。
クラスメイトも、誰も行かない選択肢をするものは居なかった。
「ありがとうございます。では、貴方達に勇者としての力を授けます」
女神は両手で掬うような仕草をすると、そこに光が集まってゆく…
光は複数の球体になり、俺達の方に飛んでくる。
その中の一つの光球は俺の身体に触れたかと思うと、光は俺の身体に衝突することなく透き通り、また戻ってきて同じく透き通るのを繰り返し、加速し、やがて光輪となり縮小し、俺の中に溶け込んでいった。
自分が大きくなったような、不思議な感じだ。
「申し訳ありませんが、時間が無いようです。異世界にゲートが、召喚陣が展開されました。少人数なら兎も角、大人数用の召喚陣は長くは持ちません」
女神がそう言うと、空間全体が明るくなった。
足元には巨大で緻密な幾何学模様が、光で画かれた魔法陣が展開されていた。
魔法陣と同じ光が、俺達からも出始める。
「では、貴方達に祝福を。どうか、世界を救ってください」
その女神の言葉を最後に、俺の意識は途切れた。
《神藤優助の転生が完了しました。これよりステータスを有効化します。
ステータスの有効化が完了しました。
名前の表記をユウスケ=シンドウに変更します。
転生の女神アウラレアの介入により、ギフト〈全身全霊〉を獲得しました。
スキル〈鑑定〉〈アイテムボックス〉を獲得しました》
気が付くと、神殿のような場所に居た。
周りにはギリシャに有りそうな柱。
ここは四段の階段に囲まれた祭壇。
魔法陣の光が収まると、階段の上から見慣れぬ格好の人々がやって来た。
黒や白のローブに長い飾り気の多い杖を持った人々だ。神官や魔術師のように見えるが、その格好は統一されていない。
その中から進み出て来たのは、場違いな人物。
執事だ。
姿も雰囲気も執事。
「お待ちしておりました。異世界の勇者よ。まずは深い感謝を。我らの召喚に応じて頂き、誠にありがとうございます」
執事の一礼に従って、ローブ姿の人達も一斉に頭を下げる。
うん、執事だ。
所作も言葉遣いも執事。
「私は、勇者軍総統デオベイル・デューク・フォン・シェルトベインと申します。まだ混乱している事でしょう。まずは、広間にご案内します。詳しい話は食事をしながらに致しましょう」
俺は、転生云々よりも貴方の姿に混乱しているのだが、兎も角執事、デオベイルさんに案内され、俺達は広間に向かうのだった。
広間には早くも、俺達に異世界に来たと意識させるものがあった。
ドラゴンの首だ。
赤く巨大なドラゴンの首。
その周りには魚の活造りのように、ステーキが並べてある。
食事のメインディッシュはドラゴンらしい。
何も言われなくとも、異世界に来たと疑う余地が無くなった。
唖然と眺めている間に、いつの間にか席に案内され座る。
「これは我らからのせめてもの贈り物。どうぞ、御賞味ください」
デオベイルさんにそう促され、まだ唖然としながらも、ドラゴンステーキを口に運ぶ。
「「旨っ!?」」
思わず声を上げてしまった。
しかし何人かの声と重なる。
やはり声を出してしまうほど旨いと言うのは、俺だけの話では無かったらしい。
「喜んで頂けたようで、何よりです」
豪華な食事会でマナー違反かと思ったが、デオベイルさんは優しく笑う。
いつの間にか、皿を覆っていたステーキは消えていた。
ものすごい勢いで平らげてしまったらしい。
どんな味かと聞かれると、食べた事がない味としか答えようが無いが、兎も角美味かった。
まだ死んでいるのでは無いかと、錯覚してしまうくらいだ。
「さて、お食事が済んだところで、今の状況をご説明させて頂きます」
そして、真面目な話が始まった。
次話は書き上がれば明日投稿したいと思います。




