閑話 神々4 神々をも凌駕するボッチ力
すみません。遅くなりました。
確信を覆された事で一瞬時が止まる神界。
「……えっ、いやしかし、旧神は初代魔王との因縁から、討伐の褒美として称号を渡すのは解りますが、露出教は一体どこから?」
「やはりそこは、貴殿が関わっていなければ不可能なのでは?」
今度こそ異世界ジョークかと、困惑しながらもフィーデルクスの神々は問う。
だが、神々の困惑は解消しなかった。
「それはその勇者が魔王と戦った時、全裸だったからです。それで露出教の目に止まったようですね」
寧ろ神々の困惑は深まる。
大真面目に嘘の欠片も笑いの欠片も無く真摯に語るアウラレアに、そして更に冗談にしか聞こえない答えに、神々の時は再び止まった。
「……勇者とは言えど、全裸でどうやって魔王を倒したと?」
「そうです! 聖剣はおろか武器の一つもなしに討伐したなど、到底思えません!」
「聖属性の魔力を用いたようです」
アウラレアに冗談の証拠、である筈の事象を投げ掛けても返ってくるより深い謎。
アウラレアの返答はまるで別の話をしているかの様に、話が噛み合わない、一言で言えば常識からかけ離れていた。
「魔術を用いたにしろ、杖や媒体がなければ魔王に傷も付けられない筈!」
「魔法の才能を持ち合わせていたようでして」
それが紛れも無い事実であるのに、適当な事を言っているようにしか神々には聞こえなかった。
「では、元々強大な力を所持している勇者を送り込んで頂いたと言う事ですか?」
「やはり、露出教と関係が有るのでは?」
「私と露出教には一切接点が有りません。そして勇者はただのボッチです。魔法はこちらに召喚されて初めてその実在を知ったぐらい初心者です。そして私と露出教には一切の関係が有りません」
「そんな初心者が魔王を倒したと?」
「はい、成り行きのようです」
「「「成り行き……」」」
何度フィーデルクスの神々が問おうが、求める答えには到らない。
それどころか求めぬ答えが明らかになる。
アウラレアは真摯に対応していたが、裁判や真実、もしくは嘘に関する権能を有する神々は思わず真実鑑定の権能を発動した。
しかしそれで判明したのは驚愕の事実。
アウラレアが真実を言っていると言う事だ。
真実を見透す神器、例えば天秤は権能を用いていない神々にもその結果を明らかにし、神々の混乱を更に極めた。
が、神々も諦めない。
と言うよりも未だ真実だと認める事が出来ない。
しかし嘘は言っていない。
そこで神々はアウラレアの認識自体に勘違いがあったのでは無いかと、詳しく事情を聞き出す。
「そもそも、どのように魔王との接触を? かの邪神、初代魔王が封印されたとされる地は、正確には伝わっていません。霊峰フィーデルにて封印されたとは伝わっていますが、巨大な山の何処に封印されたのかなど、誰も知りません。如何に強大な邪神の封印だとしても、霊峰全域を用い霊峰の何処からでも接触可能な筈が有りません。何処からでも接触可能、それは即ち霊峰の何処からでも封印を解けると言う事になりますから、鍵穴のように一箇所からしか開けないようになっていた筈です」
「温泉を掘っていたら偶然掘り当てたようです。これが魔王討伐時全裸だった理由でもあります」
「「「お、温泉……」」」
これまた思わず口を閉ざしてしまった神々だったが、同時に確信した。
そんな訳無いと。
やはりアウラレアは勘違い、もしくは誤認させられており、真相は違うと。
この世界に詳しくない異世界の女神は騙されてしまったのだろうと。
そして魔王が関わっている以上、黒幕はこちらに悪意を持っている存在だろうと。
そんな事実は一切無い。
だが、神々は確信していた。
「その勇者は、何故一人だけ霊峰フィーデルに?」
「ボッチ過ぎたようでして、召喚が誰も居ない地に引き寄せられてしまいました」
改めて神々は確信した。
異世界の女神アウラレアは真実だと思っているが、この魔王討伐には何か裏があると。
異世界の女神は何者かに図られ、利用されていると。
件の勇者の様子を見に行くとアウラレアが去るまで何重にも同じ事を、より詳細に事細かく聞き続けた神々は断定した。
異世界の女神アウラレアは何者かに図られており、語られた事は真相ではないと。
裏には何かがあると。
しかしこうも信じられぬ事ばかりが語られると、反対に真実だと捉える神々もいた。
「もしや、復活した初代魔王とやらが、我らが想像よりも遥かに弱かったなどと言う事はないか?」
「仮にそうだとしても、勇者が一人だけ別の場所に召喚さらたと言う時点で有り得ぬ事態」
「うむ、だが魔王が弱かったと言う事は有り得るかも知れん」
「確かに、あそこまで荒唐無稽の話、この世界に疎い異世界の女神でも信じられる話では無い。一部でも真実が混じっていたと考える方が自然だ」
「仮に初代魔王が弱かったとすると、黒幕は何になる? 今代の魔王は同じ魔王だからと言って、太古の魔王の封印場所を正確には知らない筈だ。最も力を持つ脅威でも初代魔王に関してはこの程度、他の脅威でも役不足だ。ならばやはり、初代魔王が自ら死を偽装したと考えるのが自然ではないか?」
「兎も角、まず大前提にある確かな事実は、勇者が一人だけ別の地に召喚された、これが何者かの手によるものだと言う事です。他は幾つかの可能性が考えられますが、勇者召喚の狂いは、それも初代魔王封印の地に召喚されたのは手を加えられなければ有り得ない事です。最低でもそれが出来る存在で無ければ黒幕にはなり得ません」
「勇者召喚術の書き換え、我ら神々でも自由にならぬ術式に干渉、それも召喚地点を正確に書き換えたとなると、最低でも亜神相当の力があるという事か」
「やはり最も可能性が高いのは、初代魔王がそれだけ強力な存在だと言う答えでは? 我ら神々からしても神話に語られる邪神の力、何が出来ても不思議ではありません」
「異世界の女神だけでは無い。称号からすると、その神話の旧神達をも、それに加え露出教も欺いている事になる。相討ちになった旧神を誤魔化す事は出来まい」
「仮に大昔に復活し、かつて以上の力を蓄えていたとしたら、そもそも小賢しい偽装は必要無い。直接正面から蹂躙できる」
「勇者が強かったと言う可能性は? 【世界最強】の称号を得ているのですから、これが真実だとすると辻褄が合うのでは?」
「例え勇者が強かろうと、知りもせん地にピンポイントで召喚され無い筈だ。明らかな作為を感じる」
神々は口々に真実を考察し合うが、話せば話す程に混乱は深まり、神々の考察はまとまるどころか増える一方だった。
それも当然である。
真実は、アウラレアの話した通り、それ以外には存在しないのだから。
結局、神々の考えはまとまらず、其々の神は別々に動く事となった。
ある程度意見を同じにする神々は集まっても、その集まりの数は一つ二つでは無く派閥と言う規模も生じ無い。
元々連帯感のない生まれながらの神と人に信仰が集まり生じたケペルベックの神々だったが、その中でも意見は無数に分裂した。
幸いなのは、危機感を持った神々が多かった事だが、その方向性は様々。
そんな神々の別々の神託は、地上に届き、また地上で同様の混乱の連鎖をもたらす事になる。
次話もゴールデンウィーク中に投稿したいと思います。




