閑話 神々3 ボッチの名声(称号)
「異世界の女神よ、貴女が我々の緊張を解そうとしてくれている事には感謝する。しかし、気遣いは無用」
変な空気になる神界。
神々は当然異世界の女神アウラレアの言葉を冗談だと理解していたが、深刻に捉える神々も、そして楽観視している神々もこの場でその冗談は無いと思った。
「して、我らは我が子らを信じて見守ればいいだけの事」
「然り然り、万が一があっても神器を授ければ事足りましょうぞ」
「うむ、魔王の力を見誤り、過剰な干渉を地上に加えては、人の子同士の災禍にもなりかねん」
「否、魔王が我らを凌駕がしているならば、干渉しなければ人界は終わる。我らも総力を以て対応すべきだ」
神々は異世界ジョークは分からんと思いつつも、議論を再開する。
「あの〜、本当なんですが?」
自分は空気を読めない事をしている、と思われているだろうと自覚しているアウラレアは、控えめに、かつこの場からしたら大胆に話しかける。
対して一瞥しつつもそれ以上はしないフィーデルクスの神々。
やはり異世界のノリは難しいと思い、スルーする事にした、と言うよりもそれしか出来なかったらしい。
様子は伺いつつも、アウラレアに応える事はしない。
「私の勇者が、魔王を倒したそうなんですが?」
尚も懸命に話しかけるアウラレア。
しかし言葉は返って来ない。
こんな時ばかりはフィーデルクスの神々も一致団結していた。
尚も様子だけを伺って魔王について議論を続ける。
「本当ですから」
そう言うアウラレアにも、早くも諦めの色が、徒労感のような疲れが滲んて来る。
冗談にしか聞こえない事を、誰よりもアウラレアが理解していた。
悟られない様にこの場を抜け出していたのに、そんな事がどうでも良くなる程、アウラレア自身も知った時は驚いた。
何の冗談だと、アウラレア自身もボッチには冗談のセンスが無いとしか初めは思わなかった。冗談だと微塵も疑わなかった。
論よりも証拠と、まあその論にも到って無いが……、兎も角、女神は説得材料を見せた。
称号:【異世界転生者】【異世界勇者】【複数の世界を知る者】【世界最強】【孤高】【勇者】【全裸の勇者】【湯の勇者】【原悪を打ち滅ぼしし者】【露出教名誉司教】【旧神の後継】
それはボッチのステータス。
その称号。
称号は一言でその人物の軌跡を表すものだ。
そして称号はステータスの中で最も鑑定がし易い。
紹介する為のもの、ある種知らしめるものこそが称号だからだ。
強力な称号では、隠そうとしない限り鑑定しなくとも、何となく相手が何者なのか伝わる程、外に出やすい。
つまり、証拠として簡単に確認出来る。
神々の力が有れば、特殊な権能が無くとも容易に知ることが可能だ。
「これがその勇者の称号です。信じられないようでしたら、彼処に居ますので確認してみて下さい」
そう言ってアウラレアは、フィーデルクスを見渡せる神界からボッチを指し示した。
しかし神々からの反応は遅い。
理由は二つ。
一つは急に冗談では無くなり混乱している事。
もう一つは―――
「……異界の女神よ。すまぬがデルクス大陸の中央にまで権能外の鑑定が出来る神はこの中には居ない。彼の地に我らへの信仰は皆無だからだ。信者の居る地から遠すぎる」
神の力が届かず確かめようが無いからだ。
しかし、話は変わった。
「【世界最強】、この称号が有るならば魔王を倒したのも納得だ」
「【フィーデルクスの勇者】では無く【勇者】、つまり真なる勇者。ならば魔王も倒せるだろう」
「【全裸の勇者】に【露出教名誉司教】、あの頭のおかしい連中との関わりも見える」
「腑に落ちんが、露出教の実力は確かだ。その名誉とは言え司教、力の源流も推測出来るとなると、否定材料の方が少ない」
「更には【旧神の後継】、旧神の力を継ぐ使徒ならば、神代に封印された魔王を倒していても何ら不思議はない」
「しかし何故今になって旧神の使徒が? 姿を消してから既に六千年だ」
「そも露出教徒で旧神の使徒とは一体?」
「露出教の神は大神殿でも祀られておりませぬ。故に見えた事が無いだけかも知れませぬが、もしや旧神が露出教の神だったのでは?」
「否、全く以て腑に落ちんが、何故か、彼の者達は数多の世界に存在する。この世界の神では無い」
「数多の世界に存在する、露出教の戯言かと思っていたが、真実なのか……一体何故?」
「何でも主神は世界神の一柱らしい」
「…………」
「【複数の世界を知る者】、もしやこの勇者は他の世界を救った事のある遍歴の勇者では? それならば数多の世界に存在する露出教との関わりがあっても何ら不思議ではありません」
何故か話題は露出教の方へと逸れつつあったが、皆一様に信じていた。
そんな中、アウラレアだけは緊張し、静かに冷や汗を流していた。
そして恐れていた事が現実となる。
「【原悪を打ち滅ぼしし者】、【原悪】とは一体?」
「各々話を止め、先ずはアウラレア殿の話を聞こう」
それは説明だ。
何故ならば真実は魔王を滅ぼしたと言う事実よりも現実味が無い。
真実は小説よりも奇なりとは言うが、奇にも程がある。
太古の神の後継者だとか、他の世界も救った事のある遍歴の勇者だとか言った方が、物語的でも数十倍は真実味があるだろう。
アウラレアは慎重に、信じられる言葉を選んで説明する。
「【原悪】とは今回私の勇者が倒した【原悪の魔王】の事であり、この魔王はかつて封印された初代魔王ディオネルザオルの事だそうです」
「【原悪の魔王】ディオネルザオル、それは神話に語られる【原悪の邪神】ディオネルザオルの事では?」
「鑑定によるとそう出て来ました。その認識で間違い無いと思います」
この情報は魔王討伐と討伐した勇者の存在に確証に近い真実味を加えた。
点と点が偶然にも重なる。
「【旧神の後継】たる勇者が倒したのは初代魔王たる【原悪の魔王】。もはや疑う余地もあるまい」
「太古の神々は神話の決着を悠久の時を越えて成し遂げたと言う訳か!」
「万が一にも魔王に手が出せない異世界に、露出教に使徒を送り込んでいたと言う事ですな」
勝手に点は線となり、神々は混乱から立ち直り、真相を作り出す。
そんな光景を見て、アウラレアは内心安堵していた。
自主的に納得してくれたし、魔王の復活と討伐と言う事実さえ説明出来れば、何処にも迷惑をかける事は無い。
つまり、真実を言わなくても何とかなる、とアウラレアは思ったからだ。
しかし、流れは神々が点とアウラレアまでも繋げてしまった事で瞬時に変わる。
「即ちアウラレア殿は露出教の女神だったのですな!」
「異世界の女神改め露出教の女神アウラレアよ。貴女に感謝を!」
どこをどう解釈したのかは解らないが、理由は何にしろそれはアウラレアに許容出来る内容では無かった。
「いえ、あの勇者は旧神とも露出教とも縁もゆかりも無かっただのボッチです。称号は魔王を討伐し気に入られた結果として得たもので、元々持っていたものではありません」
気が付けば、いつの間にか暴露しているのであった。
次話はゴールデンウィーク内に投稿したいと思います。




