閑話 神々2 ケペルベックの神々
ゴールデンウィーク投稿です。
神域は沈黙から一転、大騒ぎへと転じた。
「魔王の気配が消えたとは一体?」
混乱の内に、心配へと落ち着かせたアウラレアが神々に問う。
「……言葉通りです。新たに現れた魔王の気配が、消えてしまいました」
「こんな事は有り得ない。我ら神々から逃れる魔王など……」
「我らをも、上回っているとでも言うのか……」
「我らが子らは、ディゲルアヌス一柱に苦戦していると言うのに……」
神々はアウラレアに返答するが、その声音はどこか指向性の無い、自らに向ける独白のようなものだった。
そんな神域に、新たな神々の一団が現れた。
「神域が騒がしいと思えば、何の騒ぎだ?」
彼は【神帝】ケペル・オストロ・ロード・ケペルベック。
神帝と言っても実際に神々の長と言う訳ではなく、大帝国ケペルベックにて神格され、神々の長と造られた神話で語られるようになった、皇帝信仰により誕生したケペルベック初代皇帝、かつてケペル王と呼ばれた神物だ。
「教えていただきたい」
王としての歴史も、過装飾によって飾られ真実は歴史の底へと沈んだかの神は、神の中核となったケペル王本来の性格、人徳により国を造った温和な性格と、神の力の中核である信仰、絶対なる王として後付けされた傲慢とも言える性質を持つ。
その絶対なる王としての性質、魔王など取るに足らないと言う態度により、先程までは現れなかったが、いよいよ深刻だと重い腰を上げて来た。
そんなケペル王に、神々はアウラレアに話した事と似た情報を共有する。
ケペル王、そして彼に率いられた神々は比較的新しい神、異世界の女神アウラレアと同じく、過去の魔王と比較した事は知らない。
そしてやはり復活した魔王ではない事を知って驚く。
更に対魔王の神格を持つ神でも探知出来なくなった事実に。
しかし、全員では無かった。
「お歴々、何を憂いておる。魔王如き、如何に増えようとも所詮亜神、我ら神の成り損ないの混ざりモノ。地上で対処出来なければ我らが救済すればいいだけの事」
「然り然り、人間にとって脅威でも、我らにとっては赤子も同然。我らが騒ぐ事では有りませぬ」
「現に、歴代の魔王は人間に倒されておりまする。まあ、歴史あるだけの方々には、荷が重いかも知れませんがな」
そう言う彼らもケペル王と同じく、皇帝信仰、帝国信仰の中で誕生した、実在した人物の魂を核にした神。
例えば初めに発言したのは【ナスナエルの軍神】ゲヌマンヌ・ドゥ・ロード・ナスナエル。
彼はナスナエル戦役と呼ばれる大戦において、敵方の切り札である人造魔精霊を打倒し、百年に渡る大戦を集結に導いたとされている。
しかし、これは後世に造られた歴史。
実際はその時たまたま将軍の地位にいただけであり、部下の功績のみによってその歴史は造られている。
その将軍の地位も世襲によって手に入れたもので、彼自身には軍才の欠片も無かった。
ただのお飾り将軍だ。
そんな彼は、信仰によって軍神の神格を得るも、中身との乖離から使いこなせていなかった。
これまた、軍神の地位にいるだけの男だ。
そしてその性格も変質しなかった。
歴史を誇張し過ぎた為に、一人で勝利したと言う話が大きくなり、それをもたらす英雄の決断力、唯我独尊とも言える性質と本来の傲慢な性格との乖離が少なかった為だ。
結果として、ただただ傲慢な、地位しか無い神がゲヌマンヌだ。
彼は自分なら何でも出来ると信じて疑わない。
他のニ柱も同様に、偽りの歴史、後の信仰によって生まれた、傲慢貴族の典型が制御も出来ない力だけを手に入れた神である。
そんな彼らは現状をまるで把握していなかった。
そして質の悪い事に、まともでも生前ゲヌマンヌ達の伝説を信じて疑わず神に至った者達は、ケペルベックの神々の大半だ。
そんな神々は彼らに同調している。
「最悪、我らが力を貸すだけで事足りましょう。まあ、我らがケペルベックの子らに、そんな手助けは必要無いでしょうがな」
ケペルベックの神々は、魔王を大した脅威だとは思ってもいなかった。
「左様。そも我らが子らは常に発展して来た。我が生前と比べ都市や田畑は増え拡がり、城壁は厚く軍はより精強だ。人口は倍どころか桁が違う。我が時代ですら勇者の力も無く魔王討伐を成せたのだ。過去、如何に苦戦しようとも、今の子らに心配は無用だ」
伝説と実際の武功に乖離の少ない【智略の神】ゼルベックもそう言う。
自らを過信している神は兎も角、このゼルベックの言葉は正しかった。
数値的にはそうだ。
彼らの生前と比べ、多くの土地が開拓され、人口も田畑も街も激増している。
S級やA級戦力の数もそれに伴って倍以上に増えている。
彼らが魔王と戦った時代よりも、人類の戦力は格段に上昇していた。
実のところ、論理的には魔王軽視の方が正しかった。
しかし、現実には古き神々の方が正しい。
神に至った人間であるケペルベックの神々は神の力を過小評価しているからだ。
フィーデルクスの神々は司るものがそれぞれ違うように、決して全知全能では無い。
が、司るものに関しては旧神に及ばなくとも、司ると言うよりもそのものと言える程の力が、かなり限定的であってもその分野に関しては、特に感知する事に関しては全知全能に近い力が扱える。
例えば雨の神ならどこにどれだけの雨が降っているか、これからどこにどれだけの雨が降るのか十全に判る。
かの神こそが雨なのだから、それを知るのは自分がどこで何をしているのか、それを理解するのと変わらない。
元人間と言う形を持つ為、力そのものに成りきれないケペルベックの神々は中途半端だが、純粋な信仰によって生じた神々の場合はそうだ。
つまり元は人であるケペルベックの神々は神々にも限界があって当然と考え過小評価しているが、現実の神々の力はそれよりも遥かに大きい。
対魔王の神格を持つ神が魔王を感知出来ないなど、本来は有り得ないのだ。
それこそ、その神々を遥かに凌駕する力を保持していないと、本来は起こり得ない。
そして魔王の力についても間違っている。
魔王は神々が推測するように亜神だ。
人々の負の感情を信仰として生じる亜神。
故に、その力は信仰が大きい程、つまり人口や魔王が生じるまでの期間が長い程、強大になる。
つまり、過去との比較は宛にならない。
どの時代に対しても確かな脅威として君臨する。
それをケペルベックの神々は、更には他の神々の一部も知らなかった。
考えるまでも無く力そのもの、それがフィーデルクス神々であるから神々も自身の力について深く考えた事は無かった。
全て感覚に過ぎない。
ゼルベックに理論立って言われると、納得してしまう神々が多かった。
そんな所に、いつの間にか隠れるようにこの場から姿を消していたアウラレアが現れ、告げた。
「あの〜、件の魔王は、その、私の勇者が討伐したそうです」
次話は明日か、明後日に投稿したいと思います。




