閑話 貴人3 激動を加速する世界
突然の報告に、比喩では無く本当に頭が痛くなり、思わず頭を抱えた。
「……皆様、今お聞きの通りです。タイミングからして、これも魔王軍の仕業でしょう」
魔族の軍を目撃したのではなく、魔族単体を目撃しただけだが、まず間違いなく封印を解いたのはその魔族と見て良い。
隣接するケペルベック後継国三国は、宣戦布告したとの報告があったように、非常に仲が悪い。どの国も大帝国ケペルベックの再興を史上に掲げ、その正当性を断言し続けている。
しかしその戦に利用する為に、【血悪の魔鬼】ジャバルダの封印が解かれたことは、歴史上一度も無かった。
それだけ危険であり、それだけ厳重に封印されていたからだ。
この封印を解こうものなら、結局都市を墜とすだけの戦力が必要になる。人にとっては意味がマイナスしか無い封印と言える。
十中八九、その目撃された魔族の仕業と考えて間違い無い。
問題はその後。
「進軍が速すぎる。まさかとは思うが、パリオン王国は魔王と手を組んだのか?」
『いや、古都リーンベックはかつての神国の首都、今でもかの国では五本の指に入る大都市。例え魔族であろうとも、その中心の城のような神殿に封印されたジャバルダを簡単に解放出来るとは考え難い。壊滅させてからの解放なら分かるが、これは手際が良過ぎる』
『内部に内通者がいた可能性が高いと言う事か』
『しかし、タイミングを合わせ王国が進軍したのも確か。少なくとも、その情報を事前に知らなくては出来る事ではない』
最大の問題は、列強が魔王と手を組んだのか否か。
「これは、また動きを変えねばなりませんね」
真相が何であれ、我々はより慎重に動かなければならなくなった。
「神国は【血悪の魔鬼】ジャバルダの対処に戦略級の戦力を投入するでしょう。そうなれば、戦場に向かうかも知れない戦略級戦力に対抗し、王国も同等の戦力を投入するでしょう」
「大問題じゃな。ジャバルダを倒そうにも、消耗した隙きを王国に突かれるかも知れず動けない。それに備え神国は大戦力を投入、神国もそれに対抗と、最悪の場合は全面戦争になる。漁夫の利を狙った帝国が動く可能性も高いじゃろう」
『両国が動く前に、我々が動くしか無さそうですね』
「しかし、我々の介入も脅威と判断される可能性があります。こちらも、相手が動けないような大戦力を投入する必要があります」
残念だが、四十人目の勇者捜索は後回しにするしか無い。
これに対処しなければ、人類の危機に直結する。
「致し方ありません。四十人目の勇者は、この問題が解決するまで消極的捜索に留めましょう。オルゴン様、引き続き魔術による遠隔探知を定期的にお願いします」
「任せい。一日一回は確実に、余力を残して可能じゃ」
「アシュトン、全冒険者に四十人目の勇者の捜索を依頼します。有益な情報を得た段階で依頼料をお支払いします。同時にいずれ行う調査の為、デルクス大陸の魔物の買取価格を勇者軍から上乗せします」
「おう、その依頼、確かに受け取った。聞いてのとおりだ! 全支部に依頼を通達しろ!」
『『はい!』』
冒険者ギルドグランドマスターにして、現役のS級冒険者でもある【昇軍】のアシュトンが魔道具越しに部下に号令を出した。
「次にジャバルダへの対応ですが、まずはジャバルダの力からお伝えします」
「はい、それでは私から」
本来は学者だが臨時で勇者軍の情報官を努めてくれているオルゴン様の弟子達が、大量の資料、古文書などを持って続々と部屋に入ってくる。
「【血悪の魔鬼】ジャバルダは、悪魔と契約しその身に宿した吸血鬼です。正確には、邪教団が高位吸血鬼の遺体を触媒に悪魔を降ろし受肉させた存在であると古文書にはあります。その為、悪魔と吸血鬼、そしてアンデッドの特徴を持つとの事。しかし聖属性に弱いと言う以外は、個々の弱点を持っていないようです。昼夜の区別無く暴れていたとあります」
「能力としては再生能力が非常に強く、首を斬っても心臓を貫いても止まる事が無かったようです。また血を吸う事で生命力や魔力を吸収し、常に魔術を連発していたようです。そして姿形は自由自在で、遺体に一部を侵入させる事で、アンデッドの軍勢を作り出したと記録されています」
「当時の戦闘記録によると、一般兵は傷一つ与えられずに養分に、聖騎士団は死力を尽くして街を半壊させる激戦を繰り広げ、団長が心臓を貫くも致命傷にはならず壊滅、その後は周辺都市から軍を派兵するもこれも壊滅、周辺都市にいた神を降ろせる聖女による捨て身の封印でやっと封じたそうです」
「以上の記録から、不死性が最大の武器である敵であると推定されます。攻撃も高度な魔術を放ったと有りますが、目撃者の手記から、強大でもA級冒険者の使える魔術の範囲であったと考えられます。一撃で正規軍を壊滅させるような攻撃手段の記録は確認出来ませんでした。A級盾職の力が有れば全力の魔術でも数発防ぎきれたと考えられます。A級戦力も所属していた聖騎士団の敗因は持久戦による消耗、魔力切れなどの要因によるところが大きいと思われます」
そう言うと、彼等は軽く会釈をした。
報告はここまでらしい。
よくこの短時間でここまで調べ上げてくれたものだ。
「ありがとうございます。再生特化型のようですね。それも弱点の無い。ここは聖属性の使い手か、再生出来ないよう一撃で塵に出来る技の持ち主が適任ですね」
「そうで無くとも周りに魔力源、人々がいなければどのS級冒険者でも勝てる相手だろう。時間はかかるだろうがな」
「やはり、戦争回避も含め、余計な兵をジャバルダ討伐に向かわせない事の方が重要ですね。その為には、政治的にも相手を抑止出来る方に行っていただく事が確実です。ダムス様、行っていただけますか?」
『おう、任せい!』
ダムス翁は守りの最高峰。
武術魔術共に、防ぐ受け止める力は世界一だと言われている。
武技も使わずにA級冒険者の攻撃も防いでしまわれる方だ。
攻撃力が特出していないジャバルダ相手なら、持久戦になっても勝ち切ってくれるだろう。
そして世界最高のゴールドスミスである彼は。列挙にも資金を貸している。国個人、どちらにも貸している為、その影響力は大きい。
彼の意見は、そう簡単に無視出来るものでは無い。
後は念の為に、二人ほど派遣すれば万全だろう。
そう思っていると、再び扉がバンと開かれ、伝令員が駆け込んで来た。
「ケペルベック神国のS級冒険者【星槍】のフロムレンがジャバルダと交戦! 余波でパリオン王国軍に甚大な被害あり! パリオン王国は【星剣】のジェスタン将軍が率いる軍を動かしました!」
一足遅かったらしい。
そしてS級戦力の動きが速すぎる。
数少ないS級戦力が周辺に二人もいた。
これは確実に誰かが裏にいると見て間違い無い。
「致し方ありません。オルゴン様、クライシェ様とこのメリアヘム、そして勇者達をお願いします。私も出陣します」
次話は明日投稿できる、と思います。
 




