ボッチ41 ボッチの選択
成人の日と言う口実があったので、投稿しました。
《ステータスを更新します。
アクティブスキル〈風属性魔法〉〈無詠唱〉〈探知魔法〉のレベルが3から4に上昇しました。》
周辺探知をしてから、諦めることなく人里を探して探知をし続けていたが、探知出来た範囲に人里は存在しなかった。
逆に分かったのは、魔物が思いの外多い事くらいだ。
仮に大陸沿岸へ向かうとして、確実に魔物と遭遇する事になるだろう。
進めるどころか、ほとんどが城を築いたとしても次の日まで持たないであろう危険地帯だ。
疎らに魔物の存在しない場所も存在するが、その数は少なく、道のように長くは続いていない。
安全に外まで抜けられる道は皆無だ。
空にまで魔物が飛び交っている。
ファンタジー世界らしく、空島も複数発見したが、神秘的な見かけによらず、中にはしっかりと魔物が巣食っていた。
地上と比べれば何倍も魔物の密度は小さく、比較的安全では有りそうだが、あくまでも比較的でしか無い。
音速を超えて飛ぶ飛行機でも大して進めず瓦礫になるだろう。
現実をはっきりと知ってしまうと、本当にどうすれば良いのか分からなくなる。
外を目指すべきか、本格的にスローライフを目指すべきか。
女神様に散々ボッチ脱却を目指せと、諦めるなと言われてきたが、現実問題人里への壁は予想以上に大きい。
そもそも探知出来た半径五百キロの距離だって、歩いて行けばそれだけで大旅だ。
旅行と言うよりも旅と言う言葉がしっくり来る距離だ。
各々出せる力の限りを尽くして襷を繋ぐ駅伝だって、五百キロは走っていないだろう。
魔物を含めた障害物に溢れているどころか、道すら無い未開の土地で、地図もなく五百キロ先に進むのにどれだけの時間が必要なのか、想像すら出来ない。
人里に出るには、女神様の言う通り空間属性魔法が必要だろう。
それくらいしか手がない。
だが、その魔法がどこまでのものか、それによっても答えは変わる。
よくゲームやライトノベルにある、行ったことのある場所に転移する魔法。
多くのゲームで必須とも言える便利魔法便利設定であるが、ここではそれも意味を成さない。
行ったことのある場所なんて、この世界ではここから目視出来る程度の範囲だ。
それも自転車が有っても使わないような距離。
そんな距離を転移出来ても意味が無い。
その程度の無駄魔法と化してしまう。
だから行ったことの無い場所にも転移出来る魔法が必要となるが、冷静に考えてかなり望み薄だろう。
行き先を決めなければランダムに転移させる魔法になる。
そんな危ない魔法は当然使えない。
だからと言って、知らない場所は、知らないのだから目的地になど出来ない。
知らない場所をどうやって指定するのだ?
そう考えると、人里へ行く行かない以前に、行けない。
転移しか進む手段が無いのに、それが出来なくては人里に行く方法が無い。
いや、仮定の話は止めよう。
使い手がいるのか怪しい変な魔法が盛り沢山の魔導書、もしかしたら人里に転移する魔法とかがあるかも知れない。
まずは空間属性魔法を覚えてから。
選択はそれからでも問題無い。
どの道を選択するにしても、空間属性魔法を覚えるまでは決定事項として良いだろう。
『ふふ、少しは前向きになったようですね』
突然現れ、そう微笑む女神様の顔は若干色付いていた。
きっと、俺が女神様の言動の事を、背中を押してくれたと捉えていた、そう知ったからだろう。
そして俺の感じていたものは、正しかったようだ。
何だかんだで、女神様は背中を押してくれていた。
しかし一言、言わせて欲しい。
いや、言わせないで欲しい。
「……あの、俺、お花摘み中なんですけど?」
女神様を退けさせ、さっさと済ましてから、抗議する。
「最低限のプライバシーは守ってくださいよ!」
神とはどうか見守ってくれと祈られ、人々を見守る存在なのかも知れないが、それにしたって限度があると思う。
『トイレ中に大切な進路を考えるのもどうかと思いますが?』
「うっ、ぜ、絶対的な個人空間だから、自分自身の考えがまとまるんですよ!」
『既にボッチ秘境、他社の干渉を受けない場所にいますが?』
「く、癖はそう抜けないんです!」
確かに周りに人は居ないし、このトイレも和式便器だけで個室は無いが、習慣と言う刷り込まれたものは変わらない。
「と言うか、俺が口を濁してお花摘みって言ってるのに、何で女神様がトイレってストレートに言うんですか!?」
『トイレ、それは生命の営み、命の循環の一つです。どこに忌避する必要があるのでしょうか?』
返せない筈の論点にすり替えたのに、何故か俺の方が返せなかった。
女神様と言う存在に言われると、品と言うものも卑しく感じてしまう……。
「ト、トイレの中でも和式ですよ和式! 女神様だって見たくは無いでしょう!?」
『はい、ですが貴方は大きな選択をしようとしていました。どんな状況であれ、見守るのが神と言うものです』
女神様の表情から、本当に背中を押してくれていたと気が付いた事もあって、何故か俺の方が悪い事をした気分になってくる……。
いやいやいや、俺はトイレを覗かれた被害者!
『それに、残念ながら貴方の裸には慣れてしまいましたし、今更です』
「…………」
『貴方も、慣れているじゃないですか? さっきは全裸である事に気が付いていませんでしたし』
「いや、それは、他に意識が取られる事があったからで……」
『見栄も張らなくなりましたし』
「見栄?」
覚えの無い事に聞き返すも、その意を、女神様の斜め下に向ける視線で気が付いてしまった。
それは容赦無い追い打ち。
カンカンカンカンッ!!
俺の心の中にゴングが響き渡った。
敗北を告げるゴングだ。
今俺の心は、色々な意味でノックアウトした。
「…………うわぁぁぁん!!」
いつの間にか暗くなって来た夕暮れ時。
『あっ、ちょっ! 話にまだ入っても!!』
困難や危険が待ち受けていても人里を目指そう、諦めないでいようと決めた俺は、引き篭もっていると言ってもいいボッチ秘境にいる中、更にテントに駆け込み、ベットの中に引き篭もったのだった。
ここで、この章は終わりです。
次話は節分以降に投稿したいと思います。




