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ボッチ40 ボッチはボッチを再確認する

 


 完全に昇った太陽を見て、気が付いたことがある。


 起きてすぐに温泉に入って、朝食がまだだった。

 もう時間帯はすっかり朝と昼の間だ。


 流石にそろそろ温泉を出て朝食、いや朝食兼昼食にしよう。


 温泉を操作し、身体から引き離しながら上がる。

 拭かなくても一瞬で乾いた。

 タオルが必要ない、つくづく魔法は便利だ。


 さて、後は着替えてと……。


 ……そう言えば、まともな二着はもう着てしまっていた。

 洗わなくては。

 特に温泉に入るまで着ていた服はドロドロだ。


 洗濯魔法でもないか?


 そう思っていると例のごとく魔導書が現れた。

 当たり前のように洗濯魔法が存在する様だ。


「“パーフェクトウォッシュ”」


 この魔法の効果は激的だ。

 特にドロドロの服を見ているとよく分かる。


 服が宙に浮き光ると全ての汚れが下に落ちた。

 汚れを完全に弾く魔法であるようだ。

 更に服のシワが消え、終にはきれいに畳まれる。


 完璧な魔法だ。


 だが、それだけでは無い。

 魔力を感知してみると、服には付与まで付いていた。

 消臭効果に芳香、防汚防シワ着崩れ防止色落ち防止、吸汗速乾、全体的な魔力強化まで施されている。


 実際に着てみても粗は無い。


 恐ろしい程に隙が無い洗濯魔法だ。


 洗濯どころか、製造元が抑えておくべき点までカバーしている。


 しかし魔法と言う観点からすると良い事ばかりでは無い。

 まず難し過ぎる。かなり複雑な魔術だ。

 感覚的には洗濯やアイロン掛けをするのでは無く、服を完璧な状態にする魔法、つまり種々の工程を組み合わせた魔法では無く、服の完璧を引き出すと言う一つの工程しか無い魔法であるが、それでもかなり複雑だ。どこがどうなっているか分からない。

 属性分けすると、水でも火でもなく洗濯属性としか言いようの無い不思議な術式をしている。


 多分、激的な回復と浄化を広範囲にもたらした“聖域サンクチュアリ”の方が倍ほど簡単だ。


 そして魔力も、魔力操作のレベルが格段に上がって尚、レベルアップ前の全魔力よりも多くの魔力を消費した。


 とんでも無い魔法だ。

 こんな魔法、使える主婦は存在するのだろうか?

 開発したは良いが、実用化出来なかった魔法のように思える。


 しかし便利な事には違いない。

 使えてしまえば実に素晴らしい魔法だ。

 魔力が格段に増えた俺にとっては、いくらでも普段使い出来る素敵魔法。


 本当に、魔法さえ使えれば実に便利な世界だ。


 娯楽は無いが、それも人のいるところに行けばある程度は解決するだろう。

 漫画は無いにしても、面白い本の一冊くらいは…………そう言えば俺、この世界の文字読めないや……。

 ま、まあ、何かは有るだろう。何かは。


 魔法を使うだけでも新鮮で楽しいし。


 それに元より、俺はそんなに多くの娯楽を必要としない人間だ。

 …………ボッチと言う時点で、娯楽の選択肢は少ない…………。


 相手が必要なスポーツは論外、対戦相手が必要なゲームも古典電子問わず論外、ボッチの娯楽は漫画や本にアニメとお一人様用限定だ。


 そう考えると、この世界は割と娯楽に溢れた世界かも知れない。


 本は歴史書で有ろうとも、ファンタジー世界であるから全てラノベ。

 物語も全てラノベのようなものに感じる筈だ。

 見る光景も魔法を使いだしたら特撮、そうで無くとも鎧姿や中世っぽい町並みがあるだけで映画を見ているのと同じだ。

 そもそもゲームの中に入っているようだとも言える。自分が矢面に立っては命懸けだが、見ている分には全て娯楽と言えるかも知れない。

 歩いているだけで、何処でもテーマパークと海外旅行のセットだ。


 まあ、そうであっても人里はこの辺りに無いのだが……。


 何にしろ、きっと住めば都ではあるだろう。


 そんな事を思いながら、パンに食らいついた。



 のんびり朝昼食を食べ終わった後は、どこまで自分が強くなったのか確かめる事にした。


 安全かつ有益な探知魔法を使う。


「“ウィンドソナー”!」


 魔力操作と魔力感知が格段に上がったからか、以前よりも鮮明に周囲が分かった。

 殆ど目で見るのと変わらない。

 寧ろそれよりも鮮明に分かるくらいだ。


 そして並列思考と高速思考もあるからか、伝わる情報が一瞬では無かった。

 通り過ぎるその場だけが分かるのではなく、広い範囲の事が同時に分かる。

 能力値の知力が爆上がりした事も関係しているだろう。


 まるでゲームキャラクターを操作する時、ステージを俯瞰して見ているかのようだ。


 そして探知の範囲も格段に広がった。

 これは単純に魔力が増えたからだ。


 魔法の形状を変えなくとも、円を描くように高原全ての光景は丸わかり。

 その外も、前は頑張って伸ばし探知した場所も円はすっぽりと覆い、かなり広大な範囲の環境を知れた。


 まだ全魔力を込めていないのに、半径数十キロは完全に分かった。


 やはり、人の痕跡は欠片も無い。


 そしてここは思ったりよりも高所であるようだ。

 地形が分かっても測量出来る訳ではないが、富士山よりも高い気がする。


 ここは山脈に囲まれた高原の上にある山脈、その中にある高原のそのまた中にある山脈内の高原であったらしい。

 外からだと綺麗に一つの山のように見えるだろう。

 その山は相当高い。そして不自然なほど整っている。


 鑑定結果の中に、世界の始まりの地とか書かれていたから、普通の山では無いのだろう。

 気温が涼しいくらいなのもそのせいだと思う。


 木々は山を下るほど深くなり、最外の山脈の外は樹海だ。

 この森は人の手の届かない原始の森に相応しく、もののけのお姫様が出て来そうな雰囲気がある。

 しかしファンタジーらしさはまだ無い。

 地球を探索し尽くせば皆無では無い光景だ。

 ここまで来ても魔物も動物も存在していなかった。


 問題はその更に外。


 そこは乾いた荒野だった。

 砂漠では無いが漠ではある荒野。


 樹海との間に緩衝地は存在しない。


 いきなりの荒野だ。


 地形からするとおそらくこの荒野の方が正解なのだろう。

 大陸の中央は乾燥しているイメージがある。

 地球だと暑い地帯の西側ばかり乾燥しているイメージもあるから、きっと風の影響とかも大きいのであろうが、地形も違えば自転どころか星なのか平面なのかすら分からない異世界で風向きは大して参考にならない。

 しかし多くの障害物の先にある地域に雨雲が届かないのはどんな地形でも多分同じだ。


 それなのにこの山とその近辺だけは木々に囲まれている。

 これは神秘以外の何ものでもない。


 そしてその荒野から外には見たこともない生物、魔物が存在していた。


 食べ物が多く無い筈の荒野でもその数は多い。

 半数以上はアンデッドで、魔物は互いを食料にしているようだ。

 しかしそれでも、数が環境に合わない気がした。


 問題はその外や、オアシスのような場所。


 明らかに強そうな魔物が点在していた。


 巨大な厳つい鬼、巨人なのか鬼なのかどっちに分類していいか分からない魔物が複数いる火山帯。

 そこは木々すらも明らかに普通では無く、鉱石のような高い木々で囲まれていた。炎もどこか暗い。

 火山の高いところのは複数のドラゴン。上空を飛んだりマグマに浸かったりしている。


 そして滝が流れ込む広く深い大穴、幅も深さも数キロ単位で有りそうな大穴の中央には大渦潮。

 貯まる筈の莫大な水を吸い上げている。

 その周囲には巨大な牙が立っている。自然現象では無く魔物だ。


 極寒の大地にも巨人とドラゴン。

 更には巨大な狼が存在した。きっとフェンリルだ。


 特殊な環境であればあるほど、特殊な明らかに強そうな魔物がセットで存在している。


 そしてやはり、人の痕跡は全然存在していない。

 当たり前のようにゴブリンの大軍とオークの軍勢が戦争している。

 人型がいても全て魔物だ。人外魔境だ。


 それは、五百キロ半径まで探知しても同じだった。

 そこまで広げると流石にざっとしか探知できなかったが、人の気配が無いことには間違い無い。


 …………ここでどうしろと?


 人里から離れているにも程がある。


 そして、おおよそ五百キロ半径の事が分かる俺も、十分人外になっているのだなと実感した。


 因みに、先に限界が来たのは俺では無く、魔術の方だ。

 これ以上は魔術として成り立たなくなるらしい。

 俺自身のの限界はまだきていない。


 魔物に恐怖を感じても、割とやっていけそうだ……。

 何故か、人の定義からもボッチになってきてしまったようだ。



次話は間に合ったら明日、そうで無ければ節分やエイプリルフール辺りに投稿したいと思います。


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設定集
〈モブ達の物語〉あるいは〈真性の英雄譚〉もしくは〈世界解説〉
【ユートピアの記憶】シリーズ共通の設定集です。一部登場人物紹介も存在します。

本編
〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~
【ユートピアの記憶】シリーズ全作における本編です。他世界の物語を観測し、その舞台は全世界に及びます。基本的に本編以外の物語の主人公は本編におけるモブです。ボッチは本編のアンミール学園で裸体美術部(合法的に女性の裸を見ようとする部活)の部員です。

兄弟作
クリスマス転生~俺のチートは〈リア充爆発〉でした~
ボッチと同じ部活の部長が主人公です。

本作
孤高の世界最強~ボッチすぎて【世界最強】(称号だけ)を手に入れた俺は余計ボッチを極める~
本作です。

兄弟作
不屈の勇者の奴隷帝国〜知らずの内に呪い返しで召喚国全体を奴隷化していた勇者は、自在に人を動かすカリスマであると自称する〜
ボッチと同じ部活に属する皇帝が主人公です。

兄弟作(短編)
魔女の魔女狩り〜異端者による異端審問は大虐殺〜
ボッチと同じ学園の風紀委員(ボッチ達の敵対組織)の一人が主人公です。

英雄譚(短編)
怠惰な召喚士〜従魔がテイムできないからと冤罪を着せられ婚約破棄された私は騎士と追放先で無双する。恋愛? ざまぁ? いえ、英雄譚です〜
シリーズにおける史実、英雄になった人物が主人公の英雄譚《ライトサーガ》です。

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