ボッチ36 ボッチと温泉の正体
異常を未だ現実だと受け止めきれていない女神様に対して、妙案を思いついた。
「あの、女神様、まずはこの温泉を鑑定してみてくれませんか?」
シンプルに、温泉の効果を確認してもらえばいいのだ。
「温泉を? せいぜい泉質しか分からないと思いますが?」
「だからこの温泉は、破邪の湯と言って特別なんですよ。騙されたと思って見てください」
「温泉の力がじゃないと立証されるだけですよ?」
そう言いつつも、女神様はお湯に目を向けてくれた。
俺も改めて温泉を鑑定してみよう。
名称:滅邪の湯
あれ?
温泉の名前が変わってる。
効能が何故か上がっていったから名前まで変わったのだろうか?
もっと詳しく見てみよう。
名称:滅邪の湯
効果:浄化、聖水生成
説明:浄化された破邪の湯。
ん? 浄化された破邪の湯?
もしかして、聖属性を使い過ぎて浄化された?
使う前は破邪の湯だったのだから、短時間で変化したのだからそう考えるのが自然だ。
それで、スキルを獲得した効能は、聖水生成とやらのおかげだろうか?
多分、この温泉が聖水になっていると言う事だろう。
ファンタジーに限らず色々な物語に聖水が登場する中、聖水にスキルや能力を与える効果があると言う話は聞いたことが無いが、創作の中に正解を求めてはならない。
この世界の、本物の聖水とはそう言うものなのだろう。
上がったステータスからして、聖なる力、魔王に打ち勝つ力を与えてくれるのだ。
「ほら、女神様、ちゃんと聖水生成って言う効能が有ったでしょう? 本当に温泉の力でステータスが上がったんですよ」
「……………………」
「あれ? 女神様? 女神様ぁー?」
話しかけるも女神様からの反応がない。
温泉を覗いたまま固まっている。
素晴らしい効果を持つ温泉が実在したと知らされて、信じきれないのだろうか?
そう思っていると、ふと目の前に鑑定画面が現れた。
俺は鑑定していない。
女神様が出したようだ。
「鑑定って、人にも見えるように出来たんですね」
「……いえ、これは私の見た光景を映し出しただけで、別口の力です」
やっと反応してくれた。
もう立ち直れたのだろうか?
「貴方も、確認してみてください」
……いや、信じきれず、俺にも確認して欲しかったらしい。
「いい加減に信じてくださいよ」
そう言いつつも、鑑定結果を読む。
女神様の鑑定は俺よりも高度なようで、より多くの情報が出ていた。
名称:滅邪の湯
効果:浄化、聖水生成
説明:浄化された破邪の湯。破邪の湯に含まれていた【原悪の魔王】ディオネルザオルの邪気怨念は、破邪の湯の熱源であった【原悪の魔王】が滅びた為に残っておらず、【原悪の魔王】を倒す為に用いられた莫大な聖属性の魔力により環境の属性は塗り替えられ、浄化効果を含む聖水の温泉となっている。
水源は霊峰フィーデル山脈から流れる聖なる水、熱源は【原悪の魔王】が永きに渡り封印されていた為に大地が属性を帯び生じた煉獄。煉獄は浄化により邪属性が抜けきり清く純粋な性質へと変化している。
………………破邪の湯に含まれていた【原悪の魔王】ディオネルザオルの邪気怨念? 熱源は【原悪の魔王】が永きに渡り封印されていた為に大地が属性を帯び生じた煉獄?
あまりの情報が飲み込めない中、女神様は鑑定結果の破邪の湯と言う部分に触れた。
その文字が軽く輝くと、新たな鑑定結果が出て来る。
名称:破邪の湯
効果:原悪の怨念、邪水生成
説明:【原悪の魔王】ディオネルザオルの邪気怨念に汚染された温泉。水源は霊峰フィーデル山脈から流れる聖なる水、熱源は【原悪の魔王】。
【原悪の魔王】が霊峰と一体化した旧神により封印されていた為に発生した温泉で、湯は封印の廃水。元は聖なる水であるが、【原悪の魔王】の影響により怨念や毒、瘴気に病魔、呪いなどあらゆる害悪に汚染された邪水となっている。
【原悪の魔王】の活動量に応じてその邪気は変化する。【原悪の魔王】が封印の影響で休眠状態の場合でも、生物を寄せ付けず死に追い込む、生き残っても魔物化させる凶悪な温泉。
破邪の湯が掘られる前は地下水から霊峰の外に流れ出し、周囲を汚染していた。霊峰本来の聖なる水も外に一部流れていた為、霊峰の周囲は邪水の影響を強く受けて汚染され、凶悪な魔獣が闊歩する地域と、魔王大戦による汚染が浄化された地域とが入り乱れている。
……………………。
もはや呼吸も忘れてしまいそうな衝撃過ぎる情報だが、更に追い打ちをかけるように、また新たな鑑定結果を出してくる。
名称:【原悪の魔王】ディオネルザオル
説明:初代魔王。フィーデルクス世界において初めて発生した魔王。魔獣や魔族が変異進化覚醒した存在では無く、初めから魔王であった存在。この世の悪の権化であった魔王であり、限りなく神に近い存在であった。
悪の塊とも言える存在で、全てが有害。存在するだけで辺りを汚染した。善きを滅ぼし悪を眷属に変え、姿を現してから一月の間に最も巨大であったデルクス大陸の四分の一を汚染された死の大地に変えた。
まだ神話の時代、肉体を持っていたフィーデルクスの神々は人類と共にこの魔王に立ち向かったが、幾柱もの神々が肉体を喪い地上で存在する術を喪った。その大戦は大陸の四分の三を焦土に変え、生物の数を千分の一あまりに減らした。
百年にも及ぶ戦いで、やっと神々と人類は魔王以外の眷属を倒し切る事に成功するも、この魔王を倒し切る術はその頃もはや存在しなかった。神々は肉体を喪い、人類の戦士も極少数。しかし残り少ない人類の戦士、後に勇者と呼ばれる戦士達が神々をその身に降ろす事で、魔王の肉体を破壊する事には成功した。魔王から地上に存在し続ける為の手段を奪った。
だが神々が信仰心をエネルギー源とするように、魔王は悪をエネルギー源とした。人類が減り祈りが減っても、魔王には自身が振りまいた大陸を汚染する害悪が存在した。そうなれば神々よりも先に肉体が復活するのは魔王、滅ぼされるのは神々と人類である。その為、魔王を完全に倒さなければならなかったが、神々と人類にそのような余力は残されていなかった。
そこでフィーデルクス世界の始まりの地である霊峰フィーデルに魔王を誘い込み、神々が魔王を押さえつけ、神々の長である六大神は霊峰と一体化する事で魔王を封印した。
この魔王の封印に伴い、神々は世界に還り、実質滅びた。この魔王の討伐により、神治の時代から人治の時代に変わった。現存する神々はこの大戦により神々から与えられた神器に宿る神霊が、生き残った人類の信仰を受け神格を得た存在である。現在の神々と大戦の神々は区別され、世界に還った神々を旧神と呼ぶ。
この魔王は、六千年による封印の影響で害悪から力を得るも浄化され続け弱り、終には異世界から召喚された勇者マサフミ=オオタの聖属性の力により完全に滅ぼされた。
……………………ハハハ……なんか、俺の個人情報まで鑑定結果に出ている……。
初め、信じようとしない女神様を説得する為に鑑定しろと言ったが、何故か俺も信じられない側に回っている。
しかし、何度読み返しても言葉は変わらない。
変わるのは読む度に削られてゆく俺の精神。
どうやらもう、信じるしか無さそうだ。
じゃないと、もう身が持たない。
次話は明日投稿します。




