ボッチ34 ボッチは魔王より金貨
女神様の突然の降臨と、新たな魔王登場と言う話には驚いたが、魔王と言えば俺にも驚いた現象がついさっき起きた。
「そう言えば女神様、俺、温泉に入っていたら突然レベルアップして、【魔王】の討伐がなんたらって言うアナウンスが流れたんですけど?」
「魔王の討伐? 温泉に入ってレベルアップしたとか、始めから意味不明なんですが? 遂にヤバい薬にでも手を出してしまいましたか?」
割と本気で俺の頭を心配してくる女神様。
「遂にって、俺を一体なんだと思っているんですか!? そんな薬に手を出そうとも思った事はありませんよ! と言うかこの無人の地でどうしろと!」
「じゃあ間違って変なキノコを食べたとか?」
「キノコみたいに食べれるか判断出来ないものなんか食べません!」
「確かに、貴方は臆病ですからね。失礼しました」
何故か、何故かキノコを安心性の方面から語っただけですんなり納得された。
これはこれで解せぬ。
「まあ、変なものを食べた訳でない事は納得しましたが、温泉でレベルアップなど有り得ません。レベルアップは基本的に、魔物を倒さねば出来ないものです。ジョブによって経験値対象は変わる、例えば料理人なら料理をする事でもレベルアップするので、温泉に関わるジョブならレベルアップするかも知れません。ですが、そんなジョブは聞いた事もありません。何より貴方は“異世界勇者”である筈です。温泉でレベルアップするジョブではありません。
と言うかこの温泉、いつの間に掘ったんですか?」
「成り行きで」
女神様はそう言うが、魔物なんか討伐した覚えがない。
と言うかこの世界に来てから、動物、鳥や虫すらも見ていない気がする。
レベルアップは状況的に、温泉によるものとしか思えない。
「因みに、温泉に使ってスキルを獲得したりは?」
「それは、余程の秘湯なら可能性が有るかも知れませんが」
「ここ、とんでもなく秘境ですよ? こんな秘境の秘湯ならいけそうじゃ無いですか?」
「……確かに、この世界においてトップレベルの秘湯ですね。聖域の跡地ですし、割と有り得るかも」
そんな話をしていると、ガガガガガと言う地響きが聞こえて来た。
同時に湯が再び湧いて来る。
もしかして、まだ温泉の効能アップは終わっていなかったのか?
そう思ってきいると、最初の間欠泉もびっくりの勢いでお湯が噴き出した。
黄金の輝きを伴って。
「熱っだ!? 熱だだだだバブハフバフブブ!?」
熱々の金の輝きに下から熱湯と共に無数に殴られ、上まで飛んでいた金の輝きに上から殴られ、温泉底に押し付けられる。
空洞を発動してなんとか起き上がると、そこに有ったのは無数の金貨、金貨の山だった。
温泉が金貨風呂に変わっている。
「「一体何がぁっ!?」」
神である女神様にも想定外の出来事であったようで、二人同時に驚きの声を上げてしまった。
「め、女神様、秘湯って、金貨も出てくるんですか?」
念の為、有り得ない可能性を聞いてみる。
ここは異世界、まさかの有り得る可能性もあるかも知れない。
「ある訳無いでしょう」
「ですよね……」
じゃあこれは一体何なのか?
「これ、本物の金貨ですか?」
「……鑑定してみたところ、本物のようです。念の為、貴方も確認してください」
恐る恐る鑑定。
名称:パリオン金貨
分類:金貨
説明:パリオン王朝で鋳造されていた金貨。
念の為にもう一度。
名称:パリオン金貨
分類:金貨
説明:ケペルベック王国でパリオン王朝第三代オルカスⅠ世の時代に鋳造されていた金貨。
うん、なんか少し詳しくなって情報が出て来た。
金貨に間違いなさそうだ。
しかしこの一枚が偶々本物であっただけかも知れない。
他の一枚を手に取って鑑定する。
名称:パリオン金貨
分類:金貨
説明:ケペルベック王国でパリオン王朝第三代オルカスⅠ世の時代に鋳造されていた金貨。
同じ結果だ。
だが、ここで信じきってはいけない。
今度はデザインを確認してから、他のデザインのものを鑑定する。
名称:パリオン金貨
分類:金貨
説明:ケペルベック王国でパリオン王朝第六代オルカスⅣ世の時代に鋳造されていた金貨。
デザインは変わっていたが、説明文で変わったのは何世の部分だけだった。
隣を見れば、女神様も鑑定を続けていた。
やはり信じられないようだ。
試しに齧ってみる。
「あがっ……」
チョコじゃない。
凹んだところも金のまま。
《熟練度が条件を満たしました。
ステータスを更新します。
アクティブスキル〈鑑定〉のレベルが2から3に上昇しました》
鑑定し続けていると、スキルレベルが上がった。
これで何が分かるかも知れない。
名称:パリオン金貨
分類:金貨
価値:100000フォン
説明:ケペルベック王国でパリオン王朝第三代オルカスⅠ世の時代に鋳造されていた金貨。パリオン王朝は八代魔王軍に前王朝と王都が滅ぼされた後、王家の血を引き領地が辺境である為に比較的無事であったパリオン辺境伯が王座に就き開かれた王朝である。王都は元パリオン辺境伯領領都パリオンベックに移され、開拓の時代が始まった。オルカスⅠ世の時代は多数の鉱山が発見され、金の産出量はケペルベック王国史上の最盛期であった。その為パリオン金貨の中で最も発行枚数が多い。
どうでもいい情報しか増えなかった。
いや、価値の部分は重要だけれども……。
逆に言えば、そこしか要らない。名称すら金貨で十分だ。
と言うか、スキルレベルが3でこの情報量って、10まで上げたら一体どうなるのだろうか?
その後もいきなりの金貨を信じられず、幾度も鑑定を続けるも、どの金貨も本物であった。
価値が表示される以上、疑いようが無い。
だが、一体なぜこんなにも大量の金貨が源泉から噴き出して来たのだろうか?
数えた分だけで、何と千枚は有った。ぱっと見で一万枚は有るだろう。割と数えられそうな数だが、一枚は丁度五百円玉ほど、かなりの量が有るように思えてくる。
10万フォンが一万枚で10億フォン……。
1フォンは大体1円の価値と言っていたし、10億フォンは日本円で10億円…………。
……何度も意識が飛びそうになってくる。
宝くじが当たったのなら、きっとこうはなら無い。シンプルに一日中喜べる筈だ。
当たらないと思っていても、それは自分から求めていた結果だ。
だがこれは予想どころか妄想もした事の無い事態。あまりに常識と乖離していて現実味の欠片もない。
夢に閉じ込められたような、得体の知れなさを第一に感じてしまう。
しかしよくよく考えると、いくら金貨が有っても使い途がない。
人が周りに居ないという意味で……。
買い物が出来なくては、金貨など何枚有ろうとも綺麗なだけの金属に過ぎない。
そう気が付くと、頭の中がスッキリしてきた。
一旦冷静になろう。
「女神様、この金貨、何で出て来たんですかね?」
今考えなくてはならないのはこっちだ。
真偽を確かめる段階はとっくに過ぎている。
この質問に、女神様もやっと金貨から目を離した。
「……割と、非現実的な現象では無いかも知れません」
「温泉から金貨が出るのは非現実的じゃないっ!?」
まさかの回答につい大声を出してしまう。
「異世界の温泉からは金貨が出てくるんですか!?」
「落ち着いてください。異世界の温泉だから、では無くここの立地の問題です」
「立地の?」
「はい、もう知っての通りここはかつて世界の中心として栄えた聖域です。そして今では見ての通り滅んでいます。滅ぶ直前に、後で取りに帰って来ようと地下に資産を隠していても不思議ではありません」
「確かに」
考えてみればここは考古学者も探検家もトレジャーハンターも、一生を賭けてまで探しても不思議では無い歴史の詰まった大遺跡だ。
それが偶々温泉を掘ったときのルート上に有り、さっきの大間欠泉で詰まっていたのが出て来ても、奇跡的な発見ではあるがそこまで不思議では無い。
謎が解けてめでたしめでたしだ。
あれ? 何かを忘れている気が?
次話は明日投稿します。




