ボッチ26 ボッチとジャム作り
丘に戻ってベリーを煮込む。
砂糖はやはり調味料セットが入っていた。
ジャムの材料はこれで良い筈だ。
分量は適当。
ベリーは片っ端から入れてみた。
片手でそれをかき回しながら、片手には魔法練習の水晶球。
魔力を流す毎に空間が歪む。
空間属性魔法の練習だ。
木属性の時と同じく、一回使う毎に魔力は全て持って行かれるが、水を容れたペット皿で即回復。
慣れたものだ。
片手間で出来る。
集中しているのはどちらかと言うとジャム作りなくらいだ。
ジャムは薪を燃やして煮ているので火加減が難しく、焦げ付かないように混ぜ続けなければならい。と言うよりも焦げそうで怖くて手を離せない。
空間属性魔法の練習中でなければ魔術でなんとかなったかも知れないが、毎回魔力を使い切る練習中に魔術は使えない。
昔の人はどうやって火力を操作していたのだろうか? 先人の偉大さを感じる。
そうこうしている内に日が傾いてきた。
探索やジャム作りで昼から相応の時間が経過していたようだ。
一旦火から離し、鍋の中を改めて確認する。
正直、ジャムがどの時点で完成するのか分からないが、かき回す感触は重く、色は濃くなっている。
手っ取り早く試食してみよう。
「熱っつぁ!?」
指にジャムを付けてみたら熱々だった。
考えてみれば当たり前だが、火から離したせいでそこまで熱くないと思ってしまった。
息を吹きかけて冷まし、口に入れて指からジャムを拭い取る。
うん、美味い。
そして指がヒリヒリする。
水だ水、水を出そう。
火傷した右手から直接魔法で水を出して冷ます。
この世界に来てから困ることもあったが、魔法とは便利なものだ。
使いこなしたらこの世界の方が快適かも知れない。
まあ、最低限人里に出たらの話だが……。
「あっ、氷を出そう」
水が出せるなら氷も出せる筈。
冷やすなら水よりも氷の方が断然良い。
ちょうど水晶球も出ているし、氷なら水晶球でも出せる筈だ。
「出よ氷、……!?」
早速出してみたが、予想外に魔力を持ってかれてしまった。
木属性と空間属性の時と変わらない。
一瞬で空っぽだ。
氷は水属性では無く、氷属性が別にあるらしい。
まずはペット皿で魔力を回復させよう。
ペロペロ。
回復終了。
ん? 痛みが引いた。
火傷した指を見ると、赤みも引いていた。
そう言えば、ペット皿の説明には魔力を回復するじゃなくて、ただ回復するって書かれていた気がする。
名前:女神手製家畜の水皿
効果:不壊、聖水精製、所有者固定、転移
説明:女神手製の家畜に水を与えるための皿。準聖杯化しておりこれで水を飲んだものを回復浄化させる。
うん、鑑定し直しても間違いない。
このペット皿は傷も回復してくれるようだ。
形状は最悪なのに便利過ぎる。
と言うか、道具で回復出来たと言う事は、初めから水を出すのでは無く、回復する魔法を使うと言う選択肢も有ったかも知れない。
「開け回復魔法!」
魔導書を呼び出し、検索をかけるとやはりページが開いた。
回復魔法は実在するようだ。
地球とは常識が全く違うと実感させられる。
火傷は回復したが、せっかく魔導書を召喚したので回復魔法を使ってみる。
「わっ、キャンセルキャンセルッ!?」
しかし使えなかった。
魔力を流すとそれを呼び水に、急速に魔力を奪われたのだ。
この感覚、どうやらこれも魔法属性が既に獲得したものと違ったらしい。
これも練習が必要そうだ。
兎も角、今は火傷も治り、ジャムも完成していそうなので、鍋の中身を移そう。
出よビン!
「……あれ?」
アイテムボックスからビンが転移してこない。
どうやら、ビンはアイテムボックスに入って無かったらしい。
想定外だ。
このジャム、何に容れよう?
「ビン作りの魔法があったりは…、有るんだ…」
出したままの魔導書が独りでに開いた。
ビン作りの魔法まで有るなんて、万能過ぎる。
この世界の職人は魔法でビンを作っているのだろうか?
「“クリエイトジャー”」
使ってみると、まず地面に干渉。
土を少し浮かせると、加熱。
土は真っ赤に赤熱し、融けた。
そして瓶の形になり、赤熱が解ける。
そして魔法終了。
ポンと虚空から生み出すのでは無く、材料を採取して一から作成する魔法のようだ。
冷却効果は無いらしくまだ空気を歪めているが、ガラス製のビンがあっと言う間に完成した。
魔術が切れ操作を失う前に、比較的平たい岩の上に移動させる。
因みに蓋までガラス製。
冷却効果が無い事と言い、使用属性を極力減らしているようだ。土属性と火属性だけしか使用していない。
多分、その方が使い手が多い、逆に言えば属性を増やしてしまえば使い手が限られてしまうのだろう。
水晶球とペット皿のような道具が無ければ新たな属性の獲得は難しい。例え属性の適性があっても、スキルを獲得するのは大変だ。
水晶球のように安全装置が無ければ危険だし、使った魔力の回復だけで多くの時間を使ってしまう。
それに変にそこに労力をかける時間があるなら、多分地球と同じ方法でビンを作った方が早い。
だから二属性使用ぐらいがちょうど良いのだと思う。
まあ、俺は他の属性もあるからそれで別に冷却しよう。
「出でよ、冷却魔法!」
あとは魔力を流すだけ。
「ちょっ、キャンセルキャンセルッ!?」
そうだ、氷属性は全属性の対象外だった……。
と言うかさっきそう実感したばかりだ。
学ぶべきことが色々な意味で多い。
『ぷふふっ』
……姿は見せていなっかったが、女神様にもしっかり見られていたらしい。
笑うより先にアドバイスをしてもらいたいものだ。
『少し前の事も教訓にしないのは神にも予想できぬことです』
……言い過ぎだと思いたい。
からかいに来たとしか思えない女神様を無視して冷却作業に取り掛かる。
氷がダメなら水だ。
水なら何度も生み出した経験もあるし問題ない。
魔術は使わず、水を生み出すとそれを操作し、まだ熱々のガラスを覆う。
ガラスはジュウゥと言う音と共に蒸気に包まれた。
接触させた水は制御を解き、重力で丘の斜面に捨て、途切れることなく次の水でビンを冷却。
うっかりビンを倒さないように水で包むのが難しい。
しかしすぐに蒸気は消えた。
順調に冷却できているようだ。
が、パリンと言う不吉な大きな音が聞こえてしまった。
見れば、ガラス片がビンを置いた岩の下に錯乱していた。
『熱したガラスを冷やすと割れる、小学生でも周知の事実でしょうに』
「……それ、作りたてでも有効なんですね」
取り敢えず、何とか反論は言う事が出来た。
不幸中の幸いと言う事にしておこう。
次話は明日投稿します。




