ボッチ25 ボッチと食糧調達
年末年始投稿です。
正月まで連続投稿します。
ショックで仰向けに崩れ去ったまま、女神様に問う。
「……あの、世界を救う気概を持てとか言ってましたが、この立地でどうしろと? 開拓も進まない未開の地を大陸半分も移動って、物語一つ分の大冒険ですよ? クラスメイトが魔王討伐している間、俺は港に行くだけで物語終わりますよ? これ事実上の島流しですよ? 勇者生命どころかリア充生命終わってますよ?」
『……御冥福を、お祈り致します……』
「諦めるなコラぁ!? 色々ミスしてここに連れてきたのは女神様でしょうが!?」
と言うか、この状況はライトノベルで言うところの追放系、その追放された後の状況だ。
始まる前からこの状況って、あまりにも酷すぎる。
悪気が無いだけ感情の行き先が無くて、俺も自分がどんな感情なのかイマイチ分からない。
なんの動機にも変わらないし、これから何をすれば良いかも思い浮かばない。
『えっと、スローライフと言う選択肢もありますし?』
「スローライフじゃないでしょうこれ!? 完全に人を避けた仙人ライフですよね!?」
『貴方の場合、ボッチライフでは無いかと……』
「…………ぐすん」
異世界でもボッチライフ……。
俺、実は異世界転生していなかったのかな?
普通に死んだままだったのか?
『え〜、その……、生物学上はしっかり異世界転生して生きています……』
「そこはハッキリ普通に生きてるって答えてくださいよ!?」
何で必死に伝えにくい言葉を変換するように伝えて来るかな!?
ここは断言で良い筈だよね!?
俺ってマジで死んてるの!?
ボッチだって生きてるよ!
別に死んだような人生じゃ…………ぐすん、無いんだからね!?
『……ついに壊れて、ツンデレっぽい要素が混じりませんでした?』
「……………………………………」
『何でも良いから何か応えてください!!』
「…………」
『そうだ空間属性魔法!! 空間属性魔法さえ覚えればどんな僻地でも自由自在に行き来可能! 他にも飛行魔法とか色々な移動方法がまだ残っています! ボッチ生活も脱却可能です!』
「ボッチ、ダッキャク、カノウ?」
『そうです! 外に出れば奴隷も買えます! ボッチ脱却どころか奴隷ハーレムライフ到来ですよ!』
「奴隷! ハーレム!!」
只今現世に帰還致しました!
俺の未来はまだ明るい!
なんせこの世界には奴隷が存在するのだ!
そう思い直していると、山彦が聞こえてきた。
『『奴隷、ハーレム! 奴隷、ハーレム! 奴隷、ハーレム!…………』』
「『……何かごめんなさい……』」
やるべき事を見つけた俺は空間属性魔法の練習をする、のでは無く、まずは森へと向かった。
初めにやるべきは食料調達だ。
安全と分かった森を、尚も探知魔法を駆使しつつ探索する。
異世界の森だと内心わくわくしていたが、あまり違いが分からない。
それは元々植物に興味ないから分からないだけかも知れないが、少なくとも日本で見たことない気がしても、海外には有るだろうと気にならない程度の普通の植物しかない。
明らかにおかしいものが成っている訳でもなければ、派手な色をしている訳でもなく、極々普通の木々だ。熱帯や亜熱帯っぽい植物すら無い有様だ。
魔法的な木花は見たところ無い。
どこまでも普通の森。
六千年もの間、閉ざされた未開の地だと聞いたが、もののけのお姫様が出てくる大樹の森、太古の森と言った雰囲気も無い。
寧ろ木々に若干の細さまで感じる。
森の道まで光が差し歩き易く、木々の密度まで低い。
鬱蒼とした森の雰囲気は、都会とまでは言わなくとも、地方都市ではある地元の近所にある森の方がまだある。
ここは明るい、何処か清涼感のある森だ。
下を見れば余程光が射し込むのか、木々の根本までふさふさとした芝のような背丈の低い草まで茂っている。
少し見上げれば、どこからでも木々のほとんど無い雪の残る山々が見えた。
異世界へ来たと言うわくわく感は沸かなかったが、ピクニックに来たような気持ちよさがある。
焦げ臭いのが玉に瑕だが、これは気にすまい……。
湿地帯のようにもなっているが、これも気にしてはならない。
探知魔法を頼りに暫く歩くと、赤い実の成っている木を見つけた。
近くで見ると林檎のようだ。
少し小さい、どちらかと言うと姫林檎に近いサイズだが形はよく見る林檎だ。
ちょうど手の届く位置にも実っていたのでさっそくもぎ取る。
軽く服で拭いてから一口。
「カキュ…………」
……林檎じゃない。
いや、林檎だとは思うが俺の知っているアレでは無い。
まるで芯を食べているようだ。
筋張ったように固く、更にはボソボソとしている。
そして酸っぱい。
吐き出す程では無いが、美味く無い。
まだ青い柿の方が美味いような気すらする。
一応鑑定してみる。
名前:野生古代林檎
効果:なし
説明:古代に栽培されていた林檎が野生化したもの。栽培古代種は現代に及ばなくとも品種改良された種であったが、永きに渡り野生化していた事で原種に近いものになっている。希少価値はあるが鳥の餌。
……次に行こう。
続いて見つけたのはこれまた若干小ぶりなブルーベリー。
今度は先に鑑定をする。
名前:ビルベリー
効果:なし
説明:食用とされる木の実。ブルーベリーの仲間。野生のブルーベリーと呼ばれる。ブルーベリーと違い果肉まで青い。ジャムの材料として重宝される。
ブルーベリーでは無かったようだがしっかり食用の木の実のようだ。
さっそく腰より低い低木に実ったそれを収穫。
汁が滲み出て手が青くなる。
美味しそうな色合いだ。
どれ……。
「酸っぱい……」
野生林檎と比べれば全然イケるが、好んで食べるようなものじゃない。
ジャムの材料って、そういう事かと納得してしまうような味だ。
多分、料理の材料としてはブルーベリーよりも使える。
その分、生で食べるものじゃない。
パンはあるから一応摘んでおく。
尽きないパンどころか味噌汁まで有るのだから、砂糖もアイテムボックスに入っているだろう。塩も有ったし。
後でジャムを作るとしよう。
最終的に、探索して手に入れた最高の収穫物は、桑の実だった。
他は酸っぱめのベリー類が少々。
自給自足は難しいようだ。
そして失って始めて、地球の食生活の有り難みに気が付くのだった。
次話は明日投稿します。




