ボッチ24 ボッチは世界の中心で崩れ落ちる
ハロウィン投稿の最後です。
「“ウィンドソナー”!」
まずは何度か自力で探知魔法を発動してみる。
魔力の増減。
変わるのは魔法の範囲だけ。
精度は全く変わらない。
今度は詳しく知ろうと意識しながら。
これは成功した。
風の進みが遅くなり消費魔力も増えるが、普通よりも一つの対象に対しての情報が増えてきた。
しかしそれでも曖昧。
目を瞑って歩いているよりも粗い情報。
目を瞑って感じる陰影程度でしかない。
何度やっても同じだ。
風の進みが遅くなり、感覚の陰影が多少濃くなるだけ。
やはり慣れるしか無さそうだ。
試しに何度も連続で発動してみる。
「“ウィンドソナー”! “ウィンドソナー”! “ウィンドソナー”! “ウィンドソナー”!」
するとこの方法でも感覚の陰影が濃くなった。
別の箇所が欠けた同じ写真をパラパラ漫画にしているようだ。
しかし感覚での陰影情報でしかない。
精々読み取れるのは凹凸。
風の通り道があるか否か。
木なら何とか判別出来るが、背の低い藪はそれが石なのかそう言う地形なのか区別がつかない。
食料など、見つけられる筈も無い。
それは何度繰り返しても同じだ。
多分、実物を確認しながら何度も行わないと判別出来ないと思う。
今度は細かく魔力を操作して、魔術の改良を試みる。
魔術の隅々まで魔力を通し、改良点を探る。
「っ!?」
途端、効果範囲が鮮明に見えてきた。
そう、目で見るかのように鮮明な情報が読み取れる。
風で読み取るのではなく、風の魔力を読み取るようにすれば情報が探れた。
様々な魔力が見える。
草木の瑞々しく穏やかな魔力。
落ちて行く葉から漏れ拡散する魔力。
小さな虫の小さくも確かな魔力。
飛び交う鳥の自由で愉快な魔力。
大地や風の魔力まで見える。
美しい光だ。
何時までも見ていられそうだ。
そして見たところ、小動物はいるが、魔物はおろか大型の動物もこの付近にはいない。
これは詳しく見えないが、寄せ付けない何かがこの神殿跡地にあるらしい。
女神様の言っていた聖域と言うやつだろう。
色んなところの魔力を知っている訳ではないが、この付近の魔力は澄んでいるように感じる。
「あれ……?」
魔法を何度も使って見ていると、急にクラリと来た。
魔力の消費が激しいとかでは無い。
若干頭が痛く感じる。
雨を降らした影響で風邪でもひいたのだろうか?
取り敢えずペット皿から水を飲もう。
ゲーム的な要素の回復用だとは思うが、多分風邪くらいなら治せる筈だ。
そうだ、水以外を容れて飲んだら効果はあるのだろうか?
これで味噌汁を飲んでみよう。
「おお〜」
効いた。
頭痛が吹き飛んだ。
俺はまた探知魔法による観察を続けた。
《熟練度が条件を満たしました。
ステータスを更新します。
パッシブスキル〈並列思考〉〈高速思考〉を獲得しました。
アクティブスキル〈探知魔法〉を獲得しました。
パッシブスキル〈並列思考〉〈高速思考〉のレベルが1から3に上昇しました。
アクティブスキル〈風属性魔術〉〈探知魔法〉のレベルが1から3に上昇しました。》
夕方まで探知魔法を使っていると、またスキルを獲得し、スキルレベルが上がった。
その効果もあってか、探知魔法での探知能力がかなり上がった。
魔法自体にも慣れて耳をすませるくらい簡単に使えるようになった。
今いる神殿跡地の周辺、山脈に囲まれた高原内は全て探知出来た。
またそのすぐ外も。
やはり山脈内の魔力は外と比べ澄んでおり、魔物の一匹も存在しない。
山脈の外、外面には邪悪な、濁った刺々しい魔力を放つ魔物が確認出来た。
そして重大な事実も知った。
「ここ、どこ……?」
魔力の持つ限りまで、範囲を絞り距離を伸ばしと探索範囲を広げたのだが、どこまでも人の存在が確認出来なかった。
山脈の外は低い山々、その奥は低い山々、その先は森だ。
探索範囲を絞り細くすると数キロは探索範囲が伸びたのだが、そこまでずっと無人だ。
“千里眼”と言う魔法も使って調べて見たが、どこまでも森。
人里など有りはしない。
明らかに人工物なものも各所に点在するが、大部分は木の下。
ほとんど崩れ遺跡と化している。
ボッチ環境を超え隠棲、いや仙人が住むような環境だ。
「女神様、ここどこですか?」
姿は見えないが、女神様に問いかける。
『ここはフィーデルクス世界、デルクス大陸の中央、アルガンリテル皇国の跡地です』
すぐに答えてくれたが、固有名詞だらけで何も分からない。
「もっと詳しく」
大陸中央と言う事は以外に人里も近い?
『…………。ここはかつてこの世界で最も栄えていた国の最高神殿の奥の院、最も重要だった聖域です。私も伝聞でしか知りませんが、今から六千年前、第一次魔王侵攻のおりに最後の戦場となり、人類は勝ちましたが戦いで散った魔王の血肉でこの地は汚染され、人類は他の大陸へと旅立ったそうです。六千年後の今は聖域から流れる魔力で中和されたので安全な土地になっています』
詳しい情報を教えてくれた風だが、肝心な情報が抜けている。
「現状は?」
正直歴史などどうでも良い。
今の情勢下での立地が重要だ。
『……六千年の歴史の中でこの大陸は伝説と化し、つい二百年程前に再発見されたばかりです。今はまだ、沿岸部の開拓しか進んでいません』
「……ここ、大陸の中央って言いませんでしたか?」
『言いました。つまり、残念ながらここは、この世界で最も人の世から離れた辺境と言う事です。これも、貴方のあまりに強い属性に引かれてしまったようでして…………』
……まあ、誰も存在しない世界を始めに引き当てたんだ。
自分で言うのも何だが、最も人里から離れた土地を引き当てても不思議ではない……。
兎も角、今世の俺は地域からしてボッチらしい。
俺は直立したまま崩れ去った。
空が、青い。
そして気持ちも、同じ色だった。
次話は、正月の投稿を予定しています。




