ボッチ23 ボッチと探知魔法
武技について聞いた俺が次にする事は、朝食だ。
いや、時間的に昼食。
昨日からぶっ通しで消火をして寝落ちしたせいで何も食べてない。
武技の話を聞いて、それが役に立たない情報だと知った精神的な疲れも空腹に追い打ちをかけてくる。
疲れが全てどっと出て来た。
精神的な疲れで本来なら感じるであろう、何もかもがどうでも良くなる無気力感まで、そのどうでも良いで疲れを無視できない空腹に合流させる助けとなっていた。
ごそごそとアイテムボックスから尽きないパンを取り出す。
「あぐっ……」
相変わらず美味い。
空腹も極上のスパイスとなって万札を出しても良い程の、しかし金で買う事の出来ない最高の美味さだ。
しかし感動は沸いてこない、いや、湧いてこない。
気力の全てを使い果たして心は空っぽだ。
心を動かそうとすると、疲れという負に引っ張られて火事やらの悪い記憶ばかりが蘇って来る。
さっきまではスキルアップや必殺技やらで、自分でも気が付いていなかったが、相当ハイな状態だったようだ。
そのせいで元から疲れていたのに余計消耗し、疲れが悪化したのだろう。
美味いパンも、何日も食べ続けた味気無いものに感じる。
まあ、本当にこの世界に来てからこのパンを食べ続けて来たのだが……。
あっ、そう言えば龍の肉も食べていたか。
あれは美味かったな。
そうだ、違う美味いものを食べて休めば疲れも癒やされるかも。
ごそごそ、アイテムボックスに龍の肉の在庫は無し。
一欠片でも残って無いかと思ったが、やはり無かった。
そもそもパン以外に食べ物は入れてくれなかったのか?
そう思っていると、如何にも魔法がかかっていそうな水筒が現れた。
女神様のくれた物に付いてる転移機能、つくづく便利だ。
でも水筒を見ていると違和感を感じた。
何故、水を求めた時に、この水筒では無く魔法の練習をする為の水晶球が現れたのだろうか?
どう考えてもこの水筒の方が転移してくるべきでは無いのだろうか?
そんな違和感を感じつつも、民族工芸品のようにびっちり銀の術式が刻まれた円筒水筒の蓋を開ける。
水を生み出し続けたが飲んではいないから、水筒を見ると無性に喉が乾いてきた。
多少の違和感、どうでも良い。
ぐびっと一杯。
そして俺は、盛大に吹き出した。
「あっつぁーーーーッ!!!!」
熱い! めちゃくちゃ熱い!!
と言うか水じゃない!
喉が焼ける!
中身は熱々の味噌汁だ!!
「何で水筒に味噌汁が入ってるんだよぉーーーー!!」
俺の心の底からの主張が、何度も何度も周囲の山脈から返ってくる。
そして昼休みとして、姿を消していた女神様からの返答も返ってきた。
「割と水筒にスープを容れている人はいますよ?」
「そう言う事じゃなくて!? いや容れているにしてもそれ専用の水筒でしょうが!? これはどう見ても水飲み用の水筒ですよね!? 後、異世界なんだから洋風のスープに出来なかったんですか!? 何故に味噌汁!? 水筒は異世界風なんだから中身もそれっぽいのにしてくださいよ!?」
「中身が味噌汁なのは、一応私が日本所属の神だからです。他文化のスープを生み出す術式は知りません。知ったところで相性的に無限にスープを生み出す水筒なんて創れません。水筒の外見だけでも異世界に寄せたのを、感謝してほしいくらいです。
それに、例え中身が普通の熱々のお茶でも、同じ事になっていましたからね? 全ては貴方の不注意です」
「……」
言い返せない。
中身が味噌汁で、分かる訳無いだろうと抗議した訳だが、完全な不注意だ。
全く女神様の言う通りで、中身がお茶であっても同じ事をしていただろう。
だが、これだけは言わせて欲しい。
「だったら中身を、普通のお茶には出来なかったんですか?」
「……」
あっ、また姿を消した!
女神様が再び去った後、俺のする事と言えばただ一つ。
食事だ。
パンを噛りつつ、味噌汁を啜る。
うん、どちらも美味いけど合わない。
だがこの二つしか無いのだからどうしようもない。
尚、味噌汁の種類は蓋を閉めて魔力を込めれば変えられた。
ワカメの味噌汁、ナスの味噌汁、ジャガイモの味噌汁、有名どころは何でもいけた。
流石に豚汁までは出なかったが、アサリや茸の味噌汁と言った味噌汁と名の付くものは選び放題。
火傷しそうになったが最高のアイテムだ。
しかしパンとの相性が悪い。
空腹はどうにかなってもモヤモヤする。
そろそろ食料集めを開始する頃合いかも知れない。
と言うか一番始めにするべきだったものだ。
やらなければ永遠にパンと味噌汁。
だからと言って、今の状態で魔物がいるであろう土地に飛び込むのも躊躇を覚える。
空洞と魔術で何とかなる気もするが、おそらく魔物と遭遇したら冷静に対処出来ない。
十中八九辺りを焼け野原にする気がする。
前科二犯のポテンシャルを甘く見てはいけない。
何かいい手は無いかと魔導書をぴらぴらと捲る。
うん、読めない……。
先に実行したい方法を思い浮かべなければ駄目だ。
シンプルに食材を召喚する魔法とかないのか?
おっ、魔導書が独りでに開いた。
有るんだ。
早速使って―――ッ!?
渦に吸い込まれる様に急速に流れ取られる魔力。
「キャンセルキャンセルっッ!!」
流れ出した魔力を強引に断ち切る。
明らかに消費魔力が莫大だった。
薪を生み出した時と同じだ。
いや、それ以上に魔力を持っていかれかけた。
一歩間違えていればミイラになっていただろう。
多分、俺の持つ魔法属性では使えない魔法だ、
魔導書はそれでも強引に発動できるようだが、魔力量的に使える気がしない。
あまりにも危険だ。
直接召喚は行わない方針で行こう。
ペット皿に水を容れて魔力回復。
感覚的に、ペット皿で魔力を回復しながら行っても成功するかは賭けでしかない。
それも分の悪い賭けだ。
他の魔法で使えるのは?
そうだ、ファンタジーでお馴染みの探知魔法を試してみよう。
「出でよ! 探知魔法!」
独りでにページが開く。
いや、これも危険な可能性が。
もう少し条件を絞ろう。
「出でよ! 簡単な探知魔法!」
よし、この条件でも独りでにページが変わった。
簡単な探知魔法は存在するらしい。
魔力を流す。
すると大まかな効果とその魔法名が感覚的に伝わってきた。
魔導書による追加効果では無い。
魔力操作の恩恵だ。
「“ウィンドソナー”!」
ブワッと俺を中心に風が広がる。
すると脳裏に風の通り道が漠然と伝わってきた。
色々なところを撫でているような不思議な感覚。
かなり大雑把に地形が、そこにある物が伝わってくる。
それぞれはっきり何かは分からない。
それでも半径三十メートル程の事は感じ取れた。
しかし、その距離は大まかにだが目視出来る範囲。
探知の感覚と、実際にそこにある光景が一致しない。
おそらく木なのだろうと言う感覚は分かったのだが、目の前の木を実際に見るのとでは精度が恐ろしく違う。
使いこなすにはかなり練習のいる魔法だ。
多分、先の道が行き止まりかどうかしか分からない。
練習あるのみだ。
安全に探索し、豊かな食生活を手に入れる為。
全力で取り組もう。
ハロウィン投稿は次の【ボッチ24 ボッチは世界の中心で崩れ落ちる】で最後の予定です。




