ボッチ125 ボッチ、妙案を思い付く
年末年始投稿です。
遂に2ページ目、突入しました!
俺達が導き出した答え、それは確実に効果が出るものだった。
天が激しくうねっている。
雲は千切れ弾け幾ら槍もの雷を練り上げて海を焼く。
雑巾から絞り出されたかの様に注がれる滝の様な雨は広大な海を滝壺で囲う。
本来は雲の全てを落とさなければ生み出せない水量も、竜巻が海から巻き上げ、雷が蒸発させる事により輪となり持続し続ける。
未曾有の大災害、それを越えて世界の終末とすら思えてしまう天災が、とある海に襲いかかっていた。
当然、メリアヘム跡地があるあの海域だ。
具体的にはメリアヘムから半径二百キロメートル程を天災が囲っている。
艦隊の姿など全く確認出来ない。
姿が確認出来ないと言ってもこの世から消し去った訳では無い。
封じ込めたのだ。
これで、暫くの間、失礼な人類軍の面々は人里に向えないだろう。
俺達が導き出した作戦とは、この海域封鎖作戦。
言い換えると、時間稼ぎだ。
流石に短時間で世間の信頼を勝ち取る方法など思い浮かぶ訳もなく、考える時間を稼ぐことにしたのだ。
当初は広大な海域に艦隊を閉じ込めるなど無茶にも程があると思ったが、やってみたら以外に出来た。
最初は結界にしようとしたが、試したら流石に人類の精鋭を止められる程の強度で広域に展開することは出来なかった。
そこで、取り敢えず到着を遅らせる目的で波とか風とかを激しくする方針に変更し色々とやっていたらこの結果になった。
自然を操る仙術がかなり良い仕事をしてくれたのだ。
女神様とリオ爺さんのアシストもあり、天災規模だがかなり安定して持続的に展開できている。
これで流石に一日くらいは時間が稼げるだろう。
「「「………………」」」
と言うか、自分達でもやり過ぎた感が否めない。
まさか、ここまでの天災の壁を造り出す事が出来るとは……。
一日どころか永遠に出られなくなっていたりはしないよね?
と言うか、これを俺達は解く事が出来るのだろうか?
発動できたからと言って終わらせる事が出来るかは未知数だ……。
まあ、その時はその時だと思う事にしよう。
転移阻害は天災の壁とは別に展開しているし、いざとなったら人類軍の人達もそちらを破って帰還するだろう。
流石に何人も転移魔法の使い手が居る筈だ。
それに転移阻害は普通の魔術だから込めた魔力が消費されればその内勝手に解ける。
それが何時だかは知らないが、きっと大丈夫な筈だ。
俺達のすべきは加害者の心配では無くこの稼いだ時間の有効活用。
まずは早急に解決しなければならない問題に対処していこう。
「で、何か良い方法は思い付きました?」
「確実なのは魔王軍の討伐じゃろうな。分かりやすく名声と信頼を手に入れられる。じゃが、問題は件の冤罪が魔王軍に関する事じゃからな。今代は人に化ける魔族が多いようじゃし、分かりやすく人々に伝えるのは難しいじゃろうて」
「確かに、何なら魔王自体が人から信頼を集めていそうだし、下手に攻撃したら余計に冤罪が深まるかも」
「魔王軍四天王を倒すというのも難しそうですね。【老怪】はケペルベック神国の実質的な最高権力者にして、世界の大英雄。攻撃を仕掛けた時点で悪役は私達です。倒せたところでどう考えても名声には繋がりません」
認めたくないが誠に遺憾ながら、魔王軍の方が俺達よりも深く人界に潜り込んでいる以上、魔王軍を利用して名声を得るというのは難しそうだ。
名声を得るつもりが悪名高くなってしまう、もしくは悪名にされてしまう可能性が高い。リスクが高過ぎる。
後、大前提として化け物みたいな強さの本当に化け物である魔王軍四天王何かと戦うのはもうゴメンだ。
一度目も二度目も本当に酷い目に遭った。
一度目は腹痛に襲われ社会的に死にかけ、二度目も社会的に死にかけ、と言うか蘇生措置で生き返るかそのままお陀仏かの二択だ。
…………あれ? 一度目も二度目も魔王軍四天王は何故か生命の危機と言うよりも俺の社会性を危機的にしている?
「……魔王軍四天王って、そんな存在でしたっけ?」
「……俺が聞きたいです」
兎も角、もう戦うのはゴメンだ。
そんな不幸はお腹いっぱいである。
社会的にまでダメージが及ぶのなら尚更。
権力者で英雄だとかいう四天王の相手なんて考えたくも無い。
一生、出会わない事を願おう。
「唯一、倒して名声に繋がるとなると古の巨神ディメグデウスかの」
「いやいや、相手は古だろうが何だろうが神ですよ。まず倒せませんし、単に神って言ったらそれだけで世間票を獲得しそうじゃないですか」
「神話に残る相手ですし、その神話では人類の味方。世間から攻撃されるのはこちらになりそうですね」
「やはり魔王軍関連で名声を上げるのは無理そうじゃの」
何故、こうまでも魔王軍の方が社会的信用度が高いのだろうか?
解せぬ。
そんな時、ふと一緒に来ていたホルスが目に入った。
気分転換に冗談を一つ。
「いっその事、ホルス達に悪い魔物のフリをさせて、人類を危機に陥れて、そこから人々を救う様な演技でもしてみますか?」
「「…………」」
あれ? 受けが悪い。
真面目な話の中だと不謹慎だったかな?
「うむ、何の策も思い浮かばなければ最良の策かも知れんな」
「悪辣ですが、冴えてますね」
…………まさかの、良案として捉えられてしまった。
「いやいやいや! 冗談ですから! そもそもこんなに可愛いホルスに怯える人なんかいないでしょう! それにもし仮に悪い魔物に間違えられて攻撃でもされちゃったらどうするんですか!」
「何を言っておるんじゃ? ニューエウロノアではお主のペットに過剰反応してこちらを攻撃したと言っておったじゃろう。他の街にも、人類そのものにも恐怖を感じさせる事が出来るじゃろうて」
「ランク11なんですから、S級冒険者でもいなければそうそう傷付きませんよ。そしてそのS級冒険者達は天災に閉じ込められています」
女神様とリオ爺さんはまだ冤罪のショックでまだ正気を失っていたらしい。
可愛いホルスが人類に恐怖をもたらす事が出来るなんて、どう考えてもそんな筈がない。寧ろ可愛くて誰もがふれ合いたくて近付いて来る筈だ。
いや、待てよ。
これはイケるかも知れない。




