ボッチ124 ボッチとお茶会
年末年始投稿です。
現在進行系で起きている戦場での惨状。
しかし、ここで一つ希望が見い出せた。
「と言うか女神様、これはチャンスなのでは?」
「チャンス? なるほど、貴方も目覚めたのですね」
「違いますよ! 名誉挽回のチャンスです! 今も戦場にいてあれほど混乱しているのなら、本国とかに俺達の冤罪が拡がっていないかも知れません。まだ社会生命を守れます」
「確かにこの世界の情報伝達は遅いと判明しましたし、かなり勝算が有るかも知れません」
これは単に情報が広まる前と言うだけのチャンスでは無い。
あの艦隊が帰って来たところで、大半の人々はこう感じるだろう。
頭がおかしくなって帰って来たと。
そんな奴らの言う事など信じる人々は少数だ。
つまり、先に俺達が名声でも獲得しておけば、その名声が覆る事は無い。
どんなに艦隊の奴らが主張してもちょっとした風評被害にしかならないだろう。
「時間が勝敗を分ける勝負です。早速俺達の社会生命を守りに行きましょう!」
「そうですね。リオ爺さんも呼んで名誉挽回しましょう。ついでに艦隊が帰って来たら莫大な賠償金をせしめる事にしましょう」
俺の正当防衛魔法で結構な事になっていたが、女神様はそこから更に賠償金を請求する方針らしい。
しかも莫大な額を請求するという。
まあ、正直正式に謝罪された訳でも無いし、怒りが収まっていないと言えば俺もそうなのだが。
というか、あの魔法は攻撃に対するちょっとした反撃。
受けた攻撃数に対しては誇張でも何でも無く万分の1しか遣り返していない。
よくよく考えると妥当な最大限の正当防衛に全く届いていなかった。
うん、女神様の要求は極めて正当だ。
何なら身ぐるみごと剝いで露出教にしてしまおう。
我ながら完璧な計画だ。
「じゃあ、リオ爺さんの所へ行きましょう」
「ええ」
完璧な計画を立てた俺達は軽く身嗜みを整え、リオ爺さんの村へ転移するのだった。
「おお、お二人さんとも来たか」
「昨日ぶりです。実は吉報を持って来ました」
「まあ立ち話はなんじゃ、約束通りお茶でも飲んで話そう。良い茶葉を用意しておいたでな」
リオ爺さんは賢者スタイルから一転、また穏やかな村人の服装に戻っていた。
そんなリオ爺さんの招きで家にお邪魔する。
「適当に座っておくれ」
そう言っている最中にもリオ爺さんは流れるように魔法を使いお茶の準備をしてくれる。
皿やカップが宙を浮き独りでにセッティング、井戸から水が飛んでくると薬缶に入り沸騰、ティーポットに茶葉が入り、そこに静かにお湯が注がれた。
美しい程の魔法使いだ。
「前に山に出かけた時に偶然良い茶葉を見つけての」
お茶の芳醇で深い薫が広がってくる。
ただ、お茶の湯気は何故か龍の形を取っており、良い茶葉で済ませて良いものでは無いと思うが。
「いただきます」
「ご馳走になります」
ちょうど飲み頃のお茶は、一口口に含んだだけで花から爽やかな薫が抜けてゆく。
湯気が龍の形をしていたりと明らかに普通のお茶ではないが驚くほど飲みやすい。緑茶のような中国茶といった感じだ。
「して、話とは何じゃ? あんな事があったから、この村で隠棲したいとかそういう話かの?」
「いえいえ、まだまだ隠棲なんか考えてませんから。社会的現役バリバリですから」
「実は、あの冤罪を完璧に打破する方法を見つけたんですよ」
俺達はリオ爺さんに吉報を伝える。
リオ爺さんはお茶を深く飲んで一言。
「正気を失ってしもうたか。よう休め。暫くこの村で休むと良いじゃろう。宿はこの家でええかの?」
信じてくれなかった。
正気まで疑われる、いや狂ってしまったと確信するレベル。
だが、すんなり信じてくれたらくれたらで、リオ爺さんの年齢からも詐欺に騙されやすいご老人なのではないかと心配になるから、安心した。
そもそも信じてくれない事など想定の範囲内だ。
女神様とも同じ様なやり取りをしたし。
「正気です。本当に良い方策が見つかったんですよ」
「実は、あの後の戦場とかを見ていたら、大混乱でまだまだ本国に戻れていない事が判明して」
「しかも軍勢側は正気を失ってしまったようなのです。これなら、本国に帰ってから悪い噂が流れるのを防げるかも知れません。先に我々が名声や信頼を獲得しておけば、確実に冤罪の件は留める事ができるでしょう」
何故人類軍が正気を失ったのか、どういう風に正気を失ったのかは言わない。
お年寄りの心臓に悪過ぎるからだ。
幾らちょっと強い近所のお爺さんでも、心臓に負担がかかったらポックリ逝ってしまうかも知れない。
若いぴっちぴちの俺でも昇天しかけたのだから当然の判断だ。
「なんと、確かにそういう事であれば何とかなるかも知れんの」
見かけは紛うことなきお爺さんであるが、頭の回転は賢者並みのリオ爺さんは簡単な説明ですんなりと納得してくれた。
「となれば、問題はどう世界規模での信頼や名声を獲得するかだの」
そしてこの作戦の一番の問題にもすぐに気が付いてくれた。
世界規模の名声など、世界史に名が刻まれた皇帝や王、将軍や芸術家などが求めて大半が失敗し反対に悪名が刻まれてしまうような、既にある程度得ている人すら求めて簡単に失敗する様な、この世でトップレベルに得難いものだ。
現代では芸能人や政治家のほぼ全員が求めているのだろうが、成功している例は殆ど見ない。
信頼まで得るとなると更に難しく、名声を得た中でもそれに相応しくスキャンダルの無い非の打ち所がない存在となると、それこそ今が旬である人くらいしか残らないだろう。
地球ほど情報伝達手段がないから、欠点の部分は何とかなるかも知れないが、それにしても難しい。
「何をするにしても、かなりの規模が必要ですよね」
「ええ、冤罪をかけてくる人数、影響力を上回る規模が最低限必要です」
「難し過ぎるの」
三人揃えば文殊の知恵というが、流石に難し過ぎる。
そもそも答えが有るのかという、一番の大問題があった。
だが、答えというのは結局元々存在しているものではなく作り出すもの。
どんな無理難題をも乗り越えてきたのが人類だ。
やがて、俺達は一つの答えを導き出した。




