ボッチ19 ボッチとスキル
本編三周年を記念しての投稿です。
周囲は完全に暗闇へと沈んだ。
大量の煙のせいで大気は淀み、空には魔法で生み出した雨雲、星の明かりも今は届かない。
一切の明かり無し。
そう、遂に鎮火に成功したのだ。
どこを見渡しても暗闇、もう炎は残っていない。
そんな状況が体感時間では既に数時間も経過していた。
これはもう鎮火したと思って間違い無いだろう。
しかし消えたと思って実は消えてない事が多々あるのが火の怖さ。
特に広い範囲の火事なんかどこに火種が残っているか分からない。
念には念を、気を抜かずに魔法を維持し続ける。
《ステータスを更新します。
ギフト〈空洞〉のレベルが3から4に上昇しました。
アクティブスキル〈魔力操作〉〈魔力感知〉〈無詠唱〉のレベルが1から2に上昇しました。〈水属性魔術〉のレベルが2から3に上昇しました。
パッシブスキル〈魔力回復〉のレベルが1から2に上昇しました。》
スキルレベルがまた上がるほど消火に専念していると、遂に地平線に茜がさして来た。
かなり時間が経った事は分かっていたが、まさかこんなに時間が経っていたとは。
その事に気が付くと、急に全身が重くなった。
ここに来て疲れが出て来た、いや思い出したらしい。
まるで麻酔銃に撃たれたかのような眠気が襲いかかって来る……麻酔銃で……撃たれた事なんか………無いけど…………zzz。
《ステータスを更新します。
ギフト〈空洞〉のレベルが4から5に上昇しました。
アクティブスキル〈魔力操作〉〈魔力感知〉〈無詠唱〉のレベルが2から3に上昇しました。〈水属性魔術〉のレベルが3から4に上昇しました。
パッシブスキル〈魔力回復〉のレベルが2から3に上昇しました。〈再生〉のレベルが1から2に上昇しました。
魔法〈全属性魔法〉レベルが1から2に上昇しました。
アクティブスキル〈連続魔法〉を獲得しました。
パッシブスキル〈就寝魔法〉を獲得しました。》
強烈な太陽の光。
その直後怒涛の勢いで脳内にステータスのアナウンスが響いた。
そして蘇ってくる最後の記憶。
もう太陽が高く昇っている。
長い間寝てしまったらしい。
だが寝ていた事なんかこの際どうでもいい。それよりも遥かに気になる事がある。
「……おはようございます、女神様。なんかもの凄くステータスが更新されたんですけど?」
早速目の前に浮かんでいた女神様に疑問をぶつけた。
『……あそこを見てください』
女神様は静かに横を示す。
「………………」
そこに有ったのは湖。
そこだけザァザァと雨が降り注いでいる。
さり気なく雨を止める。
うん、自由自在…………。
「とても綺麗な湖ですね……」
大量の炭が良い働きをしているのか底がくっきりと見える。
水道水よりも透明度が高そうだ。
『悔しいですが美しさに関しては同感です。それで、何故スキルレベルが上がったのか理解できましたか?』
「何となくは……信じ難いですけど、寝ている間もずっと発動していたって事ですよね?」
『その通りです』
これぞ正に睡眠学習?
それとも寝る子は育つ?
「……あの、スキルってこんなにも早くレベルアップするんですか?」
『勿論しません。簡単に言うと、スキルレベル1でも資格取得と同じような難易度です。それも実用的な。それこそ〈調理〉スキルで調理師免許取得と同じと言ったところでしょうか。まあ資格と違って試験時以外の全ての行動も加味されるそうですから一概には言えませんが、加味される経験がほぼ実技のみで、試験さえ合格すれば良い訳ではないので結果的には同じような難易度ですね。
そしてレベル2ではその資格が無ければ成れない職業の新人から若手、レベル3で中堅、一端のプロ、レベル4で熟練の達人、レベル5でその道の名匠と言ったところでしょうか。スキルで出来る事は地球と比べられませんが、辿り着くまでの難易度と世間的な立ち位置はそんなところですね』
「レベル5でその道の名匠……」
……空洞の名匠、ボッチの名匠とは一体?
睡眠学習がどうとか、どうでも良くなるくらいの衝撃ワードだ。
そこまで駆け上がるまで一瞬だったし……。
「名匠ってことはレベル5が最大なんですか?」
『いえ、どうやらレベル10が最大のようです』
助かった。
俺はまだボッチを極めてない!
いや、まだじゃ無くてこれからもだけど!
レベル5なんてまだまだ道半ばだ!
『ですがレベル5以上に昇れない方が殆どのようですね。地方によっては最大レベルが5とされる所もある程、そこから急激にレベルアップするのが難しくなるそうです。レベル6で後世に名の残る名匠と言ったところですかね』
……俺はまだ、ボッチを極めて、ない、筈……。
一度上げられた分、落とされた衝撃が強い。
あっ、でも名匠レベルとまでは言わなくとも、熟練の達人レベルまで上がった水属性魔術がある。
流石に水属性魔術の才能があった覚えなど無い。
と言う事は簡単にレベルアップする抜け道が有るのかも知れない。
「何で俺はこんなに早くレベルアップを?」
『う〜ん、本の知識は普遍的なものが中心ですからね。特殊な例の理由は書いてありません。ですが早くスキルレベルを上げる方法などは書かれているので、おそらくはその条件をクリアしたからでしょうね』
「早くレベルアップできる条件? そんなのが有るなら先に教えてくださいよ?」
まさかの抜け道は、本当に有ったらしい。
でも有るなら有るでもっと早く教えてほしかった。
結果的には寝ている間にもスキルレベルは急成長を遂げたが、こっちはいきなり世界を救えと魔物の跋扈する異世界に放り込まれた平和主義のか弱いボッ……じゃ無くて学生だ。
安全の為にも救うことになる世界の為にも安全の為にも、そして安全の為にも、攻略法が有るなら最速で教えてほしい。
『か弱いボッチは安全第一なんですね。その割には自分から危険を生み出していましたが……敵から襲われた訳でもないのに、自分から絶体絶命のピンチになる勇者なんて、前代未聞ですよ?』
「そ、それは、か、火事の危険はどこにでも潜んでいるんですよ! 自分から起こそうとする人なんか居ないのに火事はあちこちで起きるように!」
『短時間で二度も起こすなんて故意よりも酷いです。不注意の王様と言っても過言では無いですよ?』
「ぐっ……そんなことよりも、レベルアップの攻略法を早く教えてください!」
ここら辺で損切りしなければ、それこそ大火傷する。
と言うよりも申し開き出来そうにない。
当然納得出来ないがこれ以上は傷を抉られ、変な称号を付けられるだけだろう。
ステータスにまでも称号欄があったから、下手すると本当に不名誉称号が自分のものになりそうで怖い。
まあ、もう、【孤高】何だが……漢字の部分だけは良さげなのがせめてもの救いだ。
もう一話、今日中に投稿します。




