ボッチ121 ボッチと最悪の朝
真・ハロウィン投稿です。
急ピッチで何とか書き上げました。
バタバタですが、新章開幕です。
「知ってる天井だ」
目覚めると、そこはテントの中だった。
ゆっくりと重たい身体を起こす。
何か、悪い夢を見た気がする。
そう、悪夢だ。
あれは、悪夢に違いない。
人里に出て魔族に遭って、魔族に遭って、魔王軍扱いされてからの本物の魔族に遭って、人類の艦隊に魔王軍扱いされて海底に沈められて、海底で本物の魔王軍、それも四天王に遭って、何か聖地とかいう力の源で四天王が馬鹿みたいに強くなって襲われ、倒したと思ったら攫われ、数え切れない軍隊の皆さんに袋叩きにされて……、悪夢でなかったらどう考えても一日で起こる事ではない。
というか、一生の中でもこの不運を全て体験する事など無いだろう。
やはり、悪夢に違いないのだ。
しかし、悪夢にしては質が悪る過ぎる。
魔王軍とかとの遭遇は百歩譲って不幸であってもそこまで嘆く事ではない。
だが、願いを何でも叶えられる力を以てしても、友達を作る事が叶わないどころか、願いを叶える力の方がどうかしてしまうなんて、あり得ないし俺の精神を攻撃しに来ているとしか思えない。
綺麗な景色でも見て気分を入れ換えよう。
布団から出て、テントからも出る。
「ぷは~、朝日を肴にした日本酒は至高!」
「ウフィ〜!」
「ウ、メェ〜!」
さて、布団に潜って気分を入れ換えよう。
「うぃ〜、起きた様ですね〜」
気分を入れ換えようと思ったが、酔っ払いが入って来た。
前は酒をがぶ飲みしていてもあまり酔っている様には見えなかったが、今はしっかりと酔っている女神様。
外を見てみると、酒を容れていた桶のような容器が空になって幾つも散乱していた。
多分、飲まれた酒の量はちょっとした酒蔵にある在庫、いや醸造過程のものも含めた全てのものと同じくらいの量だ。
比喩では無く、物理的に溺れる程の酒を呑み干したらしい。
神様でも、それだけ飲めば酔うはずだ。
と言うか、神様であっても倒れていないのが不自然でならない。
色々な方面から、最悪な朝である。
「何故に、朝からこんなに飲んでるんですか?」
「朝からなんか飲みませんよ〜、昨日、ここに戻ってからです〜」
「昨日から……」
確かに言われてみれば、神様であっても物理的に酒蔵一つを短時間で呑み干す事なんて出来る筈が無い。
まあ、人間なら一年かけても難しいと思うが……。プロ(?)でも命懸けの挑戦になると思う。
と言うか、ずっと酒盛りしてたんだ……。
「ヒック、飲んでなきゃ、やってられませんからね!」
「フィフィ〜」
「メェ~」
自棄酒をしていたらしい女神様にホルスとアイギスは近寄り顔を擦り付ける。
可愛いペット達は女神様を宥める為に付き合っていたらしい。なんて良い子たち!
やっと悪夢と酒盛りの惨状で荒みかけていた心が癒えて行く気がする。
アニマルセラピーって凄い。
「たく、どこをどうやったら私を魔王軍の一員と間違えるんれすかぁ! 私、神々しくて可憐な女神れすよぉ!」
残念だが、そう言う今の女神様はとても神々しくも可憐にも見えない。
ただただ残念感を漂わせている。
だが、そんな酔っぱらい残念駄女神様の言葉でも、芯まで響くものがあった。
いや、響いてしまうものがあった。
魔王軍と間違えられた、この発言は悪夢を否定している。
それは即ち、悪夢の様な現実の肯定。
しかし待て、魔王軍と間違えられたのは二回目に伝令に行った街だ。
つまり、昨日はそこで帰って眠ったのかも知れない。
魔王軍と間違えられて精神的に疲弊したから、そうであっても何ら不思議じゃない!
「ヒック、貴方も災難ですねぇ〜、メリアヘム跡地で魔王軍に勇者軍、それに何故か神々にまで攻撃されるなんて〜、ヒック」
「………………」
「更に目が死にましねぇ〜、嫌なこと思い出させちゃいましたぁ?」
全部、言われた。
最後の記憶の所まで、悪夢以上の現実だと証言されてしまった。
黙っていると言う気遣いは出来ないのだろうか?
「しゃっきりしないと駄目れすよ〜、そう言う頼りない暗い雰囲気だから友達が出来無いんれす。女の子にもモテませんよ〜」
駄目だ、この酔っ払い、デリカシーが死んでいる。
「まあ、気を落とさないれ! 聖地が消失するくらいのボッチでも大丈夫! 何故か魔王に認定されても何とかなりまふ!」
「………………ガク」
最悪の悪夢まで否定され、悪夢を超える現実だと肯定されてしまった。
これも…悪夢だと…、祈る…ばかりだ……。
「“えくすとらひーる”!」
「フィー!」
「メェ~!」
あ、暗転しない!?
なんて傍迷惑な女神様に御主人様想いな可愛い過ぎるペット達!
酔っ払いの前では、気絶する事すら許されないらしい。
「夕飯食べずに眠ったかられすよ〜」
「…………」
違います。精神的ダメージによるショック死に近い気絶です。
やはり、デリカシーが皆無だ。
「ちゃんと食べないとモテませんよ〜。ただでさえ、ひょろりとしているんれすから〜。男の子はたんとお食べなはい!」
「……はい」
これ以上、絡まれても厄介なので、仕方なく朝食としてパンを食べる。
本当は、何も喉を通さない精神状態だが、それ以上にこの酔っ払い陽キャを追い払うコミュ力は俺に無い。
「まあ、魔王になったって、何も変わりませんよ〜。知り合い全員が冤罪の被害者なんれすから〜。村ならリオ爺さんがこちら側な以上、全く問題ないはずれす! これも交友関係が狭いおかげれすね! 災い転じて福となすとはこれの事! いや、ボッチ転じて福となすれすかね!」
「ん? 魔王になったって何ですか?」
相変わらずどこまでもデリカシーの無い女神様だが、最悪の精神状態でも届く情報が口から出た。
「いや、あの冤罪事件れ魔王と呼ばれ過ぎたせいれ称号に【反覆の魔王】が生じてしまったんれすよ」
「そんな嘘から出た真ありますか!?」
冤罪だったのに本当になるって酷過ぎない?
冤罪の被害者なのに本物になっちゃったら冤罪だって主張しても本物だからまるで無駄。
何故に被害者の方がこんな事に!?
「まあ、称号なんて貴方の力で幾らでも隠せますか、問題ないれしょう〜。そもそも、称号が無くても魔王扱いで各所から総攻撃れすから。不幸中の幸いれすね!」
「確かに、現実は何も変わらない気が……」
でもそれって、不幸中の幸いと言うか、不幸の深淵にいるから変わらないだけなのでは?
「そんな事よりも問題は…」
「そ、そんな事で済む事でも無いと思いまふが!?」
何故か酔っ払いにもツッコまれてしまったが、現状が何か変わる訳でもないし、そんなものは些細な問題だ。
魔王なんてどうでも良い。
「何故、聖地の力を使っても友達が……」
「た、確かに、深刻過ぎる事が、ありましたね」
デリカシーの無い酔っ払いにまで気遣われた……。
「いや待てよ。もしや、冤罪事件で魔王になったから聖地の力でも無理だったのでは?」
「………………本物の魔王になったのは、ここに戻った後れす」
デリカシーを失った女神様すらも言葉を失いかけ、気の毒そうにそう告げてくる。
まさか、魔王も冤罪も関係無いとは……。
もう、俺の異世界生活の詰みは確定したのかも知れない……。
本当に、魔王にでも転職して世界、滅ぼそうかな?
新章もよろしくお願いします。
次話は遅くとも年末年始の予定です。




