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ボッチ120 ボッチの願い

今章最終話です。



「………………」


取り敢えず、紅茶でも飲んで落ち着こう。


「………………」


紅茶なんか無い。

何故、自分が飲まない酒をあれだけ作ったのに、お茶を栽培しなかったのだろう。


酒でも飲むか?

紅茶と同じ様な色合いの酒ならあった筈。


しかし、そもそも酒には飲んで心を落ち着ける効果があるのだろうか?

飲んだことがないから分からない。

イメージ的には、心が落ち着くというよりもどうでも良くなる事は有るかも知れないが、冷静にはなれない気がする。


酒はやめよう。


何か他に飲み物は?

味噌汁で良いか。


「ずずっ……ふぅ」


シンプルお味噌汁は落ち着く。


さて。


「魔王は、ここで仕留める! “シャイニングブラスト”!!」


うん、落ち着いても現実は何も変わらない。

誠に遺憾ながら、寝ぼけてたとか見間違いだとかではなく、実際に善良でか弱き一般市民な俺は何故か魔王と間違えられ襲われているらしい。


「くっ、これでも効かないのか! それでも私は諦めない! 覚悟しろ、魔王! “シャイニングブレイブ”!!」


というか、お前が魔王だろう。

何で勇者みたいに光る剣の振るってんの?

後、何か目に宿る殺気が凄まじいんですけど?


「ずずっ……ふぅ」


もう一服。


「皆さん! 魔王がポーションを接種したという事は、我等の攻撃が効いているという事です! このまま行けば必ず勝てます! 全力で攻めましょう! ――星の輝きよ 太陽の代わりとなりて この地を照らせ――“星門開放”!」

「ふはははっ! よもや、勇者軍と肩を並べ剣を振るう時が来るとは! 良いだろう! 乗ってやる! ――光は導き 光は秩序 唯一の不変 天を巡り四季を届ける 光は原初の規則 光は原初の秩序 初まりにして永遠の法 今ここに秩序を正そう――“照らせアストライヤ”!」

「ヒィッヒィッヒィ! 儂も助力してやろう。――魔導の真髄よ 深淵の叡智よ 主が盟約に従い要請す 全ての力を持って 主が願いを叶えよ――“我はソロモン”!」

「私も座視する訳には行きませんね。――行く川の流れは絶えず されど元の水にあらず 雨は流れ川は流れ 永遠を刻み続ける 水は時の後見人 流れを止めんが為 この槍に託す――“流れよステュクス”!」


一服する間にも、空洞結界の外は落ち着くこと無く何故か激しさを増す。


メリアヘムでも少し見た勇者軍のリーダーらしき執事っぽい人は、手の甲に浮かび上がった紋章を輝かせ、光を全身に纏い。

俺とあまり変わらない歳に見えるのに覇王っぽい人は剣から溢れ出る光をやはり身に纏い。

どっかで見たことが有るような気がするギョロ目で禿げ力しているマッド魔導士っぽい人は闇を纏い。

姫様、いや女王様っぽい人は槍から放たれる青い光を身に纏う。


他にも豪華な銀の弓を持ったエルフの人は弓から溢れる風のような光を纏い、如何にも強そうな偉丈夫の将軍っぽい人は盾から溢れる重い光を纏った。


何れも武器から使い手以上の力が放出されており、それを纏って自身を強化しているようだ。

自分以外の力を扱う以上、負担も大きいだろうし、恐らくは切り札。


何故そんな力まで使って俺に攻撃を!?


どこをどう間違ったら魔王に見えるの!?

ステータス的には真反対の勇者なんですけど!?


「魔王よ! 人類の力がここに集結した! お前はここで終わりだ! “シャイニングブレイク”!」


本物の魔王、そちら側にいるよ!?


だが、大盛り上がりの陽キャに話しかける能力など俺にはない。

どちらにしろこの様子では、『魔王そこにいるよ』と指摘しても誰も信じないだろうけど。


『魔王よ! 聖地を寄越せ!』

『聖地は我のものだぁ!』


加えて、攻撃してくるのは勇者軍や魔王ばかりでなく、光で出来た脂ギッシュなオッサン、服装は豪華で貴族っぽい、何と言うか悪徳貴族っぽい謎の一団もいた。

どう見ても戦いに不向そうな外見なのに、十回の攻撃で俺のボッチ結界を一枚破っており、何故か強い。

そして不摂生そうなオッサンなのに、何故か神々しい。


尚、武器を光らせた連中は、一撃でボッチ結界を一枚、もしくはそれ以上破壊している。


他にもとんでもない数の軍勢。

軍勢同士の小競り合いも起きているようであるが、何故か半分以上の攻撃が俺を狙っていた。


うん、まずい。


味噌汁、味噌汁。


「ずずっ……はぁ」


危機的な状況ほど冷静にならなければ。

味噌汁、結構効く。


ただ、混乱や驚きが収まってくると、今度は無性に苛ついて来た。

冤罪事件に遭っているのだから当然だ。

怒りを感じられるのも冷静な証拠。


冷静に解決しよう。


「出よ! 死傷者を出さずに最大限に甚大な被害を与えて軍勢を退けさせられる魔法!」


こんな時に便利なのが魔導書。

何の為にあるのか分からない魔法まで有るのだから、こんな状況も一発で解決出来る魔法が有るかも知れない。


無ければ災害魔法で正当防衛だ。


「えっ? 有るの!?」


魔導書はまさかの開かれた。


残念。


今回は峰打ちで許すとしよう。


魔導書に魔力を流す。


描かれていたのと同じ魔法陣が周囲に展開された。

そして前方上空に現れる灰色の渦。


灰色の渦はやがて中心に集まり渦の球となる。

渦の球は縮み続けると、光に変わり大爆発を起こした。

衝撃波が発生してもおかしくない程の轟音が轟き、辺りは魔法の残滓か灰色の大気が広がる。


轟音と大爆発にやり過ぎたかと心配になったが、誰も被害を受けた様子はない。

爆風で大波が起きるという事もなく、終わった。


「あれ? 失敗?」


それとも、強者ばかりだから強めの結界で気が付かない内に防がれてしまったのだろうか?

いや、張ってある結界は見える範囲でどれも傷付いていない。


今度は自力で発動してみる。

多めに魔力を込めると、先程よりも大きな爆発と轟音が轟き、灰色の大気がより濃く広く広がった。


単にこういう魔法なのだろうか?

爆竹魔法とか、見かけと音だけの脅し魔法かも知れない。


しかし、念の為、何度も発動してみる。

試しに馬鹿みたいに魔力を込めたり、神力を込めたりと色々してみたが、特に変化はない。

こちらに攻撃を続ける失礼な連中を確認しても、何かダメージを受けたようには見えなかった。


そう思っていたが、戦艦からの攻撃は何故か止まった。


やはり、対象の強さによって術の効き目が大きく変わってくるのだろうか?

それとも戦艦特攻の船酔い魔法だったとか?

何が起きたか知りたいが、俺は謎神殿と共に上空におり、大砲が届いてしまうくらいの高さだが、爆炎とかで襲われている事も有りよく見えない。


まあ、効いているのなら災害魔法は勘弁してやろう。



問題はどうやってこの場から去るかだが、そもそも女神様がこの謎神殿の正体を調べてくれるまでここを動けない。

この謎神殿は危険物だ。またあの魔王軍四天王みたいなのを生み出す可能性がある。


勇者軍に回収されるのなら、冤罪事件を生む失礼集団でこそあるが、まあ百歩譲って問題ない。

しかし、この場には魔王までいる。

魔王がこの謎神殿を手に入れれば、悪用しない筈が無い。

あの化け物を部下にしていたのだから、当然この神殿を使えば更に強くなるだろう。

魔王軍四天王のヴィルディアーノの時点で三人がかり。魔王が強化されたら手に負えない。


が、この状況も手に負えない。


女神様、まだ?


というか、いつの間にかメリアヘム跡地に来ているが、女神様、この場所が分かるだろうか?

逆に俺が探す立場なら、多分見つけられない。魔法を使えば何とかなるかも知れないが、相当な時間がかかるだろう。


まずいかも知れない……。


いやいや、女神様パワーがあればきっと大丈夫な筈。


………………。


……自分でも調査を始めておこう。


もしかしたら、この謎神殿を使えなくする方法が見つかるかも知れない。

そもそも、使い方から知らないけど。


取り敢えず、一本だけ生えた木が怪しい。

調べたら何かしら分かるだろう。


そう思って木に触れると、脳裏に声が響いてきた。

 

《【聖地アルブナーム】は解放されています。

解放者を確認。

解放者は現在存在しません。

試練は展開中であった事を確認。

到達者と認定。

資格を付与します。

権限レベルを判定します。

現在の最高権限者が空席です。

資格者に最高権限の付与を試みます。

第一要件:解放者である事を確認出来ません。

要件に満たいない為、請求権限を落とします。

第二要件:到達者であることを確認。

第三要件:フィーデルクスの存在で有る事を確認出来ません。

要件に満たいない為、請求権限を落とします。

特殊要件:フィーデルクスの真なる勇者である事を確認。

特殊要件を満たした為、請求権限を最高権限に引き上げます。

特殊要件:勇者かつ神力を有する事を確認。

マサフミ=オオタに全権限を付与します。

何を望みますか?》


触れた事で謎神殿が、聖地がどういう存在なのか何となく理解出来た。

創造そのもの、世界に等しいエネルギーの塊、それを制御する世界の中心。

力の質が大雑把にどういうものなのか、何ができるのかが大雑把に分かっただけだが、それだけでもやはり放置して良いものでは無さそうだ。


基本的に、莫大なエネルギーであらゆる願いを叶えることが出来るだろう。

多分、本質的には願いを叶える為の何かではない。

だが、余りに大きな力は、あらゆる願いを叶える力を有す。


聖地に願えばこの窮地からも抜け出すことが出来るだろうか。


いや待てよ。

何でも願いを叶えられるなら、きっとこの願いでも!


「友達を百人作ってくれ!!」


俺は願望を叫ぶ。

それに呼応するように聖地も光を放ち始める。


《願いを承認。

成し遂げた勇者に友達を作ります。

エラー。

エネルギーが不足しています》


あれ? おかしい。

エラーとはどういう事か。


《アプローチを変更します。

成し遂げた勇者に友達作りの能力を試みます》


成る程、聖地はそこらの人に俺が友達だとすり込もうとしたらしい。

それは不特定多数の人を書き換える様なものだから、負荷が大きいのだろう。多分、多くの人にスキルを与えるのと同じ様な負荷がかかるのだ。

多分、それを百人どころか世界規模でやろうとしたのだろう。

そんなの、エネルギー不足になるに決まっている。


《スキル〈友達作り〉の付与を試みす。

エラー。

エネルギーが不足しています》


「………………」


これは、どういう事か?

ヴィルディアーノが殆どのエネルギーを使い果たして、乾電池一本分のエネルギーしか残っていないという事なのか?

そうだよね?


《資格者ヴィルディアーノが用いたエネルギーの大部分は回収済みです。

当機能に問題はありません》


はあ?


「そんな筈はない! 何としてでも友達百人寄越せ!」


《全権行使を確認。

願いを承認します。

スキル〈友達作り〉の付与を試みます。

エラー。

エネルギーが不足しています。

全権により強制実行します》


聖地が激しく輝き出す。

圧力を伴う力の渦は、願いの成就を確信させた。

魔王すらも吹き飛ばされてしまいそうなのを耐えている。

これだけの力が有れば、叶わない願いなど無い。


〈エラー。

エネルギー残量が一割を下回りました。

全権により強制実行します。

エラー。

エネルギー残量が一パーセントを下回りました。

聖地の維持に支障あり。

全権により強制実行します。

聖地の存在を賭して実行〉


そして聖地の発光が止まった。

聖地から色が失われてゆく。


スキルまだ?


〈エラー……失敗…し…ま…した……〉


色が失われた聖地は端から砂が風に飛ばされる様に削れ、消えてゆく。

そして、最後は何も残らなかった。


「………………」


場の空気が止まった。

誰もが唖然とすら出来ず、聖地の滅びを見送っている。


『聖地の正体が分かりました!! それは力の根源とも呼べる存在です!! 世界に溶け込んだ創世の力を呼び起こし、再びあらゆる創造を可能とします!! 世界の本体とすら呼べる力を秘めたものです!! それが有れば叶えられない願いはありません!! 巨万の富も世界の支配も、永遠の命すらも思うがまま!! 世界の救済すらも叶うかも知れません!!』


こんな時になって報告に来た女神様。

聞きたく、無かった……。


俺にとっての友達作りって、世界の支配とか不老不死よりも難しい事なの!?

世界の本体的な力があっても無力なの!?


……ああ、意識が…………。


『ちょっ!? 泡ふいて白目剥いてる!? というかこの惨状は一体!?  と、取り敢えず、“転移門”!』


…………もう……無理……ガクり……………。



次話からは登場人物紹介になります。

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設定集
〈モブ達の物語〉あるいは〈真性の英雄譚〉もしくは〈世界解説〉
【ユートピアの記憶】シリーズ共通の設定集です。一部登場人物紹介も存在します。

本編
〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~
【ユートピアの記憶】シリーズ全作における本編です。他世界の物語を観測し、その舞台は全世界に及びます。基本的に本編以外の物語の主人公は本編におけるモブです。ボッチは本編のアンミール学園で裸体美術部(合法的に女性の裸を見ようとする部活)の部員です。

兄弟作
クリスマス転生~俺のチートは〈リア充爆発〉でした~
ボッチと同じ部活の部長が主人公です。

本作
孤高の世界最強~ボッチすぎて【世界最強】(称号だけ)を手に入れた俺は余計ボッチを極める~
本作です。

兄弟作
不屈の勇者の奴隷帝国〜知らずの内に呪い返しで召喚国全体を奴隷化していた勇者は、自在に人を動かすカリスマであると自称する〜
ボッチと同じ部活に属する皇帝が主人公です。

兄弟作(短編)
魔女の魔女狩り〜異端者による異端審問は大虐殺〜
ボッチと同じ学園の風紀委員(ボッチ達の敵対組織)の一人が主人公です。

英雄譚(短編)
怠惰な召喚士〜従魔がテイムできないからと冤罪を着せられ婚約破棄された私は騎士と追放先で無双する。恋愛? ざまぁ? いえ、英雄譚です〜
シリーズにおける史実、英雄になった人物が主人公の英雄譚《ライトサーガ》です。

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