閑話 勇者軍4 世界総力戦
お彼岸投稿です。
時間軸はボッチのお昼寝中です。
メリアヘム陥落により各地に分散した勇者軍。
その選択はリスクを分散するのみならず、世界各地に目と耳が行き届いた結果として情報収集能力を向上させていた。
何か事件が起きれば人員が即座に直接向かい、各地拠点に設置した直通の連絡手段によって迅速な情報共有が可能となったのだ。
情報の質も速度も向上していた。
そんな中で各地の拠点に届けられたのは、間違いと疑わざるを得ない緊急事態を告げる情報であった。
その報によれば、各地で神々が高位神官を依り代として降臨しているという。
通常、神が地上に降臨することはまず無い。
百年に一度あれば多い方。魔王軍侵攻という世界の危機に際しても、地上に降り立つ神は滅多にいない。
そもそも神々は地上においてその強大な力を殆ど振るえない。
地上に留まる肉体を持たない為、瞬間的には強大な力を発揮出来ても、瞬く間に消耗してしまう。
信者の肉体に降り立つ場合は、その消耗こそ抑えられるが肉体の強度により振るえる力の上限が異なり、信者にも多大な負担を強いる。
神々は信者全体の危機となるような事態にしか干渉しようとせず、その様な事態の場合、信者の肉体で発揮できる程度の力ではその脅威を打ち破ることが出来ない。
偶然地上に強固な肉体を持つ信者が存在し、魔王軍級の敵と戦いになっている場合という特殊な環境下でなければ神々は地上に降り立た無いのだ。
神々が信者に力を貸すことは多々あるが、直接地上に現れる事は無い。
これが常識だった。
そして勇者軍は有事に備えた情報収集により、現実的な範囲で神を降ろせる程の力を持つ高位信者の数を把握している。
今回、降り立ったと報告されている神の数は、高位信者の数よりも遥かに多い。
一柱ではなく複数の神々が降臨したというだけで歴史に残る異常事態だが、力を十分に発揮出来ない信者を依り代にしてまで神々が降臨するなど、歴史の消失するも予感させる異常事態だ。
つまり、神々がそこまでしても降臨しなければならない程の事態が発生したのだと、勇者軍の人員は分析までもなく確信した。
加えて、高位神官に宿った神々は次々と何処かへ姿を消しているという。
世界の危機に違いない。
誰もがそう考えた。
通常ならば誤報と疑うところだが、又聞きではなく勇者軍の人員が直接確認している。
加えて遠方の各拠点でも同様の報告。
間違いと疑う、いや間違いと願い何度確認しても誤報の可能性は見い出せず、寧ろ情報の確度は上がっていった。
しかし、世界の危機を告げる情報の確度が上がっても、勇者軍は動けずにいた。
神々が降臨したという事実以外に、何故神々が降臨したのか、何が起きたのかを全く把握出来ていなかったからだ。
唯一知っている神々とその高位神官達は一様に姿を消し、聞き取り調査を行う事もままならない。神を降ろした以外の高位神官達もいなくなっていた神殿が殆どだった。
そんな混乱の中で、療養中の【大聖女】クライシェより重大情報がもたらされた。
『メリアヘムへ向かい世界を守れ』
それは神託だった。
短い神託。
しかし、それは勇者軍を動かすのに十分であった。
数百年間勇者軍を支え続けている大幹部が数千年間人類を助けて来た神から受けた神託。
加えて、報告の後、回復しきっていないクライシェは倒れたという。
従わぬ余地はない。
そして更なる報告が【覇海将軍】ビクトールよりもたらされた。
『メリアヘムにて魔王率いる魔王軍及び神々と交戦中。勇者協定に基づき勇者軍及び各国に全兵力での援軍を要請する』
勇者協定、それは三代魔王軍から人類を守り抜いた際、生き残りの人類達が結んだ誓い。
魔王及びそれに類する世界の脅威が現れた時、あらゆる利害関係を排し各国各組織は全戦力をもって一致団結し脅威から世界を守るというもの。
人類憲章とも言われるそれは従わなければいつ他国から攻められても文句が言えない大義を参加国に与える、人類の味方と敵を定義してしまう程の盟約だ。
当然、その要請にも多大な責任が伴う。
そうなるよう、人類は努めてきた。
魔王大戦を主導権争いの道具としてきたケペルベック三国ですら、足並みを揃えたかは兎も角、表向きは要請に従い共闘の姿勢を崩さなかった。
ただ魔王が現れ交戦中の為、援軍を要請するというのであればなんの問題もない。
魔王軍が現れてもその元凶たる魔王が現れていなかった今代において、魔王と交戦中というのは吉報とすら言える。
しかし神々とも交戦中という。
一体、何が起きたのか。
盟約の重さから、虚報というのは考えられない。
ビクトール提督の人柄も勇者軍はよく知っていた。
私利私欲に囚われる様な人物ではなく、手の届く範囲の人々は救う正義の御仁。妻子のいない自分に資産など不要と報酬の殆どを慈善事業につぎ込む世界でも屈指の人格者として評判だ。
どんな状況下でも冷静な判断を下せる世界屈指の指揮官でもあるし、そんな彼が間違った要請をするとは考えにくい。
勇者軍の大部分は会ったことも無い神々よりも、実際に関わり人柄を知っているビクトール提督の事を信用していた。
だからといって、何が起きたのかは分からない。
しかし、向かう他無い。
世界の危機かも知れない状況下で、情報不足は致命的だが、それでも征くしかあるまい。
それが勇者軍、また各国の判断だった。
そんな中、また更なる重大情報がもたらされる。
『ギュリベーム枢機卿及びエトゥピㇼカ皇女、連名でケペルベック神国全兵力にメリアヘムへ向かうよう命令が下された。主戦力である中央神聖騎士団は即刻全軍が出撃。十三ある聖戦兵団の中、八兵団も後を追い出撃。残り二兵団は義勇隊の編成中。集結し次第第二陣として出撃すると考えられる。それに伴い反エトゥピㇼカ皇女勢力が軍勢を招集中。既にケペルベック神国の職業軍人約三十万人が各派により動員済み』
『パリオン王国にてクーデターを起こし王国政府を掌握したジークヮーサー第四王子が王国軍全軍に出撃命令。既に王都に存在する全王国騎士団は王子自らに率いられて出撃。非常動員令が発令されており、残りの各軍は兵力及び物資を集め出撃準備に入っている。反ジークヮーサー王子勢力の内、最大勢力王太子派が兵力動員を開始。第三王子派は派閥としてまだ動きを見せぬものの、構成貴族の一部は既に軍勢を招集中。現在、パリオン王国正規兵力の約七割に当たる二十五万人に動き有り』
『正統ケペルベック帝国にて反乱の兆し有り。北部最大派閥を率いるナスナエル侯爵家が兵力の総動員を開始。呼応するように西部東部の有力貴族にも動員をかけている家が現時点で十家以上。それに対し帝国軍も動員を開始。皇帝は星盾使いにして帝国最強であるガンドール将軍に総指揮権を渡し、ガンドール将軍は民兵の招集を開始。帝国の歴史上でも最大規模の衝突になる恐れ有り』
もたらされた情報は、それぞれ五大列強の中、ケペルベック後継国が大軍勢を動かしたというものであった。
その規模は、正規兵だけでも史上最大。徴集兵も合わせると更にその数は数倍に膨れ上がる。
目的が何であるにしろ、歴史に刻まれる大事件の兆候であると誰もが確信した。
神々のみならず列強国の総戦力に近い軍勢がメリアヘムに向かった。
メリアヘムで、世界を揺るがす何かが起きている。
加えて、ケペルベック神国を動かしたのは、あの魔王軍四天王であるとの情報があったギュリベーム枢機卿。
『勇者軍全部隊!! 最大限の武装をしメリアヘムに急行せよ!!』
デオベイル勇者軍総統は勇者軍全軍の出撃を命じた。
同時に世界各国に援軍を要請。
全S級戦力の招集も行った。
実質、世界の総力戦が、史上最大規模の戦いがメリアヘムの地にて行われようとしていた。
そんな中、世界を揺るがす中心にいるどこかの勇者は、鼻提灯を揺らしていた。
当の勇者だけが、まだ何も知らない。
勇者は、世界情勢からもボッチだった。
次話も視点が変わります。




