閑話 提督4 英雄対世界の敵?
敬老の日投稿です。
流石に夏休み投稿と言い張るのは厳しいと感じる今日此頃です。
艦隊は死の海域と呼ばれる海、【冥府の口】にて陣を構えた。
ここはデルクス大陸近海において唯一、魔獣が存在しない海域であると同時に、最も沈没事故が発生しているデルクス大陸随一の危険海域だ。
魔獣すらも生息できない過酷な環境が海底には広がっており、魔術的な守りすらも容易く揉み消し戦艦をバラバラにする地獄が広がっている。
神の力すらも届かぬその海に沈んだ者に、生還者は現在確認されていない。
我々も、史上最強の艦隊であってもここで沈めば二度と浮上することは敵わないだろう。
しかし、この地の利こそがおそらく唯一の勝ち筋。ギュリベームは海に疎く、我々は海と共に生きてきた。
死の海域であってこそ、我々にも勝機が見えてくる。
ギュリベーム程の実力者に対してもこの海が死の海であるかはは賭けになってしまうが、それが最も高い勝算であることには間違い無い。
そして、その時はやって来た。
『私はオスケノア王国デルクス大陸軍提督兼デルクス大陸総督府総督代理、ビクトール・ザイン・ノア・アーヴノアである!!』
ギュリベームを閉じ込めた馬車が計画通りにこの海域に到着したのだ。
『ここに展開された艦隊はデルクス大陸のみならず世界一の艦隊!! 乗り込むは海上最強の名を欲しいままにするデルクス艦隊の精鋭に加え、デルクス大陸に名を轟かせる歴戦の勇士達!! 世界のA級戦力、B級戦力、世界の十分の一、それ以上に匹敵する戦力が今ここにいる!!』
私はサーベルを抜き剣先をギュリベームに向ける。
それに合わせて勇士達が得物を抜き構えた。
『覚悟せよ魔族!! お前達はここで討ち取る!!』
宣言と同時に馬車を乗せた船は爆発。
城門も吹き飛ばす高位魔獣の魔石を用いた魔導爆弾は馬車には傷付ける事すら出来なかったが、船を跡形も無く消し去った。
『さらばだ!! 魔族よ!! ここは沈んだ者が一人も戻らぬ【冥府の口】!! 例え浮上してもお前達の運命はそこで終わりだ!!』
堅牢な馬車は非常に重く、殆ど抵抗無く死の海へと沈んでゆく。
「「「”大地の抱擁“!!」」」
更に追い討ちをかけて地属性魔法が使える者ほぼ総出で馬車の重力を増加、岩山をも押し潰す重力をかけて確実に海の底へと沈める。
瞬く間にギュリベームを乗せた馬車は視界から消え、魔術の探知も届かない死の領域へと沈んだ。
「……勝った、のか?」
『油断するな!! 相手は世界最強にして魔王軍四天王!! 対象を見失っても海域に重力増加魔法をかけ続けよ!! 全砲即座に撃てる体勢で待機!! 儀式魔法も発動待機状態を維持せよ!!』
「「「「「はっ!!」」」」」
呆気ないほど簡単に策が成功したが、策が効いているかは分からない。
相手は人類を滅ぼせる最大級の脅威、油断一つで最悪の事態が起こり得る。
永遠にも感じられる時間が一秒、また一秒と刻まれてゆく。
そして、秒が分になりかけた時、恐れていた事態が発生した。
『全艦全速後退っっ!!』
激しく揺れる船体、荒れ果てる海、そして天を穿く水柱。
水柱が空へと消えると、海には底が見えぬほど深い大穴が空いていた。
海が形を戻す事なく、世界の法則に逆らって大穴は空いたまま。
死の海域が、海が殺された。
これが、世界最強の実力……!!
遥かに想定を上回る力だ。
神々ですらも、海を殺し大穴を空け続ける事など不可能なのでは無いか?
大穴は単に水を蒸発させ空けられたのでも、魔力等の圧力によって維持されている訳ではない。
海という存在そのものとでも呼べる何かが、空間そのものが破壊されている。
海水では無く場所に依存した海の力が大穴からは全く感じなかった。海が本当の意味で死んでいる。
『全艦船底に結界を展開!! 砲撃部隊及び儀式魔法隊は標的を発見し次第、攻撃を開始せよ!!』
だが、海を殺せる力があろうと、例え相手が神々をも上回る力を有していたとしても、我々が成すべき事は変わらない。
相手が如何に強大な存在だとしても、我等が成すべきは人類の守護。人類を滅ぼさんとする脅威の排除。
元より我々は絶望に挑んでいる。
この程度で我々が止まることは無い。
敵はすぐさま浮上することは無かった。
代わりに海底から噴き上がるのは荒れ狂う莫大な魔力。そして広がり続ける大穴。
何かをしているのは確実。
もしや、大穴を空けても浮上出来ない何かがこの海域には存在したのか。
しかし、そんな希望を打ち砕く現実が顕現した。
大津波、いや海そのものに呑み込まれたかのようなイメージ。
続いて感じる全方向から締め付けられる様な圧力。
感覚的なものなのか物理的なものなのか判断できぬ程の重圧。
最も強く感じるのは畏怖。
死の予感すらも消え去る圧倒的な力。何も出来ないのが当たり前と全てを投げ出してしまいそうな自分がいる。
そんな強大な何かが、力が海底で顕現した。
力は何段階も強くなってゆく。
もはやその大きさは分からない。それ以上の畏怖もなく、ただただ計り知れぬ強大な力。
強大という事以外は何も分からない。
まるで、世界そのものの力が顕現したかのように感じる。
それ程の、知り得る上限を越えた力。
「フッ」
思わず、笑ってしまった。
動けなくなっていた船員達が、こちらに意識を向ける。
独り言を、求めに応じて呟く。
「感謝しようギュリベーム。我等人類如きにそれ程の力を使い滅ぼそうとする事に。蟻相手に全力を尽くす貴殿に感謝する。だが、それで希望を捨てると思ったのであれば大間違いだ。我等の絶望が深まる事は無い。元々絶望に挑み、絶望から希望を見出そうとしていたのだからな。その程度で、我等が人類を諦めると思うな」
私は再びサーベルをギュリベームに向けた。
そして英雄達に語りかける。
『我等は人類!! この程度の脅威を何度も打ち砕いて来た英雄達の末裔!! 今、特上の絶望が目の前にある!! 舞台は整った!! 今こそ、我等が英雄となる時だ!!』
「「「「「おおうっっ!!!!」」」」」
英雄達は不敵に笑う。
絶望に唾を吐きかける様に。
遂に大穴から姿を現す人類の敵。
「「「”天の怒り“!!」」」
英雄達は、怯むこと無く攻撃を撃ち込んだ。
戦略雷撃魔法”天の怒り“、ドラゴンも一撃で討伐する大魔法の一つ。発動に高位の魔術師が複数必要な為、実質大国の主力魔法師団しか発動出来ない大国の切り札の一つ。
それを魔族はいとも簡単に打ち砕く。
だが、それで良い。
奴らは防御した。
我等にも勝機が有るという何よりもの証拠。
「魔王軍四天王が現れた!! ここで必ず討ち取るのだ!! 我等が背には人類の未来がある!!」
拡声魔法を解き、地声で言葉を伝える。
「総員、撃てぇーーー!!」
眩しい程の魔導砲撃が寸分の狂いもなく嵐となって魔族達に撃ち込まれる。
やはり、彼等は英雄であった。
誰もが希望を掴むために絶望に向かい突き進んでゆく。
魔族達の後から現れたのは禍々しくも神々しい腕、おそらくは召喚した邪神の類は触れただけで海を破壊しながら海上に伸びてきた。
これが圧倒的な重圧の正体。
しかし、それにも怯む事なく誰もが攻撃の手を止めない。
「ミシェーナ、どうか私に力を貸してくれ…。“海神の祝福”!!」
そして、私も全ての力を解放した。
次話も閑話が続きます。
 




