閑話 提督3 人類を賭けた戦い?
各地からワイバーンが艦隊の甲板へと降り立つ。
そしてその背から竜騎士、では無い戦士達が降り立ちワイバーンは再び空へ。
ワイバーンとその手綱を握る竜騎士は国力をも左右する力、百名の竜騎士を抱える部隊と千名の正規兵による部隊とでは竜騎士の方が数段優れていると判断される。
更に倍の一万名の兵団とすら渡り合える戦力であると評価される程の力を有している。
攻撃の届かない空から高い機動力を持って戦う竜騎士は兵器と呼んで良い程の戦力だ。
だが、今はそんな竜騎士がただの輸送要員として動いていた。
相手は魔王軍四天王、並みの竜騎士では全く相手にならない存在。
幾ら機動力が有っても、C級冒険者相当の実力を有する竜騎士だとして、全力の攻撃を直撃させても魔王軍四天王は傷一つ付かない。
小国においては国家最強の戦力である、中堅国家においても多くの場合上から片手で数えられる程の力を持つB級冒険者相当の実力が有って初めて、戦闘の荷物にならない程の脅威。
それがこれから戦う相手だ。
各地に配置されていた戦艦も近隣の戦力を拾って続々と集結してゆく。
デルクス艦隊に属する海兵は勿論、普段は街を守護する兵に騎士、冒険者や商人の抱える護衛、更には前線を退いていた強者達が、デルクス大陸中の強者達が集結していた。
加えてデルクス大陸中の戦略物資も運ばれてくる。
魔導砲を始めとした魔導具を稼働させるのに必要な魔石。
本来は街を守護する為、もしくは有力者が身を守る為に収集した魔導具に武具。
高位の回復ポーションなど各種魔法薬。
貯蔵していたもの、売られていたもの、個人所有ものも限らず、掻き集められるだけ掻き集めていた。
有り難い事に、有志から届いたものは殆どが自主的に無償提供されたものだ。
既に移動系アイテムは、使い切りのものであろうと、対価に莫大な魔力や高位の魔石を必要とするものであろうと構わず、一回しか使えない国宝級のもので有っても出し惜しみせずに使用している。
ここで使う以上に必要な場面など無い。
これは大陸の存亡を賭けた戦い。
負ければ人類そのものを含めて全てを失う。
全てを出し尽くす時。
魔王軍四天王ギュリベームがポートデルクスに入ったと連絡があった。
用意しておいたこの大陸一頑丈な馬車、最も堅牢な戦車を改良し、内側の強度を大幅に上げた動く牢獄。
伝説の超古代国家アルガンリテルの遺跡から発掘されたものであり、あまりの強固さに分析調査も外側しか出来ていないアーティファクト。
そこにギュリベームを収容する事に成功したとの連絡。
魔獣が犇めく魔境を走り抜けられる様に設計されたその戦車は、城門を一撃で吹き飛ばす大規模儀式魔法も耐久試験で耐えており、盾としてもこの大陸屈指と呼べる程の堅牢さを誇る。
魔王軍四天王相手にそれが何処まで通用するかは分からないが、時間稼ぎは出来る筈だ。
最悪、馬車が移動する間の時間だけでも稼げればそれで良い。
その間にどれ程の戦力をかき集める事が出来るだろうか。
デルクス艦隊全四十五艦、退役していた旧型艦五艦、内装等はまだ未完成だが戦艦として戦う分には問題無い建艦中の新型艦二艦、それがこの大陸において招集可能な海上戦力の全て。
その内、デルクス艦隊四十三艦は集結済み、残り二艦は現在戦力を回収しつつこちらに向かっている。
退役艦は魔導砲等の装備を外していた為、再び武装を整備士総出で行っており、出港済みなのは三艦。
新型艦は集結済み。
艦隊の規模としては現段階でも十分に集まっている。
しかし乗組員は、大陸中から集めているためにあらゆる方法で移動しているが、現状七割程度。
この大陸にいるA級冒険者、A級冒険者相当の実力者は引退している者も含めて二十九人の内、二十四人が既にここに集まっているのは不幸中の幸いだが、魔境を強行突破出来ない者達は到着が遅れている。
何より彼がまだ着いていない。
「遅くなり申し訳ない!」
そう思っていると、彼が空から現れた。
間に合ってくれたらしい。
「ルーベルト殿!」
【未開の覇者】ルーベルト。
デルクス大陸で活動するこの大陸唯一のS級冒険者。
四十人目の勇者を捜索する為、前人未踏ほ魔境の先行調査を行っており、S級の彼でもそう簡単には移動できない場所にいたが、何とか駆けつけてくれた。
彼がいればデルクス大陸の戦力の内、八割五分が揃ったと考えても良いだろう。
可能な限りの迎撃体制は十分整ったと考えて良い。
しかし、相手は魔王軍四天王、果たしてどれ程の力を有しているのか。
魔王軍四天王でなくとも【世界最強】たるギュリベーム枢機卿は確実に私やルーベルト殿よりも格上の実力者。
千年前の時点で魔王にトドメをさした人類最強であり、中堅国家に匹敵する領域の魔力全てを束ねて地域ごと魔王を滅ぼしたと伝わる。
列強レベルの国家が魔術師を総動員し儀式を行っても再現不可な偉業を成し遂げた伝説の大魔導師だ。
歴代で見ても、少なくとも史上最も最強の杖である“星杖”の力を引き出した天才。
聖職者としての力も強大であり、容易く欠損を再生させる回復魔法が扱え、アンデットだけになった街を杖の一振りで浄化させた等の逸話を持つ。
千年前の時点でそれ程の力を有していたギュリベーム枢機卿が、千年前の間にどこまで力を伸ばしたのか。
魔王軍四天王としての力まで手に入れた今では、かつての魔王を超える力を有していても不思議では無い。
もし最悪の想定通りであるならば、今の我々が勝つのは難しいだろう。
だが、例えどんなに戦力差があったとしても勝たなければならない。我々が退けばこの大陸に未来はない。
ここで止めなければ、人類そのものの命運ですらも尽きてしまう可能性がある。
これは個人の決闘では無い。
自らの命、自らの信念すらも投げ打つ聖戦だ。
これは国家の戦争では無い。
権威は意味を成さず、大義名分すら掲げぬ決戦だ。
これは人類の命運を賭けた戦い。
全てを賭して、心を一つにする人と魔との戦いだ。
幾人倒れようと降伏は無く、勝機が無くとも勝利しなければならない。
『総員、持ち場に着け!!』
私は喉に拡声魔法をかけ、号令を出す。
『魔王軍四天王にして【世界最強】であるギュリベームは強敵である!! 人類そのものを滅ぼし得る脅威である!! 故に我らが恐れる必要は無い!! 恐れ逃げ出しても、負けた後に残るのは確実な人類の滅亡なのだから!! 利害も信念も関係ない!! 我らが人類というだけで残された道はただ一つ!! ただ勝つのみである!! 負ければ我らを責める者すら残らぬ!! 故に全てを出し尽くし勝利を得るのだ!! 英雄達よ!! 征くぞ!!』
「「「「おおぉーーーーーーーーーっっ!!!!」」」」
得物を掲げた英雄達を乗せた艦隊が、決戦の場に向け出航した。




