閑話 提督2 大陸の危機?
『魔王軍四天王が現れただと!!』
驚きのあまり一瞬止まった後、勢い良く立ち上がると船が大きく揺れた。
「提督閣下、落ち着いてください!!」
「……すまぬ」
無意識に力が漏れてしまったらしい。
私は海を操作する力を有している。海を操作する魔術や技ではなく海を操作する力だ。技術ではない為、強い感情により意図せず働いてしまう事がある。
強い力は不便な点も多い。
「詳しく情報を教えてくれ」
『はっ、先程、当ギルドに魔族の情報を届けに来た伝令と称する三人組がやって来ました。伝令としての身分を示す為に提示されたのがS級の冒険者カードでした。登録名はリオ・レ・ウルシス、ギルド登録年は照合したところ約千年前、冒険者カードに表示されていた筆頭称号は【世界最強】、魔王軍四天王との情報があった【老怪】ギュリベーム枢機卿で間違いないと考えられます』
「【世界最強】を有するか……。ギュリベーム枢機卿で間違い無さそうだな」
世界最強は誰か、戦闘に携わる者以外にも一度は話題に上げる疑問だ。
そんな中で必ず名が出るのが、最古の冒険者であり千年近く活動している【竜王】ラダガス様、伝説の勇者シェルトベインの子孫にして現勇者軍を率いるデオベイル総統、そして前回の魔王大戦で十四代魔王ユグリドスにとどめを刺した千年以上生きる大魔導師にして星杖使いであるギュリベーム枢機卿。
この三人の内の誰かが確実に世界最強であるとされている。
そして、その世界最強とはギュリベーム枢機卿だ。
それを確かな情報として私は知っていた。
オスケノア王国は五大列強の一角として、それなりの諜報力も有している。他国の戦力、それもS級戦力の力を調査するのも当然。
その過程で、ギュリベーム枢機卿が【世界最強】の称号を有している事が判明したのだ。諜報員によると称号を隠してもいなかったらしい。
勇者軍や冒険者に世界最強の戦力がいるのなら兎も角、他国に世界最強の力が存在しているのは余計な混乱を招く可能性があるとの判断から公表していないが、過去千年近くね継続した調査により、【世界最強】の称号に揺るぎない事まで確認している。
我が国に限らず、各国の上層部にはギュリベーム枢機卿が世界最強であると言うのは知られた情報だ。
そもそもケペルベック神国も公言している。
国家による自国の戦力を誇張するのは古今東西ありふれた事であるから、その話を真に受ける者は滅多にいないがギュリベーム枢機卿に関しては真実であった。
各国の諜報員達が称号を観測出来たのも態と見せつけているからであろう。
そうなると称号を偽る特殊な方法を用いている可能性もあったが、メリアヘムに招かれ勇者軍との協力を確認した際にも、【世界最強】であるギュリベーム枢機卿にも協力要請を行っているという話が出た事から、ギュリベーム枢機卿が【世界最強】であるのは紛れもない事実だ。
人類の最精鋭たる勇者軍が数百年以上も収集した情報に誤りがあるとは考えられない。
そして、【世界最強】の称号とは世界にただ一つしか無い称号。
ギュリベーム枢機卿が亡くなったのならば、次の世界最強に称号は移るだろうが、そんな情報は無いし、千年近く前から【世界最強】であったであろう人物の力を超える無名の誰かが急に現れたなど考えられない。
つまり、ルーベルタウンの冒険者ギルドに現れたのはギュリベーム枢機卿で間違いない。
「問題は、本当にギュリベーム枢機卿が魔王軍四天王の一角なのかだが」
『グリーンフォートでの情報は、裏を取る為に遣いを出して聞き込み等を行わせましたが、魔族の発言した内容に偽りは無い様です』
『そもそも、ケペルベック神国の真の支配者とも呼ばれるギュリベーム枢機卿がデルクス大陸にいる時点でおかしい。これこそが魔王軍四天王である証拠ではありませんか?』
「確かに、通常では有り得ない事だな。それに自分で自分を魔王軍四天王だと伝えに来るのも通常ならば有り得ない事だ。となると、これらは人類側に侵入する為の工作と考えるのが自然か」
『しかし、魔王軍四天王以前に人類最強の力を持つギュリベーム枢機卿が工作等を仕掛けるでしょうか? 工作を行うにしても、人類に紛れ込むのに自ら動く必要は無い筈です』
『内部から人類に打撃を与えるのならば、ギュリベーム枢機卿は五大列強の一角を牛耳る権力を既に有しています。正体が露見するリスクを冒して工作に動くとは考え難いですな』
考えれば考える程、新たな謎が出て来た。
常識では考え難い事が多過ぎる。
だがこの大陸、いや人類の命運すらも握る議題だ。
慎重に考えざるを得ない。
『冒険者ギルドカードが偽物だったという可能性は?』
『S級の冒険者ギルドカードはアダマンタイト製、偽装は有り得ません。もし偽装だとして、そんなのが可能なのは魔王のように人智を越えた存在だけです』
『そうなると、仮に老怪でないにしても魔王軍の一員という事か』
「ならば、カードの表示内容のみを偽装することは可能か? S級冒険者のカードを何かしらの方法で入手し、内容のみを偽ったのかも知れん」
『不可能です。冒険者ギルドカードは太古の昔に神より授けられたとされる魔導具の力で作製されます。何故か偽名で登録する事は可能ですが、偽りのステータスが表示される事は決してありません。低いレベルで表示する事は可能ですが、最高峰の称号を表示する事など出来ません』
「では、本人以外がギルドカードを使う事は?」
『それも出来ません。カードが表示されるのは本人が使用した時か、死亡した時のみです。死亡時は死亡表記が現れるので、使って見せたのであれば本人です』
やはり、ギュリベーム枢機卿が現れた事には間違い無い。
「ギュリベーム枢機卿の不可解な行動、もはや隠すつもりがないのかも知れんな」
『どういうことでしょうか?』
「グリーンフォートの件、魔王軍四天王の暴露が本当であったのだろう。そしてグリーンフォートの陰謀が本命だったのだ。それを破られ、直々にこちらを潰しに来たのかも知れん」
『本命が破られたのであれば、その可能性がありますな。どちらにしろ、正体は暴露された。ケペルベック神国を含めて潜伏する必要は皆無』
『しかし、道中で自ら魔族を討伐したのは?』
『駄目元の策では? 四天王であるならば雑兵の魔族が減っても痛手にも感じない筈です』
『もしくは、そこまではグリーンフォートの本物の強者であった可能性ですね。少なくともグリーンフォートでは本当に世に知られていない強者がいた筈です』
「その方々を倒すために態々現れ、倒してからそのまま動いている可能性もあるな」
『では、その世間に知られていなかった方が本当に【世界最強】であった可能性も有るのでは? 冒険者ギルドカードが偽れなくとも、自らのステータスを偽装する技術はあります。本物のギュリベーム枢機卿が【世界最強】でないのだとしたら、その方こそが本物である可能性もあると考えますが?』
「それはあり得ない。ギュリベーム枢機卿が【世界最強】であることは千年近くに渡り各国の諜報組織、そして勇者軍が確認し続けた事だ。それ程の偽装が可能だとは考え難い」
『となると、もはやギュリベーム枢機卿、魔王軍四天王の一角が現れたのは間違い無いと』
「断定して良いだろう」
現れたのは間違い無くギュリベーム枢機卿、そして魔王軍四天王だ。
「デルクス大陸総督代理の名において大陸の危機を宣言する!!
総動員令を発令!! 各街最低限の戦力を残し、B級以上の戦力はポートデルクスに集結せよ!!
ギュリベームを海上に誘い込み、総員で討つ!! 失敗は許されない!! 我らの双肩には人類の未来がかかっている!!」
『『『『はっ!!』』』』
デルクス大陸において、人類の命運を賭けた戦いが、今、始まった。
次話も閑話が続きます。




