閑話 提督1 新大陸の凶報
デルクス艦隊提督ビクトール・ザイン・ノア・アーヴノア視点です。
新大陸の海は、数千年に渡り人類の上陸を妨げた魔獣の跋扈する危険海域。
人類が移住に成功してから約二百年経った今でも、ダンジョンの中の方が安全とされる程、高位の魔獣が潜んでいる。
「人類に栄光を!!」
「「「人類に栄光を!!」」」
我がデルクス艦隊が相手にしているシーサーペントも、この海を魔の海域としている象徴の一つ。
大海蛇、海上に顔出す部分だけでも大型船のメインマストを見下ろす長さ、人間など一口で丸呑みする巨体を持つ海の覇王。
魔獣の脅威度を表すランクは8。シーサーペントに壊滅させられた海辺の街は歴史上数知れず、中には首都を陥し国家の滅亡を招いた事も一度や二度ではない。
海で遭遇すれば艦隊であっても逃げろと海の民は教え込まれて来た海の悪夢。
しかし我等が引く事は無い。
我等デルクス艦隊は世界最強、史上最強の艦隊。
海蛇如き、恐れるに足らん。
念入りに準備し挑む相手ですら無く、日々の訓練や演習の一環で討伐する害獣だ。
私が乗り込む総旗艦オスケノアⅢ、その周りを囲む超大型戦艦六隻、更にその周りに戦艦15隻。
デルクス艦隊三分の一の戦力。
最も小さい戦艦でも二百名が乗り込める全長約百メートル規模、大国の旗艦レベルの戦艦のみで構成された間違いなく史上最強の艦隊。
一隻一隻が動く城塞と呼べる大戦力だ。
希少な魔獣の素材を用いた戦艦で構成される為、一隻一隻の外観は異なり、烏合の衆にも見えてしまう艦隊だが日頃の訓練は欠かせておらず、乗組員も世界一の海兵に相応しい練度を誇る。
加えて現在は魔王軍が現れた事により、勇者軍の海兵部隊も合流していた。
戦力としてではなく、訓練のため預けられた、また迅速に連携して動けるように一時的に参加している部隊だが、人類最高戦力である勇者軍の一員らしく、海上で我が部下に及ばなくとも十分に精強だ。
人数も多く総合的な戦力は倍増していた。
我らにとって、シーサーペントは巨大な海蛇と何も変わらない。
一隻毎に百門近く備え付けられた各種魔導砲から一斉に魔導弾や増幅された魔術が放たれる。
まず鎖付きの巨大な銛が射出魔法を増幅する魔導砲から放たれ被弾、更にはシーサーペント周辺に氷結魔法や氷結魔法弾が撃ち込みシーサーペントの動きを阻害。
そこに本命の攻撃が雨のように撃ち込まれる。
大都市も数分で粉砕する暴威に曝され、あっけない程に早く大きな波飛沫を上げて、シーサーペントは海へと還った。
うむ、訓練の結果は出ているようだ。
動きに淀みはない。
特に魔導砲の運用は上手く行っている。
魔導砲に限らずマジックアイテムの製造は難しい。
マジックアイテムは剣の鍛造の様に鉄などの加工技術に加えて、高等な魔法技術を必要とする。
既存の道具に術式を刻む事も不可能では無いが、内部まで術式を刻めていないマジックアイテムの性能は数段劣るものになってしまう。
その為、実戦に耐えるマジックアイテムの作製には魔法技術以外に道具そのものを組み立てる技術が必要である。
加えて魔力との親和性が高い素材が必要であり、その様な素材とは即ち強大な魔力を有する魔獣の素材である為に、希少でない素材でも高位冒険者が討伐には必要であるなど、様々な要因からマジックアイテムは希少だ。
強力なマジックアイテムは同種のものが存在しない場合が多々ある。
魔導砲もそんな希少なマジックアイテムの一種であり、異なる魔導砲を取り入れる事で数を揃えている。
特に誰でも使える魔導砲の数は少なく、多くは特定の魔法を増幅する効果を持つ特殊な杖の様な魔導砲が殆ど。
つまりただ撃つという事は出来ない。
魔導砲の種類と位置を正確に把握し、誰が使えるか、いつ使うか、どこで使うかなど細かい判断と連携が必要となる。
精鋭にしか出来ぬ技術だ。
問題は無さそうだ。
しかし、問題は、思わぬ所からやって来た。
「提督閣下! ルーベルタウンの冒険者ギルドマスター、クライド殿から緊急連絡です!」
船上で訓練の成果を見届けていた私の元に、提督補佐官、主に文官の役割を果たす私の秘書に相当するリーセルが走って来た。
「総員、そのまま演習を続行! ガルダイン、後の指揮は任せる!」
副提督のガルダインに後を任せ、私はリーセルと共に提督室へと急ぐ。
部屋に入ると、通信の魔道具“ヒュドラの眼”が起動状態で、“ヒュドラの眼”を預けたデルクス大陸主要九箇所の防衛責任者、またその代理人の姿が映し出されていた。
『提督閣下、この度は―――』
「挨拶はよい! 何が起きた!? 魔獣の氾濫か!?」
真っ先に思い浮かんだ最悪の想定は魔獣の氾濫。
魔獣の氾濫は昨今どの地域でも最悪の天災と考えられている魔獣の大侵攻であるが、このデルクス大陸では魔獣そのものの強さの桁が違う為、深刻な事態に陥りやすい。対処を誤ればデルクス大陸から人類がいなくなる可能性すら有る。
もし魔獣の氾濫の場合、早急にデルクス大陸中から戦力を集め、向かわせる必要があった。
そもそも“ヒュドラの眼”を使った通信は、定期報告会以外では緊急事態時のみしか使用が認められていない。
仮に魔獣の氾濫でなくとも緊急事態が発生したのは間違いない。
加えて今日は魔族襲撃の報があった。
このデルクス大陸に魔族が出現したのは有史上初、それだけでデルクス大陸開拓以来の非常事態だが、三体も出現したという。魔族の脅威はこの大陸に既に潜んでいたのだ。
更にグリーンフォートではダンジョンを生み出し、魔物の氾濫を引き起こしたという。
それらは被害が拡大する前に未然に防がれたが、他に何が仕掛けられていても不思議ではない。
魔族一体の出現だけでも国が滅びる程の脅威であるが、この大陸は魔獣の平均レベルが高い為に、それに対抗してきた人類の戦力も高い。
魔族一体ならば殆どの街で援軍が到着するまで持ち堪える事が出来る。
だが、グリーンフォートのように魔獣の氾濫が起こされたのならば大陸の危機。
それだけこの大陸の魔獣は危険だ。
場合によっては魔王軍に匹敵する脅威がこの大陸を蹂躙する事になるだろう。
もし最悪の想定が現実のものになってしまったのならば、グリーンフォートのように何としてでも初期段階で抑えなければならない。
『魔王軍四天王が現れました』
しかし、報告は想定の斜め上を行く凶報であった。
次話も閑話が続きます。




