閑話 魔祖4 聖地の解放
ヴィルディアーノ視点です。
『…渡さん、絶対に渡さん!! この力だけは、貴様らに渡してなるものかぁ!!』
我は、更に切り札をきる。
増大させる事に成功した吸血鬼始祖の力、不老不死の力の源泉を解放した。
まだ制御可能かどうかも定かで無い力であったが、温存する余裕は無い。
ここで全てが決まるのだ!!
そして我は、賭けに勝った。
『これは我が奥義、生を奪い我が物とし、不死を与える叡智の最果て!! その更に終極!! 人そのものを生み出す神なる御業!! 我が得た血に形を与え新たなる生命とし再構築した!! その力は血の元である英雄すらも超える!! あらゆる英雄の力を有する血影兵の前では勇者も凡人と同じ!! 圧倒的力の前に平伏すとい――――』
遂に我は、神秘の極限に到達したのだ。
原初の神と共に喪われた御業。現代の神にも決して届かぬ生命の創造。
我は成し遂げた。
我の勝ちだ!!
「“業火滅消”」「“神雷滅消”」「“深淵滅消”」
『ぐあがあぁぁぁぁーーーー!!!!』
いっ、一体何が……?
あ、有り得ぬ……。
奴らは、あの対神魔法を何発放った……?
『おのれぇ―――』
「“業火滅消”」「“神雷滅消”」「“深淵滅消”」
ま、まだ、放てると、言うのか……?
一体、どれ程の高みに……?
いや、呆けている場合では無い!!
我は、一か八かの賭け、賭けとすら言えない冒険に賭けた。
そして、我は奇跡を手にした。
奇跡にして、この世の全てを。
『くはははは!! 愚か者共がぁ!! 力は有っても脳は無い様だな!! 自分達で目眩ましをしてどうする!! 結界まで自ら緩めるとは!! 感謝すらくれてやるぞ!! おかけで我は全てを手に入れた!!』
聖地アルブナーム、その中枢に接触する事に成功したのだ。
触れただけで莫大なエネルギーが流れてくる。
何ものにも染まらぬ原初のエネルギーが、我が意志に従い我がものとなった。
同時にまだ、聖地の力は欠片も引き出せていないと確信したが、十分過ぎる程の力だ。
原初のエネルギーは我が意志に従い様々な形に変わり、傷を癒やし我が存在そのものを高みへと昇華させる。
もはや、我が勝利に揺るぎは無い。
我が術の結晶たる血影兵は原初の力を受けて神の使徒そのもの、それも世界そのものであった太古の神の使徒、神の剣そのものへと進化する。
英雄神に等しき力を持つ我が使徒、それが多数。
神々の軍勢でも無ければ僅かな抵抗も出来まい。
「”流星嵐“」
『なっ!?』
…………一瞬で、我が使徒が細切れになった…………。
『……やはり、我以外は役に立たぬ。我が導いた眷族すらこの有り様……。全て我が成すしか無いのだ』
生命の創造、それは確かにこの世界の奥義と言っていい術の最高極地。
だが、それで生み出される生命は完璧などでは無い。寧ろ、不完全の極地。
我が求めていたのは、こんな力だったのか。
いや、断じて違う。
我が求めて来たのは完璧そのもの。
『我が全てを消去し、創り直す』
力の使い方を誤っていた。
生命の使い途などただ一つ。
生命は、単なるエネルギーだ。
生命はエネルギーとしてのみ、完璧な我の求める形となる。
生命のままでは、幾ら我が導こうとも理想は得られないのだ。
代償魔法、発動。
我が使徒がエネルギーに還元され、強大な暴威へと変わる。
「なんじゃと!? ”絶界“!!」
老人姿の存在が数発は防ぐが、存在そのものを力とした代償魔法、それも神の使徒レベルの生贄を用いた術だ。
一発防ぐだけでも称賛に値する。しかしそこまで。
神の使徒の決死撃、それすらも上回るこの代償魔法は神も一撃で葬る。例え奴が完全に降臨した神であっても防げまい。
だが、正気を疑う現象が起きた。
青年姿の存在が前に出ると、魔術ではない謎の結界により全て防いたのだ。
『この数の代償魔法を防ぐだと!?』
これは、現実か……?
「まあ、何であれ問題なさそうなんでさっさと倒しちゃいましょう。“業火滅消”」
更に、守るだけでなく対神城塞滅却魔法を連発。
『同じ手はくわん!! 代償魔法が攻撃魔法だけだと思うなよ!!』
あまりの出来事に意識が飛びそうになるのを必死に抑え、代償魔法の結界を展開する。
そして、改めて認識する。
眼の前の事が現実であると。
『我も元は矮小なる人間、不完全な存在だったようだ。認めよう。貴様は我よりも優れている』
そして我が悲願を胸に、全てを賭ける。
『だがそれもここまで!! 我も死力を尽くし、貴様を超えてみせよう!! この世に唯一君臨するのは我だ!!』
聖地アルブナームはまだ、解放すらされていない。
触れただけで莫大な原初のエネルギーを得る事が出来たが、それは僅かに漏れ出るエネルギー過ぎなかった。
そして、聖地は触れた時から我に選択を迫っていた。
聖地を解放するか否かを。
我でも恐怖を覚えるその呼び掛けに意識を向ける。
聖地の解放は創世の訪れ。
聖地の力を以てすれば、天地すらも自在に変えられる。形も位置も法則も。
神の権能、その世界全域を支配する力を得る事が出来る。
しかし、バランスを保つ事は出来ない。
新たな創造物を増やし、法則を捻じ曲げる事が出来るが、それだけ。
生む事が出来ても維持は出来ない。
維持は他の創造物とのバランス次第。
創造とは即ち破壊でもある。
我の力量次第では、創造の力を手にして世界の新生を行っても、元の世界よりも醜悪な環境しか生み出せないかも知れない。
世界そのものが崩壊し、何も残らないかも知れない。我が敬愛して来た者達の記憶すらも。
我が天才でなければ、天才に至れていなければ、悲願どころか全てが終わる。
だが、それでも、悲願を、無念を、皆の願いを叶えるには、この方法しか、ない!!
解放の聖句を詠唱する。
『――世界を支える一本の柱 其は万物を留める創造の根源 其は創造神が遺せし権能 其の解放は混沌への回帰 其の解放は無限の創造 我は世界の新生を望むもの 我は創造主とならんとするもの 開け 聖地アルブナーム――!!』
ここに、聖地アルブナームは解放された。
次話も閑話が続きます。




