ボッチ17 ボッチとファイヤーボール習得
地中に顔を埋めて理不尽を嘆いている中、女神様は俺を宥めようと様々な言葉を投げかけてくる。
『えっと、その、間違いでした! 貴方のボッチは神々の手でどうにかなります!』
チラリ、地の天岩戸からこんにちは。
まあどうしてもと言うから聞くだけだ聞くだけ。
『人々を洗脳したら、きっと、どうにかなります!』
……地上怖い、俺、地底帰る!
うわぁーーんっ! 俺の塩水でここら一帯荒野に変えてやる!
『じゃ、じゃあお金を積んで! 友達どころか親戚まで増えますよ!?』
……そろそろ、穴に貯まる塩水で溺れそうだ。
急に水位が上がる。
このまま海に沈んで沈めてやる!
うわぁーーんっ!
と言うか洗脳とか金で解決とか、この人本当に女神!?
そして神々がそうする程、俺って酷いの!?
うわぁーーんっ!
『なら……そうだ! 命令、命令すればいいんですよ! 神からの命令ならば貴方の友達になる方も!』
と言うかもうここまで来ると宥めるどころか、とどめを刺しに来てない!?
『神の力も絶対じゃないんですよ! と言うか超常的な力で意思を変えられるとか思っているのでしょうが、どんな手順でもそれは洗脳ですから! 意思を直接変える方法以外は人間のそれと変わらないんです!』
それにしたって洗脳や買収とかよりは、よっぽど良い方法が溢れていると思う。
方法がそれしか無ければ、今頃世の中に友達と言う概念は存在しないし、ボッチも存在しない。
それとも普通の方法じゃ俺に友達は無理だと?
やっぱりこれは確実にとどめを刺しに来ている!
うわぁーーんっ! ぐすぐす、ヒクヒクっ!
『……洗脳もお金も駄目なら、うん? そうだ、奴隷です! 奴隷を買いましょう!』
へ? 岩戸からチラリ。
どう言う思考回路をしているのか分からない謎発言に、思わず顔を覗かせる。
『ぎりぎり洗脳でもお金を積むのでもありません! 自由を縛られた人を買うだけです!』
まあそう言えなくもないが……。
だが奴隷とは明らかな上下関係だ。それは神の命令程でこそないが、権力で命令するのは変わらない。
『友達になれと強制しなければいいだけです! 考えてもみてください? 上司と部下は友達になり得ないのでしょうか? 誰とでもなり得るもの、それが友達では無いのですか!? 強制された訳でもない、約束した訳でも無い、決まりなんて初めから有りはしない! それでも一緒にいるのが友達ではないんですか!?
洗脳されている関係は友達じゃない? お金を積まれている関係は友達じゃない? 命令されて出来ている関係は友達じゃない? きっとそうでしょうとも! だからこそ、強制力もなく仲の良い関係が友達なんです! ただ隣の席に座ったから、ただ近くに住んでいるから、ただよく会うから、友達である理由を求めてもあるのは出会い当初の関係だけです! それも何でもない出来事だった事でしょう! 友達とは家族でないのに気が付いたらいつも身近にいる、そんなものなんです! 理由も基準も友達に決まり事なんかありません!
だから、洗脳が解けたのに側に居続ける関係は? お金が無くなっても側に居続ける関係は? 命令が消えても側に居続ける関係は? それは友達では無いのでしょうか!?』
岩戸からこんにちは。
そう熱演されればそんな気もしてくる。
正直なところ、ボッチ故に友達の何たるかを知らないが、それでも女神様の言い分は正しく思えてくる。
漠然と一緒に遊ぶ仲が友達だと思っていたが、友達ではなく遊び友達と言う言葉が存在する以上は、ただ遊ぶ仲が友達では無いのだろう。
規定された訳でも無いのに、気が付けば共にいる存在、それこそが友達。
クラスの風景を思い返せばそんな気がする。
まあ、この定義でも俺はボッチなのだが……。
『初めは奴隷でも良いではないですか?』
熱演から一転、優しく語りかけてくる女神様。
『貴方の扱い次第で、幾らでも友達になりようがある筈です。初めは強制とは言え、共に居れるんです。素晴らしい友達となるきっかけだとは、思いませんか?』
そう言って手を差し伸べる女神様。
俺はその手を掴んだ。
透けて転びそうになったがそんなこと気にしない。
「女神様、俺、奴隷を買います!!」
俺はそう堂々と宣言した。
俺の宣言は何度も山彦で返ってくる。
「……宣言しておいてなんかすみません」
『……勧めておいてなんかすみません』
そして俺達は宣言した内容を山彦で改めて理解し、共に居た堪れない気持ちになるのだった。
だが立ち直り、居た堪れない気持ちになるとは言え目標を決めた以上、やる事は一つ。
魔法の練習である。
「ファイヤーボール! ファイヤーボール! ファイヤーボール!」
魔導書の魔力吸収が終わった直後から次を発動と、連続でファイヤーボールを撃ちまくる。
そうすると不思議な事に、道具越しなのにどんな魔力の流れで発動しているのかが分かってきた。
使い方どころかファイヤーボール自体のイメージまで流れ込んで来る。
残りの魔力が少なくなったところで、ペット皿(準聖杯)の水を飲んで魔力を完全回復させ、魔導書無しで発動を試みる。
魔導書で感じたものをそのままに。
「“ファイヤーボール”!」
うおっ! いきなり成功した!
まさかの一発成功にひっくり返りそうになるも、感覚を忘れないように連続して発動する。
「“ファイヤーボール”!、“ファイヤーボール”!、“ファイヤーボール”!、“ファイヤーボール”!、“ファイヤーボール”!、“ファイヤーボール”!、“ファイヤーボール”!」
驚くほどスムーズに発動出来た。
魔導書で連続発動していたときよりも早く次が発動出来る。
しかも一発一発の消費魔力が少ない気がする。
まだ早く出来る気までする。
やれるところまで挑戦してみよう。
「“ファイヤーボール”!、“ファイヤーボール”!、“ファイヤーボール”!、“ファイヤーボール”!、“ファイヤーボール”!、“ファイヤーボール”!、“ファイヤーボール”!、“ファイヤーボール”!、“ファイヤーボール”!、ファイ――アガッ!!」
滑舌の方が追い付けなくなる。
それ程までにファイヤーボールを連射出来た。
しかも噛んだ後にも問題無く発動し続けられている。
と言うよりも〈無詠唱〉があるし、そもそも普通は呪文を使うのに詠唱を省いていたから元々必要無かったようだ。
いよいよ魔力の消費が激しい発動速度になってきたから片手を前に出しファイヤーボールを発動しつつ、もう一方の手でペット皿の聖水を飲み続ける。
魔力の供給がこのまま続けられればまだ先に行けそうだ。
続ければ続ける程、ファイヤーボールの事が鮮明に分かって来る。
ただの感覚だったものが、どんなものなのか理解出来た。
術のどの部分がどの役割を果たしているのか。イメージの違いで何が変化するのか。
例えば単純に魔力を多く込めれば威力が増し、魔力の流し方を変えたりイメージしたら進行方向も飛距離も変えられた。
そして出す場所までもある程度は決められた。
俺を中心として手の二倍の距離くらいまでなら、例え見えていなくとも発動出来た。
その事に気が付き、突き出していた手を下ろす。
もはや自由自在。
こうして俺はファイヤーボールを完全習得したのだった。
《熟練度が条件を満たしました。
ステータスを更新します。
アクティブスキル〈火属性魔術〉のレベルが1から2に上昇しました》
次話を明日投稿出来るように頑張りたいと思います。




