閑話 魔祖2 数千年の探求
聖地アルブナーム。
人類を滅ぼし新たに完全なる世界を再構築する為には力が必要だ。
そんな力として、我々はステータスそのものに干渉し思い通りに出来ないかと考えた。
ステータスは力の根源と言える程に莫大な力を秘めている。
しかしその正体については、古来より数多の者達が探求して来たが確かなものは無い。
殆どが憶測の域を出ていなかった。
まずステータスは何処からやって来るのか。
元々万物に眠っているのか、それともステータスの神が存在しその神の力によって成されるのか、それともステータス力のような世界に法則の一つとして存在する力なのか。
古来より最も支持されてきたのはステータスの神が存在するという説だ。
何故なら、ステータスは更新時に声が聞こえる。自分のものでは無い何者かの声が。
その声は感覚共有の術などを使っても共有出来ず、他人にどんな声が聞こえているかは、果たして同じ声なのかは定かでは無かった。しかし、どんな声かという印象等について聞き取り調査を行うと、おそらくは同じ声であるらしいと言うのが、古来から行われて来た調査の結果だ。
それぞれ違う声であれば、自身の内の声である可能性が高いが、同じであれば声だけでなくステータス自体が同一存在からもたらされたものである可能性が高い。
問題は、印象だけでなく、本当に同じ声なのかだが、それについてはエザルが証言した。
憑依した存在のステータス更新の声が聞こえるらしく、その声は同じ声であったらしい。
誰のステータスの声を聞いても自分が通常聞く声に聞こえる可能性もあるが、同一存在の声である可能性が最も高かった。
ならば、ステータスの神が存在する。
ステータスの神が存在するならば、その神の方向からステータスの力が送られて来るのではないかと考え様々な実験を行った。
だが、力が何処から来るのか分からなかった。あらゆる探知魔法を用いようとも判別出来ず、あらゆる結界の中でもステータスの更新が行われた。
となると、ステータスの力は元々内に秘められているのか。
人間から数多の魔獣までを解析したが、それも見つからなかった。
だが、数千年の時を経て、今の魔王軍四天王が揃った頃、やっと進展があった。
死の支配者にして神と一体化したバールガン、創世紀から存在する神を凌駕する力を持つ巨人の長ディメグデウス、そしてステータスに並ぶ神秘であるダンジョンの支配者にしてスキルを奪う力を有するギュリベーム。
異なる神秘の真髄に至った我等の智慧を結集し、やっと見つけた。
聖地アルブナーム。
それは魔族の製造実験を行っている時の事であった。
ギュリベームのダンジョンの力に基づいた生成術式にディメグデウスが原初の力を与え、造られた肉体にバールガンが魂を吹き込み定着化、それに私が不死の力を与える事により生命として活動出来る、強大な内側のエネルギーにより自滅しない再生力を与え造った魔族。
その製造過程を様々な分析魔法を用い研究していたところ、生命の誕生とそれに伴うステータスのメッセージを観測する事に成功したのだ。
そのメッセージに書かれていたのが聖地アルブナーム。
我等の実験は、その聖地アルブナームから魔族の確立に必要な何かを引き出す事に成功したのだ。
その後、我等が総力を上げて調査しても聖地アルブナームが何なのかは分からなかった。
しかし、魔族を含めた生命体を構成するのに重要な何かを送り込む何かであるのは推測出来た。
そしてこれが、おそらくはステータスの根源なのだろうと。
少なくとも、神や神代の巨人の長でも正体不明な時点で神智の及ばぬ強大な何かだ。
仮にステータスの根源でなくとも、我等の悲願達成に役立つ何かであろう。
我等はそれからも千年近くも調査を続け、魔王を生み出した時にやっとその所在が判明した。
それは近年発見された魔の海域、その海底に存在した。
力が強大過ぎる為、また広大な海域の海底全体が代償儀式魔法並の天災の如き守りで覆われていた為、配下は全く役に立たず我が直々に調査する必要があり、付近一帯が力に呑み込まれ海域にあると判明してからも数年近くも探し続ける必要があったが、発見することに成功した。
万が一人類に、その人類に力を貸す神々に介入される事を防ぐ為に近隣にあるデルクス大陸には陽動を配置し、万全の状態で我は聖地アルブナームに向かった。
聖地アルブナーム、そこは神殿であった。
聖地という名称であるから、理想郷のようなものが広がっていると思っていたが、渦巻く激流の先にあったのは神殿。
それも小さな神殿だ。
しかし明らかに異質。
光の届かぬ海底であるのに昼のように明るく、草花が生え魚のみならず小動物や虫までいる。その魚も宙を泳いており、小動物まで当たり前のように宙を駆けている。
そして中央には一本の木。
異質な空間の中で最も異質なのは、殆ど力を感じ無い事だ。
宙を泳ぐ魚など探せば幾らでもいるが、生息しているのはダンジョンやダンジョン並みに魔力の濃い土地である。
特殊能力を持つ存在ほど、強い力を持つ土地に存在する。
しかしここは、まるで魔力の薄い一般的な土地と変わらない。
特殊な力を感じない、感知する事が出来ないのだ。
元々探し当てるのに千年近くの時を要した土地であるが、内部に入ると余計に分からなくなった。
「恐れながら始祖様、本当にここなのでしょうか?」
「強大な力は感知できません」
「ここだ。感知できない、それこそが証拠である」
数千年の間に集めた才ある者、我が眷属たる吸血鬼、その中でも優れた伯爵級の吸血鬼共でも感知できないらしい。
表面的なものしか見ていないのだ。
堕ちたものである。
元は数倍も優秀であった。吸血鬼として与えた優れた力が奴等を堕落させた。
我が前では取り繕っているが、この者共が自らの力よりも我が与えた力を誇り、その力ばかりに頼りきっているのを。
もはや、我が創り直す世界には必要無い。
だが、万が一に備え、せいぜい役に立って貰おう。
その強大な不死の力は、良き生贄となる。この者共を生贄にすれば神をもまとめて滅ぼせる代償儀式魔法が使える。
「聖地の力は世界そのものと言っても良い。だからこそ感知できないのだ。世界と全く同質なのだから」
愚か者共に教えてやる。
愚か者でも働きに対しての報酬は必要だ。
聖地の力は我にも僅かしか感知できない。
しかしその異質さから正体は分かる。
ここは世界の安らぎを、畏敬を、日常を、世界に対する、環境に対する全てを感じさせる。
海の力に陸の力、空の力に太陽の力、星々の力に嵐の力、それらの力も同時に感じる。
それは本来なら有り得ない事だ。
世界の全てを同時に感じさせる事は、世界全体にしか出来はしない。
異質な力は存在せずとも、ありふれた力が全て揃っている。
世界そのもの、それが聖地アルブナームなのだろう。
だからこそ、世界を再構築する事も出来る。
我は確信した。
こここそが、数千年の悲願を達成出来る地であると。
しかし、邪魔が入った。
これも世界の修正力、運命とでも言うべきか。
「“冥流滅消”」
次話も閑話が続きます。




