ボッチ118 ボッチと理不尽
七夕投稿です。
あれ? 織姫と彦星どこいった?
攻撃力は大した事が無い術式破壊魔法、それがヴィルディアーノに効いていた。
「やはり、膨大な力が器に収まりきっておらん。術式で無理矢理抑え込んでいたようじゃな」
「つまり、術式破壊をすれば自滅する筈」
そう判断したリオ爺さんと女神様も、確証を得る為に術式破壊攻撃を放った。
「“魔力暴走”」
「“解呪”」
しかし確証は得られなかった。
何故なら、艦隊からの攻撃が俺達に向けられていたからだ。
術式破壊はヴィルディアーノに到達する前に、人類側の攻撃に対して効力を発揮し減衰してしまった。
「「…………」」
それに対してかなりお怒りな様子の二人。
俺と同じく、怒りの感情の方が高まっているらしい。
「“魔力破綻”!」
「“存在浄化”!」
より強力な術式破壊の技を放つ。
リオ爺さんの紫の流星の様な光は通り過ぎた付近の魔術に過剰な魔力を無秩序に与え暴走させ、元の魔術よりも強力な破壊を引き起こした。
ヴィルディアーノが変形した巨大な腕に当たると、そこでも絶大な破壊をもたらす。
術式破壊の筈が、結果的に引き起こしているのは大量破壊。
効いているが、それが術式破壊の効果どうかは不明瞭。
術式破壊の効力を調べるのには向いていない魔法だ。
多分、冤罪で攻撃してくる艦隊への苛立ちで使ってしまったのだろう。
女神様も同じ様に、推し測るには過剰な技を使っており、通り過ぎたものを、魔術か問わず消し去る光を放っていた。
威力も過剰だが、神力を供給しているパスを通して俺からお構い無しに大量の魔力を吸い上げている。
相当お怒りのようだ。
二人の攻撃の反動で艦隊周辺の魔力まで影響されて、そこで暴発したり、魔術により飛ばしていた砲弾が落下していたりと、そこそこの被害を受けている。
精鋭揃いで無ければ大きな被害にも発展していたかも知れない。
やはり、二人共かなり怒っている。
ヴィルディアーノよりも艦隊御一行様に意識が向けられている、そんな気すらする。
俺も、正直なところそちらを攻撃したい気がしない事も無い。
『無駄だ……!! 我が術式は魔術のみに非ず!! 自然の理から神の術までも編み込み構築している!! 魔術を破壊したところで無意味!! 根源へと還るいい!!』
俺達の意識の六割以上は艦隊に向けられていたが、ヴィルディアーノは俺達に夢中だ。
艦隊については気が付いていない可能性すらある。
ただ、ここに来てヴィルディアーノの倒し方が分かった。
「“鎮災”!」
「“神秘夢散”!」
「“術式崩壊”!」
魔術以外も使って強化された器、言い換えればそれだけしなければやはり維持出来ないのだろう。
ならば、魔術では無いその術式も破壊すれば良い。
俺は自然の理を流用した術式を仙術を用いて破壊、俺の意図に気が付いた女神様は女神としての力で神の術式を破壊、そしてリオ爺さんが魔法術式の破壊を請け負う。
『ぐがぁあはぁあがぁああーーーーー!!!!』
うん、滅茶苦茶効いている。
直撃した部分から莫大なエネルギーが噴火の如く流出し、その莫大なエネルギーそのものが傷を与え広げてゆく。
『な、何故だ!? 何故我が術が破れる!? 神の力が破られたのはまだ良い!! 神にはそれが出来ても不思議では無い!! だが何故自然の理すらも破れるのだ!! これは、この力は、我でも聖域の力を以て初めて扱える術だぞ!?』
何故と言われても、桃を食べただけだが。
『それが勇者の力なのか!? 他世界の存在にこの世界は創世の力を掻き集めても敵わないのか!!』
勇者の力じゃなくて桃パワーだ。
桃の栄養価(?)が高かった結果だ。
勇者は関係ない。多分。
『異世界の存在がぁ、この世界に干渉するなぁーー!!』
俺から進んで干渉しようとした事は一度もない。
基本、全て巻き込まれだ。
特に今回は元々野菜穀物を売りに来ただけ。
……そう考えると、本当に理不尽だ。何がどうしてこうなった。
魔族が出て来ただけで相当運が悪い。
それが魔王軍四天王との遭遇にまで発展するなんて、人生最悪の不運と言っても良いだろう。
…………それに加えて、冤罪をかけられて人類側の最高戦力の一人率いる大陸最高戦力達に攻撃をされるなんて。
うっかり艦隊に災害魔法を撃ち込んでも、問題無い様な気がしてきた。
五六発撃ち込んでも誰も文句を言わないよな。と言うか言わせない。当然の権利だと思う。
おっといけない、また意識の大部分が艦隊に持っていかれてしまった。
集中集中。
サンドバッグになってくれているお礼として、最期の言葉くらいは聞いておかなければ。
「理不尽にも真摯に対応、意外と今の俺、勇者してるかも」
結果的にだが理不尽に立ち向かっているし、敵にも向ける慈愛の心。うん、勇者っぽい。
『理不尽は、貴様だぁーーーー!!!! 創世が叶わなくとも、この世界を白紙に戻してやる!!!!』
膨大過ぎる力が遂には脳みそにまで影響を及ぼしたのか、支離滅裂な事を叫ぶヴィルディアーノだが、世界を滅ぼそうとする意志は本物。
今も俺達が空けた術式の穴から噴火の様にエネルギーが漏れ出ているが、器に降ろす力を更に増やした。
もはや爆弾としか思えない様な危うさを感じる。
目に見えて膨張速度は上がり、触れたものが、海が、大気が、虚空に撹拌された様に消失してゆく。
まずい!!
「“鎮災”!!」「“神秘夢散”!!」「“術式崩壊”!!」
俺達は全力で術式破壊を行う。
これ以上、力を受け容れられないように器の強化を解いて解いて解いてゆく。
余りに大規模な術式を前に、魔力や神力が湯水の如く消費されてゆくが、ペット皿で回復しては全て注ぎ込む。
女神様も容赦無く俺から魔力と神力を吸い上げる。
リオ爺さんも切り札らしき黒いのに星のような輝きを纏った長杖を召喚。魔力の補助等の効果があるようで、出力を大きく上げた。
艦隊からは相変わらず攻撃が飛んで来るが、そんなものに対象する時間も惜しい。
俺達は無視した。
術式破壊の余波で大部分の攻撃が落ちるも、一部は飛来。
俺が一番前に出て自動展開される結界で弾くも、極少数はすり抜けて女様とリオ爺さんへ。
二人は掠り傷を負い、血が流れるも気にしない。
ヴィルディアーノの術式破壊のみに注力する。
でなければ、甚大な被害が起こる。
今のヴィルディアーノは爆弾そのもの。
目測だが、このまま放置すればどんなに少ない被害でも視界に映る限りの海が吹き飛ぶ。
直ちに防がなくては、艦隊の人達の生存はあり得ない。
何としても止めなければ。
災害魔法レベルの術式破壊、それも魔術、神の力、自然の力を破壊するそれは余りに強大な余波で発動する側の俺達にも影響を及ぼし始めるが、気にしてはいられない。
女神様の姿は薄くなりかけ、リオ爺さんからは生気が抜けてアイギスの卵を食べる前のように老け更には吐血。
俺に関しては自然の理を解除しているせいか全身が遠くなる、致命的な何かがダメージを受けている様な感覚になり、女神様特性の不壊であるはずの装備すらもヒビが入り始める。
だが、俺達は気にせず全力の術式破壊を放ち続ける。
そして、俺達は勝った。
『…………私が、間違って、いたのか…………、世界とは、こうも強固で、完成して、いたのだな…………』
ヴィルディアーノが世界に溶ける様に消失する。
「はぁはぁ、何とか、倒せましたね。何故か、失礼な連中、守っちゃいましけど」
「ふん、あれでも奴らはデルクス大陸防衛の要。奴らがおらんと一般人が被害を受ける」
「その通りです。私達が守ったのは彼等ではなく、彼等に守られた人々です」
素直じゃない女神様とリオ爺さん。
まあ、俺も艦隊を守ったとは言わないが。
そう思っていると、急に女神様とリオ爺さんが結界を張った。
何故なら、ヴィルディアーノによって妨げられていた艦隊の攻撃が全てこちらに向かって来ていたからだ。
「「「…………」」」
もうヤダ。
何しても帰って引きこもろう。
そう決意したが、まだ戦いは終わっていなかった。
ヴィルディアーノが元々呼んでいたのか、魔族の大軍がこちらに向かい迫っていた。
「「「…………」」」
もうヤダ……。




