ボッチ117 ボッチの怒り
『……我は、新世界の、創造主……』
本当に世界の創造主と認識してしまう程の力を取り込んだヴィルディアーノだが、力を制御出来ていない。
力は外に溢れ続け、元の形すらも保ててはいない。
それでも莫大な力自体はそこに存在している。
存在するだけで空気は呑み込まれ混沌に分解され、戻ってきた海水もヴィルディアーノに触れた傍から消失している。
魔術等を使った訳でもないのに、存在そのものが天災魔法を上回る破壊力を秘めていた。
「“白輪槍”!」「“神雷槍”!」「“深淵滅槍”!」
俺達の攻撃も呑み込まれ殆ど効かなくなってしまった。
未だヴィルディアーノを大きく穿つ事は出来たが、膨張し巨大化し続けるヴィルディアーノには些細な傷になってしまった。
「もう一度、範囲攻撃を試してみましょう!」
「分かりました!」
女神様の支持に従い、天災魔法を放つ。
「“業火滅消”!」「“神雷滅消”!」「“深淵滅消”!」
巨大化し続けるヴィルディアーノも天災魔法には呑まれ姿が見えなくなる。
しかし、爆炎などが晴れると変わらず膨張し続けるヴィルディアーノがいた。
「効いてはいるようじゃが、膨張が速すぎる。まだ力が増幅し続けておるようじゃし、倒し切れん」
「底が見えませんね。あれは間違いなく創世の力、無限に等しい力です。必ず限界はある筈ですが、とても計り知れません。持久戦では、確実にこちらが先に……いえ、そう言えば貴方に授けた神器がありましたね」
「ペット皿で回復しながら戦ったら、多分天災魔法で周囲の被害がとんでもない事になりますよ?」
「じゃが、あやつが膨張し続けた方が被害は甚大じゃぞ」
「ほっとけば耐え切れなくなって破裂したりしないですかね?」
ヴィルディアーノは膨張する毎に力を増してゆくが、ダメージも受けている様に見えた。
まるで結界寸前のダム、どう見積もっても万全でない事は確かだ。
「どうかのう。奴の身に纏う術式は奴の力が増す毎に強度を増しておる。徐々に中身が外の術式を上回ってはおるが、相当時間が必要じゃ」
「何にしても、被害は甚大なものになりそうですね」
そう解析している内に、ヴィルディアーノはある程度力を制御する事に成功してしまったようで、不定形だった姿を巨大な腕の形に変えて俺達に迫って来た。
俺達は回避する為に海上へと飛翔する。
「「「”天の怒り“」」」
しかし、海上に出る直後に風と雷の鉄槌に叩き落とされた。
下手人はアーヴノア将軍率いる艦隊、勇者軍とデルクス大陸から掻き集められた戦力の皆様。
居たのを忘れていた。
と言うかこうなった邪悪の根源共だ。
海底で天災魔法をドンパチしていたが無事だったらしい。
何か沈められた時よりも船が増えている。
下からは破滅の手に迫られ、上からは多分対人前提じゃない高火力魔法。
今にでも逃げ出したい理不尽さだが退路はない。
「“術式斬解”!」
まだマシな、確実に敗れる人類側の魔術を斬り崩して敵が溢れる海上へ飛び出す。
「魔王軍四天王が現れた!! ここで必ず討ち取るのだ!! 我等が背には人類の未来がある!!」
俺達が飛び出すと共に巨大な腕の形となったヴィルディアーノが現れた事で、やっと凄まじい冤罪が晴れた様だ。
アーヴノア提督が魔王軍四天王ヴィルディアーノに気が付き、攻撃を指示する。
先に謝罪して欲しいものだが、緊急事態につき今だけは特別に許してやろう。
後でしっかりと賠償を請求するが。
「総員、撃てぇーーー!!」
わっ!? こっちにも凄まじい数の砲弾やら魔術やらが飛んで来た!!
意思疎通がなってないらしい。
そして目に節穴どころか深淵が空いている、俺達が善良なる一般市民だと気が付かない失礼大バカ野郎が沢山いるようだ。
後で賠償で誤射した奴ら全員破産させてやる。
ついでに露出教入信決定だ。
深く後悔するが良い。
「ミシェーナ、どうか私に力を貸してくれ…。“海神の祝福”!!」
パールの様な貝の首飾りを握り締めたアーヴノア提督は、一瞬海が震えたと錯覚する程に力を高めると、サーベルを振り下ろした。
すると海から次々と砲弾が発射された。
艦隊から放たれる砲撃よりも範囲が広く密度も高い。連射速度までもが速く砲弾が放たれてゆく。
一人で艦隊と戦える凄まじい規模の攻撃。
一発一発も船から放たれた砲撃よりも重く硬い。
しかも命中精度も高く、無駄なく標的に当たっている。
実に頼りになる。
…………味方であるならば。
全部、俺達に当たっていた…………。
アーヴノア提督、いや髭面ジジイの標的は初めから俺達だった。
俺達が魔王軍四天王だと思っているらしい。
本物の魔王軍四天王、ヴィルディアーノの事は大方俺達が発動した攻撃魔法か何かだと勘違いしているのだろう。
多分、ヴィルディアーノが肥大化し放つ力が強大に成り過ぎたせいで俺達の気配や何やらも呑み込まれて分からないのだ。
そうじゃなくて感や偏見で俺達を攻撃しているのなら……覚悟してもらおう……。
理不尽を嘆くよりも怒りが強くなってきた。
例えヴィルディアーノの気配のせいで分からないのだとしても、俺が分からせてやる。
その罪を、理不尽さを。
例えどんな大義名分があったとしても、俺が知らしめてやる。
その罰を、俺の怒りを。
「“術式斬解”!!」
例え土にお還り頂いても確実に正当防衛が成立すると思うが、コイツ等とは格が違う出来た人間な俺は、向けられた攻撃を無効化しつつ、そのままの勢いで効かないと分かりつつもヴィルディアーノに叩き込む。
ヴィルディアーノ、お前には賠償としてサンドバッグになってもらおう。
簡単に倒れないのが、今ばかりは好都合だと思えた。
巨大な腕に小川程の斬り傷が生じ、そこからドス黒い血のようなエネルギーが噴き出す。
あれ? 結構効いている?
次話は七夕までに投稿したいと思います。




