ボッチ115 ボッチ達のストレス発散
月初投稿です。
勇者軍と魔王軍に挟み撃ちにされるというこの世の理不尽に打ちのめされた俺だが、取り敢えずヤル事は決まっている。
「“業火滅消”」
それは当然、ストレス発散である。
理不尽をぶん殴らないとやってはいけない。
「なっ、“冥流滅消”!」
驚いた様子のヴィルディアーノが放つ激流のの放射に相性が悪いのか、それとも本当に相手が天才なのか業炎は呑み込まれしまった。
「称賛し損をした。いきなり死力を尽くすとは。ただの愚か者であったか」
人を攻撃しておいて何処までも尊大な物言い。
理不尽さも相まって非常に腹立たしい。
「“業火滅消”」
「“神雷滅消”」
「“深淵滅消”」
女神様とリオ爺さんもこの短時間で莫大なストレスを抱えていたようで、怒りがここで爆発した。
業火滅消と同規模の雷と闇がヴィルディアーノ達を呑み込まんと放たれる。
「“神鋼絶盾”!!」
ヴィルディアーノから世界を染める程の莫大な魔力が発せられ、恐ろし程の複雑かつ強固な結界が展開された。
だが、かき氷機で削られる氷の如く、俺達の天災魔法三発に削り取られあっと言う間に散った。
「ぐっ!! “最も尊き血”!! ぐがァァァァァあああーーーー!!!!」
更に新たな太陽が顕現したかと見紛う程の力が解放されたが、ヴィルディアーノは完全に俺達の天災に呑み込まれた。
他愛もない。
こんなもんじゃ、ストレスが発散されない。
不完全燃焼だ。
『……な、何故だ、有り得ぬ。このタイミングで、我が悲願…、達成する前に……、よくも!!』
だが、魔王軍四天王、天災の名を冠する天才、その名は伊達は無いらしい。
そこらの湖程の範囲の海が吹き飛び、海底も倍になるほど抉りとった天災級攻撃を三発受けてもヴィルディアーノは存在していた。
無傷では無い。
おそらくは。
確信が持てないのは姿が違うからだ。
血と闇が混沌と混ざったもので構成された人形。
形こそは原型を留めるが、血と闇は蠢き定形が有る訳では無いらしく、取り敢えずその形に留まっているだけのように見える。
更には全身が灰色の炎で燃えていた。
形としてヴィルディアーノは残っているが、まるで煉獄が形を持った化け物のようだ。
ただ、そんなヴィルディアーノよりも気になるのが無傷の海底神殿。
何事も無かったかのようにその場に在り続けている。
海底が抉られ、海水が消え去っても、変わらずそこに鎮座していた。
禍々しいヴィルディアーノよりも、何故か意識を取られてしまう。一体、この神殿は何なのだろうか。
『…渡さん、絶対に渡さん!! この力だけは、貴様らに渡してなるものかぁ!!』
しかしヴィルディアーノも無視は出来ない。
ダメージを受けた様子なのに、明らかに力が増している。
そして分裂するように、血塗られた人影のようなものを生み出す。
『これは我が奥義、生を奪い我が物とし、不死を与える叡智の最果て!! その更に終極!! 人そのものを生み出す神なる御業!! 我が得た血に形を与え新たなる生命とし再構築した!! その力は血の元である英雄すらも超える!! あらゆる英雄の力を有する血影兵の前では勇者も凡人と同じ!! 圧倒的力の前に平伏すとい――――』
「“業火滅消”」「“神雷滅消”」「“深淵滅消”」
『ぐあがあぁぁぁぁーーーー!!!!』
何か長々と言っているが、問答無用でもう一発。
人に理不尽なストレスを与えておいて、反省するどころか長話。
万死に値するとしか言い様がない。
『おのれぇ―――』
「“業火滅消”」「“神雷滅消”」「“深淵滅消”」
しぶとい様だが、断末魔すらも呑み込まれた。
結局、何がしたかったのだろうか?
特に防御力とかが向上した様には見えなかった。
そして、やはり気になるのは神殿。
天災撃が晴れたところに無傷のまま存在していた。
何発も浴びているのに、汚れすらなく一ミリも動いていない様に見える。
ただ一つ違いとして、中にはヴィルディアーノがいた。
『くはははは!! 愚か者共がぁ!! 力は有っても脳は無い様だな!! 自分達で目眩ましをしてどうする!! 結界まで自ら緩めるとは!! 感謝すらくれてやるぞ!! おかけで我は全てを手に入れた!!』
本当に全てを手にしたが如く大笑いをするヴィルディアーノ。
外観は血だらけのように見えるのに、急速に回復しているように見えた。
少なくとも力は増幅している。
加えて新たに生じてゆく血影兵とやらは、はっきりと人に見える。人形のように生気や意思を感じないが、見かけだけは人だ。
そう思ったが、背からは羽が生え、腕が何本も生え、滅茶苦茶に魔獣の顔が生えた。
キメラ、いや妙に神々しくそういう神のようにも見える。
その手に様々な武器を持ち、俺達に迫る。
前にバールガンと戦った時の様に対応しようとするも、完全に人の形でない為に対応出来ない。
取り敢えず身に着けた剣術で何とか迎撃する。
「”流星嵐“」
剣に魔力とおまけに神力も纏わせて嵐のように振るう。
斬撃は全て飛び、幾多もの流星の如く血影兵に降り注いだ。
そして細切れになった。
『なっ!?』
ヴィルディアーノが驚愕の声を上げているが、俺も驚いている。
予想以上に手応えが無かった。
英雄アンデット並の力を想定していたから拍子抜けだ。
「まあ、あの時に大幅にレベルアップしましたからね」
「確かにそうですね」
そう考えると当然なのかも知れない。
そもそもそれを含めて考えても耐久力は大した事がない気がする。
血影兵も灰色の炎を出して燃えているし、吸血鬼由来の力である関係上弱体化しているのかも知れない。
そもそもバールガンのアンデットとは違い生前の力を引き出した眷属と根本的に違ったものなのだろう。
生き物のようだが、どこか魔法の類いそのものに思える。
まあ、何であれ俺の敵では無さそうだ。
さっさと倒して家に帰ろう。
次話は七夕までに投稿したいと思います。




