ボッチ114 ボッチ、引きこもりを決意する
ゴールデンウィーク投稿です。
『さらばだ!! 魔族よ!! ここは沈んだ者が一人も戻らぬ【冥府の口】!! 例え浮上してもお前達の運命はそこで終わりだ!!』
小舟が突如爆発し、重い馬車へは沈み始める。
咄嗟に扉を開けようとするも開かない。
完全に塞がれている。
侵入しようとする海水はリオ爺さんが咄嗟に凍らせて止める。
「「「”大地の抱擁“!!」」」
海水の侵入は防げたが馬車全体が重力の檻に閉じ込められ、急速に沈んでゆく。
あっという間に光が遠退いた。
「どうなってるんですか!?」
「私が聞きたいです!」
「そんな事よりも今は馬車を何とかせねば!」
「ですが浮上したら袋叩きに遭うだけですよ!」
「だからと言って沈み続ける訳にもいきませんよ!」
そう言っている間にも馬車は沈み続け、光は殆ど届かなくなり、馬車はミシミシと嫌な音を立て始めた。
とんでもない水圧がかかり始めているようだ。
本格的にヤバい。
このままではペッシャンコになってしまう!
俺達は急ぎ結界を展開して馬車が潰れない様に内側から押さえた。
ただ脅威は水圧だけでは無いらしく、突如凄まじい揺れに襲われた。
辺りは暗くて何が起きたのか全く分からない。
光魔法で外を照らすと、揺れの発生源は魔獣の襲撃等ではなく目視できるレベルで荒れ狂う海流だった。
戦車のように硬い装甲で包まれた馬車が引き千切られそうになっている。
基本的に何かしらを固定し発生させる結界はこんな極限環境では展開し難いが、何とか馬車の外にも結界を展開する。
「くっ、凄まじい威力じゃのう。何じゃこれは」
「魔術ではないようですがこの魔力濃度、高位の儀式魔法よりも更に数段濃密です。それにこの感じは、神力?」
「冥府のなんちゃらとか言ってましたけど、それですかね?」
「冥府の口とやらは魔の海域なんでしょうが、それの原因がこれみたいですね」
「この海流自体は罠ではなく、自然現象なのか。儀式魔法並の威力があるが、人間に海域として維持し続けるなど到底不可能じゃからの」
自然現象と分かったところで、現状は何も変わらない。
結界で何とか安定させる事に成功したが、自然現象だからこそ止める方法は無いに等しく出来るのは防ぐ事のみ。
「あっ、転移魔法使えば簡単に抜け出せるじゃないですか」
「ほう、そうじゃのう」
「簡単な事を忘れていました」
と言う事で、こんな所とはもうオサラバだ。
「……あれ?」
「どうしたんですか? 早く転移門を」
「いや、さっきから使おうとしているんですけど?」
「むっ、どういうわけか完全に空間が閉ざされておるのう。しかもこれも自然現象のようじゃ」
「確かに、強大な力で空間が乱れ外の空間とは隔絶していますね。どうやら、正攻法で上に行くしか無いようです。何ですかこの海は?」
変に冷静さを取り戻した俺達は、絶望的状況に騒ぐでもなく、静かに冷や汗を流した。
だが、危機的状況はそれだけではなかった。
突如、海底から膨大な魔力が巻き起こり収束した。
「“冥流滅消”」
存在すらも揉み消し流し尽くすかのような激流の柱が海底から俺達に向かい一直線に放たれた。
「いかんっ! ”絶界“!」
リオ爺さんが咄嗟にこれまでとは格が違う程の結界を展開する。
死の激流は馬車を呑み込むもリオ爺さんの結界に守られ、破壊は免れた。
しかしゴリゴリと削られてゆく。
ただの水じゃない。術式を流し揉み砕く様な力が込められている。
ただ一発放出する系の技らしく、持続時間は長く無かった為に何とか耐えきった。
恐ろしい事に、死の水流が通り抜けた場所は、何もかもが無くなっている。
海が消えた。
半径二十メートル程の幅で海面まで、ぽっかり通り抜けた部分だけ水が無くなっている。
差していなかった光が海が無くなり今は届いている。
そして空間そのものもダメージを受けたのか、水が穴を埋めない。
穴が空いたままの状態が続いている。
「ほう、これを防ぐか。褒めてつかわそう」
海底側の海もぽっかり穴が空いていた。
そこにはハロウィンの吸血鬼の衣装、それを何百倍も豪華にしたような衣装を身に纏った一人の男がいた。
病的に白い肌に真っ赤な眼の若い美男子。
その男に付き従う同じ系統の服装をした、これまた病的に白い肌に真っ赤な眼の一団。
更にそんな謎の一団がいる事よりも謎なもの、神殿の様なものが海底には存在した。
一本の木を取り囲む様に石柱か並べられた祭壇を頂点とするちょっとした階段ピラミッド、石舞台とでも評した方が良いかも知れない。
一切の欠落も傷も無いが、年月の重厚感を感じる。少なくとも最近造られたものではない。
何よりも不思議なのが、海底なのにその神殿の各所には勝手に根付いたと思われる草花が存在した。加えて太陽の暖かな光に包まれ、水のない空中を彩りの魚が泳ぎ、蝶や蜂、小鳥が舞い、小動物が跳ねている。
元々この場所には空気があったのか、今吹き飛ばされたのかは判別できないが、明らかに異質だ。
しかしそんな驚きを無視して、男は話し続ける。
「そしてよくぞ我が策を見抜いた」
尊大かつ傲慢に上から目線で褒める様な言葉を並べるが、その目は笑ってはおらず、血管が浮き上がっている。
と言うか、策を見抜いたって何だ?
罠に嵌めたのはそっちじゃないのか?
もしや海域の海流はこの一団の仕業で、上のとんでも連中はただの自然現象だと思ってそれを利用しただけ?
いや、魔力の質からして激流はまた別の力だ。やはり自然現象と考えた方が良さそうだ。
となると、まさかの全てが別件?
人間と自然とよく分からない一団の三団体(?)に攻撃されたのか?
そんなの、踏んだり蹴ったり、とんでもない理不尽だ。
「一応、名乗っておこう。我は至高の天才にして魔王軍四天王が一柱、ヴィルディアーノ・フォン・ルーク・ロマノフィエ」
…………想像以上に理不尽だった。
まさか魔王軍を倒す側の勇者軍の大戦力に海に沈められ、海の底で魔王軍の大幹部、四天王に遭遇してしまうとは……。
理不尽にも程がある。
「我が策を見抜いた褒美に、少し遊んでやろう」
もう、外に出掛けるのは止めよう……。
お家が一番だ……。




