ボッチ113 ボッチと二度あることは三度ある
ゴールデンウィーク投稿です。
移動は馬車だった。
馬に似た四頭の馬より一回り大きな魔獣が引く戦車のような馬車だ。
一番早く高性能な馬車がこれで、そもそも城門を守る部隊には来賓用の馬車がないということでこの馬車に乗る事になった。
そんな馬車を同じ種類の魔獣に乗った騎士が十人、馬車の周りを囲んで護衛している。
更に何人かの騎士は先行して、交通整備、アーヴノア提督のいる船に近い港までの道を空けてくれている。
かなりのビップ待遇だ。
まあ、俺ではなくリオ爺さんがビップ待遇なのだが、それでも特別扱いを受けていた。
加えて交通整備までセットの送迎とはいえ、通りの人達に何の移動なのかは知らせてはいないようで、緊急車をチラ見する程度の注目しか浴びていないのも、緊張しなくて済んでちょうど良い。
本物の賓客扱いされてしまったら、速いが正直乗り心地はそんなに良くない馬車の揺れが合わさって吐いていたかも知れない。
酔いまで超演技でどうにかなるのかまでは分からないし、緊急車をチラ見程度でもここで吐いていたら大変な事になっていただろう。
戦車のような装甲馬車も窓は無いが側面の一部は外せ、景色も車程ではないがそこそこ見える。
街の景色を見逃さなくて済むのも高得点だ。ここまでにも幾つか見たが日本にはテーマパークにしか無い街並みは、未だ目と心の保養になる。
新しい街をのんびりと眺められて、更にはビップ待遇、まるで観光に来たような気分だ。
色々と慌しかったし、仕事が終わったら今度は本当に観光に来よう。
この街、ポートデルクスじゃ街並みは予想に反して普通だった。
城塞を連ねた大規模な城壁の中にあるとは思えない程の普通の街並み。
グリーンフォートを始めとした大陸奥の街は家の配置や構造も砦に流用出来る様に設計されていたが、ここはヨーロッパの世界遺産のような、異国の歴史と文化こそ感じるが普通の家々が建ち並ぶ街並みだった。
ただ、世界遺産程は整った街、一つの文化を元に造られた街という感じもしない。
ヨーロッパ風という統一感はあるが、その先は雑多だった。
石材の色とかは運搬の問題からか同じなのだが、それによって建築された建造物の形状は様々。
建物を全てヨーロッパの伝統建築風にした日本の住宅街とでも評せば良いのだろうか。
それぞれが好き勝手に別の建設会社に依頼して建てた感じだ。
ただ、それもある種普通の街という感じで、初めて見た俺からすれば風情があって良い。
きっと、別々の文化を持ってこの地に来た移民達が築いたからこのような形になったのだろう。
他の特徴としてやはり目立つのは城壁。
リオ爺さんの言う通り複数あるようで、前方にも潜って来たのとほぼ同じ城壁があった。
そして何本も通る運河も特徴的だ。
水の都と呼べる程、張り巡らされている訳では無いが、幅はニ十メートル以上はあった。
運河に架かる橋は全て跳ね橋であり、下りていても高さはそこそこ有り上部が突っかかりそうな船は見当たらないので、この運河は水堀としての役割も果たしているのだろう。
四つ目の城壁を越えると、その先にはもう城壁は無かった。
真っ先に目が行ったのは切り立った崖に囲まれた島。
巨大な短い柱にも見えるそこには城が建てられていた。
潜った城壁よりも更に五十メートル程高い島の上部に建てられた城は見るからに堅牢で、城壁は街を囲むものよりも低いものの全て鋼鉄に覆われ、攻城兵器が所狭しと並べられている。
加えて規模も城と城下町を合わせたくらいに大きい。それが一つの城になっている。
まるで別の街が島の上にあるかの様な規模だ。
「あれが元々のポートデルクスじゃな」
「元々のポートデルクス?」
「開拓当初に拠点として選ばれた場所じゃ。最初はあの島がポートデルクスと呼ばれておってのう。こちらから見れば切り立った崖じゃが、反対側は急じゃが斜面になっておって、その下に港がある。堅牢で船は停泊し易いデルクス大陸最後の砦にして初まりの場所じゃ」
あの城から始めて今の規模まで拡大したらしい。
島は小さな町なら全然入る広さだが、今の街は軽く見ただけでも数十倍の規模、どれだけ開拓を積み重ねて来たのかがよく分かる。
そして視界の果て、港には数多くの船が停泊していた。
地球ではもはや現役のものが実在するかも分からない木造帆船の数々。
これだけの数が見られる場所は、日本のみならず世界中を探してもテーマパークに有るか無いかのレベルだろう。
俺達はそんな港に一直線に向かい、何と馬車のまま大型帆船に乗り込んだ。
乗り込むや否や、船は出港。
乗組員の水兵達の魔法で帆に風が送られたり、海に何かしらの干渉を行ったりして、船は想像以上の速さで航行する。
馬車を出る間もなくあっと言う間に海だ。
馬車から出ようとすると、最初の城門からずっと一緒だった、最初に対応してくれた騎士に止められた。
「お、お待ちを。アーヴノア提督閣下のもとまではすぐです。ほ、本来であれば客室にご案内するのですが、ご案内し終わるよりも先に到着してしまいます。座る場所などは近くにありませんので、こちらでお座りください」
という事らしいので俺は立とうとした椅子に座り直した。
本当は船を見物したかったが、騎士さんは未だ緊張が解けず、色々と言うと更に精神に負担をかけてしまうだろう。
それは何だか悪い様な気がしたので、大人しく到着を待つ事にした。
そして言葉通り、三分程度で目的地に着いた。
「あ、あちらの船にアーヴノア提督閣下はいらっしゃいます。大型船同士が接近し過ぎると甚大な事故が発生してしまう可能性がある為、ここからは小舟で移動願います」
騎士さんがそう言い終わる頃には小舟の上にいて大型帆船から航行開始。
馬車は始めから小型船の上に停まっていたらしい。
とんでもない速さ重視だ。
それだけリオ爺さんの話が聞きたい、重要だと思っているのだろうか。
なんか、案内の騎士さんはずっと緊張している様な人だし、初めての大仕事に緊張して変な事までしてしまっている可能性も否定出来ない気がして来た。
小型船の帆にも大型船の水兵達から風が送られ、あっと言う間に大型帆船と大型帆船の間まで航行する。
尚、小型船に乗っているのは俺達だけだ。
異世界だと魔法があるから必ずしも運転手が一緒に乗っている必要は無いようだ。
そんな事を思っていると、目的地の帆船から魔法で拡大された声が届いて来た。
『私はオスケノア王国デルクス大陸軍提督兼デルクス大陸総督府総督代理、ビクトール・ザイン・ノア・アーヴノアである!!』
待ち切れずにアーヴノア提督が話しかけて来たようだ。
どうやら騎士さんがドジだったのでは無く、アーヴノア提督が一刻も早くリオ爺さんの話を聞きたかったらしい。
『ここに展開された艦隊はデルクス大陸のみならず世界一の艦隊!! 乗り込むは海上最強の名を欲しいままにするデルクス艦隊の精鋭に加え、デルクス大陸に名を轟かせる歴戦の有志達!! 世界のA級戦力、B級戦力、世界の十分の一、それ以上に匹敵する戦力が今ここにいる!!』
アーヴノア提督は他にもリオ爺さんの話を聞きたい有力者達を招集していたようだ。
危険な魔獣が多く鍛えられ元々上級冒険者に匹敵する人はこの大陸に多いのだろうが、それでも十分の一を集めるなんて、集まるなんて凄い。
リオ爺さんと、何故かついでに女神様は、やっと見る目のある人々に出会えたと、とても誇らしげだ。
これまでの失敗を含めて総合しても、これはお使い大成功と言って良いだろう。
『覚悟せよ魔族!! お前達はここで討ち取る!!』
………………あれ?
次話もゴールデンウィーク中に投稿したいと思います。




