ボッチ16 ボッチとファイヤーボール
崩れ落ちたまま暫く、何かが俺から霧散した。
とんでも魔法が解けたらしい。
一体どのくらい崩れ落ちていたのだろうか?
流石に気を入れ替えよう。
「……女神様、魔法の練習に戻りたいんですけど、ちょうど良い魔法のページを教えてもらえませんか?」
文字が読めないので、ここは女神様に頼むしか無い。
自分だけでやろうとしては、下手をしなくともさっきのにの二の舞になる気しかしない。
『やっと戻って来ましたか。では、どの世界でも主流と言っていい“ファイヤーボール”から試してみましょう』
「じゃあそのページを――って、そう言えば女神様は透けてますけどページ捲れますか?」
『出来ません。信者の周辺をを見聞きしたりこうして神託を届けるのが限界です。その神託もここのような聖域で無ければ難しい状態です。更には貴方の感受能力としても加護が無ければ断片しか伝わらなかったでしょう』
となると困る。
こんな分厚い本を1ページずつ捲って確認してもらっていたら、何時間かかるか分かったもんじゃない。
不可能でこそ無いが、ページを見つけた時には魔法練習するやる気が欠片も残っていないだろう。
「この本、目次って有りますか?」
『無いですよ』
終わった……。
『必要ありませんから』
「え?」
『その魔導書は検索機能が付いていますから、魔法名を念じたり開けホニャララと唱えたらそのページを開いてくれますよ? ついでに漠然としたイメージでもある程度までなら求めに沿った魔法を検索してくれる便利魔導書です。実用的な魔導書では無くこの世界を知る為に入手した学術的な魔導書ですが、その分検索機能は優れているんですよ』
実用的じゃ無かったんだ。
魔力流しただけで魔法が発動したけど?
『実用的、と言うか普通の魔導書は魔法発動の補助機能とかも付いているんですよ。電球があったところで、同じエネルギーでも電気エネルギーでなければ光らせるには桁違いのエネルギーが必要となるように、元々発動出来る能力が身についていなければ負担が大きくなってしまうんです。それに加え魔導書が高価な事もあって記されている魔法が使える人は買おうとは思いませんから、大体の魔導書は補助機能付きになるんだそうです。
因みにその補助機能分にページ数を取られて、普通の魔導書は使える魔術数が少ないそうです』
正直なところ、この魔導書が凄いのか凄く無いのか分からない。
何と言うか、女神様と言う神様が持っていた物にしては欠点が多い気がする。
女神様の言い方からして誰もが魔法を使える為に有るのが魔導書なのに、一番肝心な誰にでも使えると言う部分が抜けている。魔法の数は凄いのかも知れないが、致命的だ。
「それってやっぱり、この魔導書かなり危険なんじゃ?」
説明に魔力を一度流すと必要分を吸われる的な事が書いてあったから、その魔力が大量に必要と言う欠点は本当に致命的だ。
『その点は安心してください。貴方は既に魔法適性を持ち、魔術スキルを獲得しましたから、薪を出した時のように特殊な属性の魔法で無ければ補助機能はほぼ必要ありません。更には〈魔力操作〉に〈魔力感知〉も有りますから、その特殊な属性の魔法もある程度までなら何とかなるでしょう。それに魔力を直接操作できれば魔力の吸収を強引に断ち切る事も出来ると思います。ですので貴方にとってはその魔導書も実用的な魔導書として使える筈です』
それは何と都合が良い!
女神様が資料として手に入れたと言ったように、多分本当は辞典とかの類なのだろうが俺にとっては最高の魔導書だ。
安全と分かればいざ実践へ。
「開け、ファイヤーボール」
そう唱える魔導書はバサバサも独りでにページが捲れ、あっと言う間にあるページを開いた。
念の為に確認。
「女神様、このページで合っていますか?」
『はい、ファイヤーボールのページで間違いありません。後は発動してコツを掴む。それを何度も繰り返すのみです』
「はい」
俺は魔導書に魔力を流す。
さっきのとんでも魔法とは違い一瞬で青白い魔法陣の輝きが赤色に変わり、すぐさま弾けて前方に同じものが現れる。
吸われた魔力もとんでも魔法とは違い少量。多分これが発動速度の違いだろう。
魔法陣から赤ん坊の頭大の回転し球状に収束する火球。
現れると直ぐ様魔法陣の垂直方向へ真っ直ぐに飛んでゆく。
飛距離を伸ばす毎に火球は形を失い、ただの炎として拡散し消える。
ここまであっと言う間の出来事。
しかし目で追えない程早くもない。
火球の形成は一秒ほど、球速もテレビ越しでしか知らないが多分アーチェリーの矢よりも遅い。
多分、距離によっては俺でも避けられる。
飛距離は五十メートルくらいと中々あったが、発動時の火球の形を維持出来ていたのは精々二十メートルぐらい。
しかし拡散した時の炎の大きさは人三人を十分包み込める程で、おそらく威力的には飛距離限界でも相当なものだと思う。
これがファイヤーボール。
ゲームやら何やらでよく耳にする技だが、体験してみると中々凄そうだ。
よく耳にするだけにこの世界の魔法使いがポンポン発動していると思うと、冷や汗が出てくる。
「女神様、この先やっていける気がしないんですけど?」
『何を言ってるんですか? ファイヤーボールは確かに発動していますし、自力で使えるようにする訓練にもまだ入って無いですよ?』
「こんな危ないものがポンポン飛び交う業界には、お近付きしたくない思って」
俺は断じて飛んで火に入る夏の虫では無い。
誰が好き好んで危険に飛び込むと言うのだ。
『いや自分から飛び込まなくても、危険は向こうからやって来ますからね? この世界では魔物として? ここは辛うじてかつて神殿だった名残りの聖域ですから魔物は寄って来ませんが、外に行けば日本の野生動物の数よりも多くいるんですよ?』
「じゃあ、やっぱりここで引きこもります!」
『そんな堂々と宣言するような事ですか!? と言うか振り出しに戻ってるじゃないですか!? ここに居たら永遠に独りですよ!? 究極のボッチですよ!? 魔法使いですよ!?』
「どうせ、俺は街に出てもボッチですから……」
ボッチは、周りに全く人が居ないからボッチなのでは無い。
周りに大勢の人がいる中で、ポツンと独りでいてこそのボッチなのである。
まあどちらもボッチなのだろうが、同じボッチなら前者の方がマシである。
だってしょうがないんだもん。
俺のせいじゃない。人類に見る目が無いのでもない。誰も悪く無いのだ。強いて言えば神が悪い。
『なんかこっちに飛び火したんですけど!?』
「…………俺がボッチなのは神のせい俺がボッチなのは神のせい俺がボッチなのは神のせい俺がボッチなのは神のせい俺がボッチなのは神のせい俺がボッチなのは神のせい…………」
『怖い怖い!? 自分を洗脳するようにブツブツ呟か無いで下さい! あと理不尽です! 神にもどうにもならない事があるんです!?』
「ぐはッ! 俺のボッチは、神にも、どうにもならない、事……」
女神様の言葉の刃に思わず吐血する。
まさか、精神攻撃が物理攻撃でもあったなんて。
神もが理不尽だと叫ぶ俺のボッチ……。
「それこそ理不尽だぁぁーーー!!!!」
何度も跳ね返る山彦の中、俺は再び崩れ落ちるのだった。
そして顔から崩れ落ちた俺は顔面を土に埋没させて泣いた……。
次話はまだ完成していないので、更新出来るかは判りません。
間に合わなければ、モブ紹介を投稿します。




