ボッチ112 ボッチ、大都市に着く
ゴールデンウィーク投稿です。
話しながら飛んでいる内に、風景はどんどん変化していた。
最も大きな変化は、人里が増えた事だ。
ルーベルタウン付近では人里と人里の間が徒歩で一日近くかかる距離だったのが、今では三時間で行けそうな距離になっており、それだけ数も増えていた。
各所には広い畑も広がっており、鬱蒼と茂る森林が拓かれている。
ただ、どこも頑丈そうな柵や壁に囲まれているのは変わらなかった。
リオ爺さん曰く、他の大陸と比べてここは出て来る魔獣の平均ランクが人里近くでも2ランクくらい高く、数も多いらしい。
流石にランク9以上が当たり前のように出て来る事はないが、ランク7くらいなら珍しく無いという。
それに伴い冒険者に限らず住民達の実力者も高いが、それでも強固な守りがないと人里を維持出来ないらしい。
上空からだと分からないか、防壁以外にもどこの地下にも避難所があるなど、常に魔獣の脅威を念頭に置いた街づくりがされているようだ。
「ポートデルクスはこの大陸一の大都市、その付近はこの大陸で一番安全じゃ。他にも沿岸沿いに主要な街はあり、そこを中心に切り拓かれておる。それでも付近の街が高い防壁に守られているのは未だ危険な魔獣が多いのと、今より危険だった当時の名残りじゃな。
そして開拓から二百年かけても大陸の極一部、ディメグーリア大山脈の内側の、そのまた一割にも満たない範囲しか開拓出来ておらん。この付近に限っても何十年ぶりかに来たが、殆ど景色は変わっておらん。
ここはそんな過酷な魔獣の楽園なのじゃよ」
ポートデルクスに近付くにつれて人里が増えてきたが、大陸では発展している場所であっても今も著しく発展しているような場所では無いらしい。
「ただ唯一の例外がポートデルクスを始めとした沿岸の街じゃ。これらの街そのものは常に拡大を続けておる。あれが、ポートデルクスじゃ」
地平線の彼方に、巨大な城壁が見えて来た。
高いだけでなく、視界の端から端まで伸びる規模を有している。空から見てそう見えるのだから相当な長さの城壁だ。
「この大陸にはどこにでも強大な魔獣が出没する。それに対抗できる戦力と備えは街を存続させる為に必須。そこで、大戦力を有する大都市に移民達は集まる。人が集まればそれだけ戦力も拡充する。戦力が拡充されれば街も広げられる。そんな事を繰り返して、ポートデルクスそのものは拡大を続けておるのじゃ。
豊富な人材が増えるからこそ出来る方法じゃな。人が増えれば守るべきものも増えて負担が増える。しかしそれを守り切れる戦力が都市にはいる。だから幾らでも受け入れられて、新たな戦力となる人材も発掘できる。都市だからこそ出来る方法じゃ。
街を一人で守れるような実力者がおれば他の街も発展し易いのじゃが、そのような戦力は多くないからのう。大戦力は非常時に備えてどうしても元々人の多い都市に配置される。主要都市以外の発展は難しいのじゃよ」
そんな話をしている内に、ポートデルクスの城門に着いた。
近付くと城壁というよりも城を連ねたような壁の迫力が凄い。
高さ二十メートル程の所に人が配置出来る様になっているが、その上もにも同じようにバリスタ等が置いてある部分があり、幾つかの城壁を低い順に並べた様な構造になっている。
最も高い部分は五十メートル程で、そんな巨大な城壁がやはり地平線の果てまで伸びていた。
更に近くで見ると様々な術式が刻まれているのが分かった。魔法的な機能も有した城壁らしい。
地球ではこんな規模の城壁など存在しないだろう。
一部を切り取った様な城だって、数える程しか無いと思う。
「凄い城壁ですね」
「驚くのは早いぞ。城壁は増築される度に造られるから、この先にも幾つか同規模のものがある。一部分でも城の様な構造になっているのは、実際に建築中は城塞として使い、建築中に襲いかかる魔獣を倒す拠点としたからじゃな。幾つもの砦を繋いたのがこの城壁じゃ」
城を連ねた構造だと思ったのは間違いでは無かったらしい。
一部分一部分が城塞になっているようだ。
「もしかしたら、ここが世界一の城壁かも知れませんね」
「いや、違うぞ」
「えっ!? もっと凄い城壁が有るんですか?」
「世界一の城壁、城塞といえば誰もが口を揃えて世界一だと評する場所がある」
まさかのここ以上に凄い城壁があるらしい。
一体どれ程の城塞なのだろうか。ここでも地球のものを遥かに超えているのだから、想像も出来ない。
是非、観光に行ってみたいものだ。
「世界一の城塞、それは五千年近くも人類を守り続けた人類最強の城塞、【中央城塞都市メリアヘム】じゃ」
「へ、へぇ……」
行った事のある場所だった。
「言葉で表せぬ程の見事な城塞都市じゃ。あの都市が陥落する事など、人類の誰にも想像出来ぬじゃろう」
陥落していないあの都市を、俺は想像出来ない。
というか、残骸ですら殆ど見た覚えがない。
「それこそS級冒険者が束になっても敵わないランク13の魔王級の相手が攻めて来たとしても、あの都市は無事じゃろうな」
その魔王の部下の、曰くランク11級だという魔王軍四天王に木っ端微塵にされたとは言えない。
ちょっとした事故で、ちょっと大気圏外から突入して呆気なく壊れてしまったとは、口が避けても言えない。
「儂ももう一度見てみたいものじゃ」
懐かしげに思い出した様子のリオ爺さんに、もはや跡地すらも熔岩の塊になっているとは、口が避けても言えなかった。
女神様もそれは同じ様で、ただ俺達は作り笑いを浮かべていた。
「あちらに騎士の方がいますよ」
城門を守る騎士の方を見て、女神様は強引に話を変えた。
それは本来の目的だが、女神様が言葉にした理由は絶対に気まずいから話を変える為だろう。
「そうじゃったのう。儂はこういう者なのじゃが」
女神様の目論見通り、リオ爺さんはメリアヘムの話を切り上げ騎士にギルドカードを見せる。
身分証の確認は行っていないようだが、目的のアーヴノア提督の居場所を聞くために出したのだ。
「ようこそおいで下さいました」
「アーヴノア提督に会いたいのじゃが、どこにおるのか知っておらんか?」
「少々お待ちください。只今確認を行います」
騎士さんはどこかに走ってゆく。
暫くすると汗を流しながら戻って来た。
「ア、アーヴノア提督閣下は現在、海上で演習中との事です。ご、ご案内いたします。こ、こちらへ」
先にギルマスのクライドさんが連絡してくれたようで、話は早く通じた。
リオ爺さんが元S級冒険者だと連絡で知ったのか、騎士さんは先程よりもかなり緊張した様子だ。
いや、元S級冒険者であることは偽装不可能なギルドカードで伝わった筈だから、かなり上の上司の元まで直接案内するように命じられて緊張してしまったのかな?
何であれ、今回の用事も無事に早く終われそうだ。
次話もゴールデンウィーク中に投稿したいと思います。




