ボッチ109 ボッチと三度目の正直
ゴールデンウィーク投稿です。
半ば伝令に成功しつつも撤退を決断した俺達は、また次の街に来ていた。
念のためだ。
余計な事も色々としてしまったから、真実だと理解しても他の事に気を取られているかも知れない。
例えば、とある宗教に関してとか……。
魔王軍四天王の情報に関して動くのに、三日くらいかかる可能性も十分にあると思う。
という事で、他の街にも一応伝令に来ていたのだ。
今回はお供にホルスとアイギスはいない。
オハナシ中に聞いたところ、あれだけの軍勢でお出迎えされたのは隣町から魔族がそちらに行ったとかの連絡を受けたのではなく、なんと可愛い可愛いペット達が原因であったらしい。
とてつもなく強大な魔獣が攻めて来たと勘違いしたそうだ。そしてそんな二体と共にいるのは人間の筈がない、即ち魔族だと判断したとの事だった。
失礼な話だが、確かに世界に誇れるペット達は可愛いだけでなく力を解放すれば格好良くもある。
失礼な肝っ玉の小さい小市民は威圧ざれ過ぎても仕方が無い。
一緒にお散歩に行きたいが、ペット達が恐がられるのも可哀想だ。
という事で、今回はお留守番をしてもらっている。
今回こそはスムーズに話が進む筈。
現に、今回は軍勢のお出迎えは無かった。
そして身嗜みを整えた俺達に門番達は驚いた様子だったが、何事もなく街の中に入れた。
俺達は真っ直ぐ冒険者ギルドに向う。
最初から話の分かる人の所へ向かう作戦だ。
代官は文官の可能性がある。文官相手にはこの威圧スタイルが通用しないかも知れない。
という事で、一目で俺達の威が伝わるであろう冒険者ギルドをターゲットにした。
威風堂々と冒険者ギルドにお邪魔する。
ちゃんと身嗜み効果は通じているようで、冒険者達は自然と道を開けた。
真っ直ぐと受付へと向かう。
「儂はこういう者じゃ」
リオ爺さんはギルドカードを取り出した。
更新しておらず、使えないそうだが無いよりは信用を得やすいだろうという判断からだ。
幸いギルドカードは黒い金属製で、文字が読めなくなったりはしていなかった。
「ギルドマスターに取り次いで欲しい」
「は、はいっ! ただいま!」
受付のお姉さんは駆け足で何処かへ向かった。
そして一分も経たない内に戻って来ると、荒い呼吸のまま対応を告げて来た。
「ギルドマスターはすぐお会いになられるそうです。ギルド長室までご案内いたします! こちらへ!」
促されるままお姉さんについていく。
カウンターの奥にある階段を登ると、他と比べ少しだけ豪華な扉があった。
お姉さんが扉を開けると、そこにはビシッとした服装ながらも盛り上がる筋肉が隠し切れていない初老の厳つい男性が立って待っていた。
明らかに昔は冒険者だったであろう雰囲気の人だ。今だってそう衰えては無さそうな雰囲気がある。
この様子なら、俺達の力を理解してくれるだろう。
「私が冒険者ギルド、ルーベルタウン支部のギルド長を務めるクライド・ウォーカーです」
うん、初っ端から好意的だ。
敬意まで払ってくれている。
「儂はリオ、グリーンフォートの冒険者ギルドマスターの代理じゃ」
そう言ってリオ爺さんは預かっていた手紙を見せる。
「本来はロックフォートにのみ伝える予定じゃったが、ロックフォートにも魔族が出現し混乱しておっての。儂等が直接多くの街に知らせる事になった」
手紙の宛先はロックフォートのギルマスなので、嘘にならない程度に説明する。
「なんと!? ロックフォートに魔族が現れたのですか!?」
「落ち着け、魔族は既に討伐されおる」
が、手紙を読む前にクライドさんは声を上げた。
魔族の出現というのは、実は大事件らしい。
「討伐されたのですか!? 今代の魔族の討伐には何れも複数のA級冒険者者、それに並ぶA級戦力が必要だった筈! ロックフォートには元B級冒険者のギルドマスターがいるだけです! 一体どうやって!? まさか貴方が!」
「そうじゃ、儂等が討伐した。安心するが良い」
魔族の討伐というのも、実は大変なもののようだ。
まあ、ここが辺境の大陸にあって人材が不足しているだけかも知れないが。
そもそも冒険者ギルドについてもあまり知らない。色々な作品に出てくるが、A級冒険者いうのは実際どの程度なのだろうか。
「そして本題じゃが、グリーンフォートの魔族から重大な情報が聞き出せての。それを伝えに来たのじゃ」
「それはもしや、魔王軍四天王の正体に関する情報でしょうか?」
「む、知っておるのか?」
「はい、先程、隣街のニューエウロノアより報告が届きました。ポートデルクスよりここを含めたニューエウロノアまで続く開拓の道には、魔獣に脅かされて来た歴史から連絡の魔導具が置かれていますので」
グリーンフォートには無かったが、さっきの街には連絡手段が有ったようだ。
ちゃんと伝えてくれたらしい。
心配は無用だったようだ。
「ならば、急いで来る必要は無かったのう」
「ロックフォートの魔族の件は聞いておりませんので、そちらを聞かせていただければ」
「人間に紛れておったが、大した事は無かったぞ。特に語るべきものは無いのう」
「流石はS級冒険者、冒険者のトップは違いますなぁ」
うん? S級冒険者?
「今、S級冒険者って?」
「知りませんでしたか? こちらのリオ様はS級冒険者、最高ランクの冒険者です」
滅茶苦茶強いとは思っていたが、S級冒険者だったらしい。
ただ者では無いと思っていたが、予想以上だった。
「アウラ様は知ってたんですか?」
「いえ、驚きです。しかし、リオと言う名は聞いた事がありません」
女神様に聞くが、女神様も知らなかったらしい。
言葉通り驚いている様子だ。
「最近は全く活動しておらんかったからのう。死んだとでも思われているかも知れん」
「私も恥ずかしながら、初めてお名前をお聞きしました。リオ様の仰る通り、死亡扱いになっている可能性が高いでしょう。特にS級冒険者は少し動くだけで影響が大きいので、生存確認は簡単に出来ます。反対に常人では挑めない脅威に立ち向かわれる為、死亡の確認がとれません。ですので、十年所在が確認できないと自動的に死亡扱いとなります。
生存報告をいたしますので、カードをお貸しいただけますか?」
「もう冒険者として活動する気は無いのじゃが? 最後に活動したのもいつだか思い出せぬぞ」
「何卒、生存報告だけでも」
「一応、元S級冒険者だと証明するためにも、渡した方が良いんじゃ無いですか?」
おそらく、ギルマス言いたくても言えないであろう事を変わりに言う。
ずっと一緒にいた俺達だって驚く様な事だから、本来なら疑って当然だ。
魔力を解放したリオ爺さんは明らかな強者だが、それでも本当にS級冒険者かどうかの疑念は完全に消える事は無いだろう。
俺が初対面の誰かにどうもS級冒険者ですと言われても、まず信じない。
「いえ、リオ様がS級冒険者である事は確かです。S級冒険者のギルドカードはアダマンタイト製、偽アダマンタイトなど作製は不可能ですし、アダマンタイトの加工は世界一の名工にも不可能です。神話の名工しかアダマンタイトを扱えたと言う話は聞きません。そもそもアダマンタイト自体、存在が数えられる程しか確認されていない金属です。偽装のしようがありません」
リオ爺さん、元S級冒険者であった事は明らからしい。
そして新たな疑問も生じた。
「えっ、何で加工出来ず滅茶苦茶希少なのにカードになってるんですか?」
「それはまだ解明されていません。ランクアップの手続きを冒険者ギルドの魔法道具で行うとカードが入れ替わります。どういう原理なのかは未だ解明されていません。神より授けられた魔法道具とされています」
まさかの謎技術らしい。
そんな訳の分からないものを使って大丈夫なのだろうか?
「じゃあ、ランクアップってその魔法道具がある特定の場所じゃないと出来なかったり?」
「これも原理不明なのですが、この魔法道具は増える機能も有しています。冒険者ギルドでしか使えない機能もついていますし、冒険者ギルド最大の謎と呼ばれていますね。それで、生存報告なのですが?」
「まあ、報告だけならば」
「ありがとうございます」
クライドさんはリオ爺さんからギルドカードを受け取ると、名前やらを紙に写した。
そういう所はハイテクでは無いらしい。
こうして俺達は、三度目の正直で正面からお使いに成功するのであった。
次話はゴールデンウィーク中に投稿します。




