ボッチ108 ボッチと恩恵
祝日ではありませんが一応、ゴールデンウイーク投稿です。
「復唱!」
女神様の号令で従順になった人々が復唱を始める。
「私達は正義の使徒!」
「「「皆様は正義の使徒です!!」」」
「儂等は希望の使者!」
「「「皆様は希望の使者です!!」」」
「俺達は愛の伝導師!」
「「「皆様は愛の伝導師です!!」」」
これが一番重要だ。
何度も言わせる事で念入りに失礼な先入観を塗り潰し、正しい情報を刷り込む。
俺だけ刷り込み内容が思い付かなくて若干変なものになったが、四捨五入でセーフだろう。多分。
そしてもう一つ、重要なのは伝令内容だ。
「魔王軍四天王は【黒炎山】ディメグデウス!」
「「「【黒炎山】ディメグデウスは魔王軍四天王です!!」」」
「魔王軍四天王は【白原冥帝】バールガン!」
「「「【白原冥帝】バールガンは魔王軍四天王です!!」」」
「魔王軍四天王は【狂鬼の天災】ヴィルディアーノ!」
「「「【狂鬼の天災】ヴィルディアーノは魔王軍四天王です!!」」」
「魔王軍四天王は【老怪】レリシオ!」
「「「【老怪】レリシオは魔王軍四天王です!!」」」
こちらも念入りに刷り込んでゆく。
従わなかった、ある種失礼な事には変わりないがそちらの方が正しい気がしなくもない、そんな正義感が強く融通のきかなかった人達には騒がない様に猿轡は噛ませている。
「我らは女神アウラレアの敬虔なる信者!」
「「「私達は女神アウラレア様の信者です!!」」」
「女神アウラレアは慈愛の女神!」
「「「女神アウラレア様は慈愛の女神様です!!」」」
「女神アウラレアは美の女神!」
「「「女神アウラレア様は美の女神様です!!」」」
何か、女神様はついでとばかりに余計な事まで刷り込んでいる……。
「儂は呆けてなどおらん!」
「「「老師様は叡智を有する賢者様です!!」」」
「儂の言う事こそ真理!」
「「「老師様は叡智を与える賢者様です!!」」」
「儂の頭はまだまだ若い!」
「「「老師様は叡智を司る賢者様です!!」」」
リオ爺さんまで便乗して余計な刷り込みをしている。
ここは、俺も一応何か言っておいた方が良いのか?
何故か流れで全員の顔がこちらに向いている。
「お前達は、露出教の信者だ!」
「「「俺達は露出教の信者です!!」」」
取り敢えず女神様の様に形だけ布教活動をしておく。
加護を貰っているし、名誉司教とやらにも認定されているし、形だけでもやっておいた方が良いだろう。
多分、復唱しただけで誰も信者にならないと思うが。
しかし、予想だにしない事が起きた。
復唱した連中の服が弾かれる様にスルリと脱げたのだ。
拘束していたにも関わらず、しかも一斉に。
何が起きたのだと答えを求めて左右を見ると、何故か俺に恐ろしいものを見る視線を向ける女神様とリオ爺さんがいた。
そこまでするかと言いたげなご様子。
な、なに? これ俺がいけなかったの!?
「ア、アウラ様、一体なにが?」
「知らなかったようですね。露出教の誓い、入信宣言はただの言葉だけではありません。神々からしても神智を超えた世界神の力は、入信した信者に露出教の教えを体現させる恩恵を与えます。具体的には、一週間、一切の衣服が着られなくなるそうです」
非難する視線を向けながら女神様はそう言った。
「お、恩恵? 呪いじゃなくて?」
「露出教は恩恵だと主張しています。曰く、最初に露出教の理想を体験させるのだそうです」
なんと言おうと、誰がどう見ても呪いだと思う。
「そのあまりにも鬼畜な事を、貴方はしたんですよ?」
女神様にやり過ぎだと言われた。
リオ爺さんも頷いている。
解せぬ。
どう考えても、やり過ぎたのは二人だった筈なのに。
俺は一から十まで、巻き込まれただけだったのに。
しかし、騒ぎはそこで終わりではなかった。
一人、いや一体がその真実の姿を現したのだ。
何やら魔力が放出されたとその方向を見てみると、魔族がいたのだ。
群青の皮膚に蝙蝠の翼、六つの目に耳まで裂けた口、そして先が蛇になっている四本の尾、前に見たのと姿は大分違うが、魔族だ。
「……まさか、偽装まで解けるとは、初めから吾を見つけるのが目的だったのか?」
「そうだ!」
何だか知らないが、取り敢えずそう応えた。
どうやら露出教の入信は服のみならず、纏っているものは解けるらしい。
魔族が現れると言う通常なら非常事態だが、俺の心は喜んでいる。
運が良かったと。
上手く行けば、全部こいつに押し付けられる。
全ては魔族を炙り出す為、完璧な大義名分のゲットだ。
そしてこいつを倒せば、俺達が魔族では無く本当に伝令だと分からせる事が出来る。
「見事だと讃えてやろう。それを冥土の土産とすると良い! お前達は知り過ぎた! ここで消えてもらう!」
うん、これで伝えた内容が真実だと、この場の全員に伝わっただろう。
殺気むんむんだが、ナイス魔族!
お礼に痛みなく一瞬で倒してやろう。
襲いかかって来たところで、返り討ちにしてやる。
しかし、魔族は一向に襲いかかって来なかった。
「なっ、何て頑丈な拘束魔法なんだ!? この吾が拘束を破れないだと!?」
まさかの、大口を叩いたくせに磔魔法が解除出来なかったらしい。
と言うか、そんなに本格的に拘束していたんだ。
そう言えば魔族以外にもこれまで手足が縛られていても使える魔法を使って来なかったし、ただの見かけだけではないようだ。
魔族は度々魔力を高めるも、途中霧散して形にならずに終わっている。
単純な力以外に対しても堅牢で、魔族は刃の付いた四肢で切ろうとするも歯が立たず、形態を変化させてすり抜けようにもすり抜けられない。
完封だ。
女神様がサクッと魔族の心臓に光の槍を投げ穿く。
「クソがァァァあっっ!!」
魔族は呆気なく灰になって消滅した。
「さて、行きましょう」
「えっ、何故そんなに早く?」
「たまたま魔族が居たとは言え、露出教にしたのに対して言われるかも知れないからです」
「な、なる程」
「他にも根掘り葉掘り聞かれるとボロが出るかも知れません」
「確かに、伝令と言う役割は、このまま下手な事を言わずに去った方が成功するかも知れんのう」
「と言う事で、撤収!」
俺達は再びそれっぽく腕を上げて背を見せると、空へと撤退するのであった。
次話もゴールデンウィーク中に投稿します。




