ボッチ106 ボッチと街の歓迎
ゴールデンウィーク投稿です。
戦略的撤退を選び逃亡した先、そこは最寄りの街だった。
俺達は、というよりも女神様とリオ爺さんの二人は全く諦めていなかったのだ。
何度も説得したが、その結果は二人が絶対に諦めないだろうと分かっただけだった。
諦めないという本来なら美徳の一つをこんなところで発揮しないで欲しい。
おかげで諦めず努力し続ける姿勢も良い事ばかりではないと、学ばなくても良さそうな事を学んでしまった。
加えて、最寄りの街は前の街よりも規模が大きかった。
三倍くらい広さがあり、人の数はそれ以上に多く活気に溢れている。
建物も立派で商店の数や種類も増えていて、田舎から都会に来た様な気分だ。
……失敗したのに、更に大きい街でまた挑戦するとは、一体何を考えているのだろうか?
成功するイメージが欠片も湧かない。
そして、俺の予想は当たった。
いや、想定以上だった。
街の外にはズラリと武装した皆さん。
揃った装備の衛兵の皆さんや、豪華な鎧兜の騎士の皆さん、バラバラな個性豊かな冒険者の皆さんに、ローブに身を包んだ魔法使いの皆さんと、街の全戦力と思わしき人々が勢揃いしている。
「どうやら、我々の偉大さに気が付いて歓迎してくれている様ですね」
「そうじゃのう。身嗜みを整えた甲斐があるわい」
絶対に違う。
俺の考え通り、街に近付くやいなや、無数の攻撃が街から飛んで来たのだ。
歓迎の真反対だ。
「「何故!?」」
「さっきの街から、何らかの手段で連絡がいったんじゃないですか? 領主の館を破壊した一団がそちらに向かったって」
「「…………」」
原因は、それしか考えられない。
これからも何処かに向かう様子はなく、城壁の上や下に広がるように布陣しているし、大規模なのに周辺には魔物の群れとか脅威は存在しなかった。
何より、明確に俺達を攻撃している。
兎も角、今は防御だ。
仙術で風を操作し下降気流の壁を作って、矢やらファイヤーボールを叩き落とす。
しかしそんなものは牽制だったようで、巨大な岩石や柱の様に巨大な矢が飛んで来た。
カタパルトやバリスタといった攻城兵器だ。
他にも対人向けじゃない規模の魔法や武器の数々。
うん、確実に人間だと思われていない。
多分、魔族がそちらに行ったと連絡されている。
リオ爺さんが展開した結界に次々と攻撃は当たり、山も崩れそうな破壊の嵐が結界の向こうに広がる。
結界の外が炎やら光やらに塗り潰されて、あっと言う間に何も見えなくなった。
「諦めて、帰りましょう?」
ここで何を伝えても、信じてもらえる訳が無い。
そもそも、対話すら不可能だろう。
まあ、ここじゃなくても話は信じてもらえないのだろうが……。
「帰る? 有り得ません!」
「そうじゃ! そんな事はできん!」
しかし、何故か女神様とリオ爺さんは諦めるどころか不屈の闘志に火を着けていた。
「ここで風評被害を止めなければ、他の街にも広がってしまいます! 何としても我々が正しいと分からせるのです!」
「それにここまで馬鹿にされて許せるものか! ボケ老人の次は危険な狂人扱い、ここらでお灸をすえる必要がある!」
保身を司る女神様とここに来ても突き進もうとする狂人なリオ爺さんには何を言っても無駄だった。
「考えようによってはこれはチャンスでもあります。正面から有力者達を叩き潰して、話を聞かせましょう」
「そうじゃのう。大義名分を得たと考えれば儲けものでもある。力尽くで言い聞かせる事が出来るわい」
怒りを突き抜けてもはや二人は冷たく笑っていた。
これまでの鬱憤を全てぶつけてストレス発散を正当に出来ると喜んでいる。
「「正当防衛、万歳!!」」
そう叫ぶや否や、止める間もなく軍勢に突っ込んで征った。
絶対、力で捻じ伏せても説得出来ないと思うが、ヤるらしい。
パラパラチャーハンの様に人が宙を舞っている。
死者は出ない様に気を付けているようだが、怪我をさせない気は無いようだ。
女神様が放った衝撃波で盾を構えた幾人もの騎士達が重い鎧を身に着けたまま十メートル以上も吹っ飛び激突。
ステータスの恩恵がない地球人なら即死かも知れない一撃。
あれは確実に痛い。
リオ爺さんは軽めの炎で冒険者達を炙っている。
加えて無数の礫や氷を投げつける程度の威力で放ち続けていた。
その程度の威力なら問題ないと突っ込んで来た冒険者には強めの火力で。
これも絶対に痛い。
それぞれ、意識を奪わない程度に、しかし動けない程度の威力の攻撃を叩き込み続ける。
街の人達は天災に巻き込まれたが如く、殆ど何も出来ずに倒れて逝く。
しかし、中には強者もいた。
何故か俺達の方にやって来る強者も。
「なっ、ホルスとアイギスにまで攻撃を! 許さんっ!!」
しかも、可愛い俺のペットにまで攻撃してくる奴がいた。
俺が間違っていたかも知れない。
人の話を聞かないどころか、巻き込まれ被害者と断言しても良い善良なる無関係な俺にまで暴力で捻じ伏せようとするとは、相当おつむの弱い野蛮な連中だ。
何よりこんなにも愛らしいホルスとアイギスまで巻き込もうとするなんて!!
お仕置きが必要だ。
ホルスの上に乗るアイギスの結界によって下手人騎士が弾き飛ばされるのとほぼ同時に、仙術と魔術の合わせ技により圧縮した竜巻を投げつける。
「くっ! ”魔砕破断“!!」
荒れ狂う魔力を纏わせた剣で下手人騎士は術式ごと圧縮竜巻を斬ろうと試みる。
それによって魔術は斬られ砕かれた。
しかし、これは仙術との合せ技。
俺が飛行している力が仙術だから、そのままの感覚で咄嗟に発動できる仙術をメインに使っているだけだが、仙術には魔術と違った利点がある。
それは術式破壊、魔力によって魔力を断つ攻撃や魔力の勢いによって魔力を乱す攻撃、それ等に対する耐性だ。
仙術は自然を操る術。それにより生じた現象は自然そのものと言っても良い。
魔術が現象を直接生み出す、魔力によって支配する術であるのなら、仙術は流れを生み出す調和の技。
魔術みたいに極端な現象を起こすことは出来ないが、環境とすら呼べる規模の持続性と広域性に優れた現象を起こせる。
竜巻も環境全体に干渉し引き起こしており、竜巻という極一部に過ぎない部分の魔力をどうこうしても意味はない。
仮に海を斬っても瞬間的に戻るように、一瞬は破壊できてもすぐに元通りだ。
魔術部分は破壊されたが、寧ろそれによって圧縮が解かれ、解放された凄まじい暴威に下手人騎士は激しく吹き飛ばされてゆく。
意識が下手人騎士に向く隙を狙った他の騎士や冒険者達も、俺達に届く前にまとめて吹き飛ばされた。
制御が乱れて街の方向まで伸びてしまった竜巻は、城壁前の軍勢どころかその後ろの城壁そのものまで吹き飛ぼしてしまっているが、まあ不可抗力だ。
俺は無罪。正当防衛で何とか何を逃れた憐れな被害者にして冤罪者。
しかし、軍勢の悲鳴は心に染みる心地の良いものであった。
何気に、俺も失礼な人々への鬱憤が溜まっていたらしい。
ここで伝令の役割も完遂して、全てスッキリするとしよう。




