ボッチ105 ボッチ、街をあとにする
ゾロ目投稿です。
俺達一行は、街をあとにした。
……これが当初リオ爺さんと女神様が考えていた作戦という訳では無い。
それを行った結果がこれだ。
振り返ると、領主の館は崩壊し炎上している。
残念ながらSNS的な炎上ではなく、物理的な炎上で跡形も無くなりかけている。
うん、見なかった事にしよう……。
時は一時間前に遡る。
「何をするんですか?」
「そのうち分かります。貴方は相手を威圧する姿に着替えて来てください。何なら【世界最強】っぽい雰囲気でも出しておいてください。服装が整ったらここで集合しましょう」
「はあ…」
そう言うと女神様は姿を消し、リオ爺さんは近くの服屋に入っていった。
何か不穏な作戦の様にも思えるが、兎も角服装で説得力を増そうという作戦だろう。
この時の俺はそう思い、拠点に戻って世界最強っぽい服装に着替えたのだった。
選んだのはゴテゴテした黒いロングコートに眼帯、封印されている感の漂う左右異なる手袋、首にはこれまた雰囲気だけ漂うアクセサリーを幾つか身に着け、腰には鎖を垂らしベルトには見かけだけは強そうな武器を幾つか。
女神様が用意してくれていた衣装に加え、これまで倒したアンデットやらのドロップアイテム、装備でそれらしく揃えられた。
仕上げに髪を白にして、瞳の色を深紅にしておけばそれらしく見えるだろう。
そして【世界最強】の称号を意識しながら超演技。
これで注文は満たした筈だ。
約束の場所に戻ると、そこには女神がいた。
神々しさを増した女神様だ。
後光が差し、背には後光を模した円形の飾り。額と胸にはミスリルと空を込めた様な宝玉のアクセサリー。純白の衣も何時もよりも輝きを増し、まるで天そのものがそこに顕現しているかのようだった。
美しいし、凄さを理解せざるを得ないが、やり過ぎだと思う。
ここには今、人が居ないが、大通りに出ようものなら皆が跪いてしまうだろう。
「何ですか、その格好は? 厨二病の本物みたいな姿は? やり過ぎでは?」
「やり過ぎはこちらのセリフです」
俺も厨二病な姿だなとは思っていたが、それを要求したくせに指摘しないで欲しい。
厨二病な格好と世界最強な格好って紙一重だろう、多分。
「待たせたな」
その声に振り向くと、そこには賢者がいた。
仙人のような枢機卿のような、そして大魔導師のような服装を来た賢者。千年もの間、魔導師の頂点に君臨しているかのような迫力がある。
首に下げた力を秘めたかのような首飾りも、長い宝玉が散りばめられたかのような杖もまるで本物のように見える。
抑えていた魔力も解放しており、街の人々も萎縮する事間違いなしだ。
萎縮させてどうするんだというのもあるが……。
リオ爺さんも、やり過ぎだと思う。
「二人共、凄まじい迫力じゃのう」
「リオ爺さんこそ、素晴らしい威圧感です」
「えっ、俺もちゃんと迫力出てます」
「おうよ、解放した魔力が凄まじい威圧感を生み出しておる」
超演技に任せて気が付かなかったが、俺も結構力を解放していたらしい。
普段は漏れないように制御している魔力がだだ漏れだった。
「これなら作戦は上手く行きそうです」
「成功は間違い無いじゃろう」
「それで、作戦って?」
「「代官をとっ捕まえて直談判」」
「……えー」
色々準備したが、作戦は脳筋一直線作戦だった。
「乗り込むなり忍び込むなり攫うなりして、話を有無を言わせず聞かせます」
「……急にお腹が」
「さっさと行きますよ!」
「はい……」
この時点で失敗を確信していたが、まさかあんな事になるとは……。
まず始まったのはこの街の代官探し。
俺達は誰も代官の顔を知らなければ、居場所も漠然と領主館にいるんじゃないかという事しか知らなかった。
「どうやって探すんですか?」
「正面から突破しようとすると、領主館にいても逃げられる可能性がありますね」
「代官が最も強い魔力を持つ訳でもないし、最も高価な服を身に纏っている無いからのう。これは困った」
「そうですね無理そうですね帰りましょう!」
これ幸いと撤退を提案する。
「しかし、強い魔力を持つ者は兵士の中でも上位の地位にいる可能性が高いです」
「なる程、まずは領主館にいる実力者を捕らえ、代官の居場所を聞き出せば良いと言う事じゃな」
……当たり前のように俺の提案は無視されて、これまた当たり前のように物騒な案が採択された。
そもそも普通の襲撃(?)だって、一番強い護衛とかは避ける様に作戦を立てるのが普通だと思う。
警備が手薄なところを狙うのが常套手段だろう。
まあ、二人の実力なら心配要らないのだろうが。
そして、突撃!隣の領主館。
全く躊躇することなく俺達は、いや二人は領主館へと向かう。
警備の確認とかルートの確認とかそういうのは一切ない。
リオ爺さんが俺達に透明化する魔法をかけ、女神様が壁の実体を無くして見かけだけにする魔法だか神様パワーだかよく分からない事をして一直線に一番の実力者の元へ突撃。
侵入すると共にリオ爺さんは部屋を結界で囲み、女神様は気付かれる前に接近し首トン。
いとも簡単に領主館一の戦力であろう人物は俺達の手に落ちた。
「で、代官を誘拐する前にこの人を誘拐するんですか?」
「そう言えば誘拐前提で気絶させましたが、この領主館に代官かいるとすると、どこかで情報を聞き出してから戻るのは二度手間ですね」
「ここでも良いかもしれんの。回復魔法で起こして居場所を聞き出すのが良かろう。“ヒール”」
リオ爺さんは倒れている兵士に回復魔法をかける
。
俺が治し、万が一、いや五に四くらい見つかって問題になった場合、襲撃に加担しておらず治療までしたとして切り抜けようと思っていたが、先を越されてしまった。
しかし、リオ爺さんのそれはせめてもの人助けにはならなかった。
それどころか回復魔法で想定外な事態が発生した。
兵士が青白い炎をあげて燃え始めたのだ。
「「「えっ!?」」」
これには俺だけでなく二人も驚愕。
「グボオオオオアアァァ!! 何故だぁ!? 何故分かった!?」
燃えるだけでなく姿まで変質し化け物になったそれは、黒炎を吐き出した。
黒炎はリオ爺さんの結界、防音用の結界を容易く破壊しその後ろの部屋の壁も焼き壊した。
そして飛び立ち天井を破壊し外へ。
「「「ふんっ!」」」
しかし幾ら驚いても立ち止まっている俺達では無い。
直ぐ様、それぞれ追撃を試みた。
俺は咄嗟にも使えるようになった“業火滅消”、リオ爺さんは白炎の大槍を、女神様は光の雷を投げつける。
そして化け物は断末魔もあげることも許されずこの世から消失した。
「何だったんですか、今の?」
「魔族じゃのう。妙に強い魔力の護衛だと思っとったが、魔族が人間に化けていたらしい」
「通りでこの街の人々は私達の言葉を信じない訳です」
「女神様、それは酷い言いがかりです……」
「成る程のう、此奴のせいか」
「リオ爺さんまで……」
陰謀論の半分、何故か魔族が潜伏している事は合っていたが、話を街の人達が信じなかったのは絶対に魔族のせいじゃ無いと思う。
「「「っ!?」」」
そんな話をしていると、突如揺れが俺達を襲った。
慌てて空いた穴から空に飛び出す。
振り返ると、領主館は崩れ始め、あちらこちらから出火していた。
魔族の黒炎もそうだが、容赦なく延焼しやすい技を使い過ぎたらしい……。
反動で領主館をヤッてしまったようだ……。
下で館から逃げ出た人々や轟音を轟かせながら崩れ炎上する館を見る街の人々が、空に浮かぶ俺達を指差して何やら言っている。
これでは状況証拠的に犯人扱いされてしまう!
いやまあ、崩し炎上させた一因、三、四因くらいは有るけれども……、兎も角正当防衛みたいなものだ! 酌量の余地しかない筈! きっと!
兎も角、絶対的な正当性、魔族の亡き骸を!
……そう言えば、消失させてしまった……。
「ど、どうします?」
「と、取り敢えず、堂々と勝利のポーズを決めておきましょう」
よく分からないが、言われたとおりにする。
俺は腕を突き上げ、リオ爺さんはそれらしく腕組み、女神様は上品に手まで振っている。
「で、次は?」
「可及的速やかにこの街を離れます!」
「うむっ!」
そう言うと二人はあっという間に遠方まで飛行し点になった。
「ちょっ!?」
あんまりな作戦、あんまりな行動だったが、他に取れる手段がない俺もそれに追随するのであった。
これが事件の全容だ。
どうしよう、これから……。
次話はこどもの日に投稿したいと思います。




