ボッチ102 ボッチと魔王軍の情報
節分投稿です。
「疫病を治す方法は無いのか!?」
感染者は皆無だったが、超演技を使ってもこの流れに割って入るスペックは無いので、落ち着くまで取り敢えず話を聞く。
感染者がいないにしろ、治療法は役立つ時が来るかも知れない。
『そうですね。回復魔法で疫病も勢力を増すと言いましたが、それ以上に簡単に分かる程度に表に出た時点で、感染者は半分死んだ様な状態です。我が始祖の加護を受けた疫病が血も魔力も生命力も奪い尽くしているでしょう。そして変換された瘴気に満たされる。あっという間に腐るか変異、奇跡的に助かったとして、その時はめでたく魔族の仲間入りと言う訳です。
仮に疫病が無かったとして、その変異と腐敗だけでも治療するには欠損すらも治せる最上級レベルの回復魔法が必要という訳です。神の力を降ろした神聖魔法なら、疫病を消し去ると共に治療出来るかも知れませんね。潜伏期間に治すとしても、浄化と回復を高レベルで可能な魔法が必要でしょう』
神聖魔法、まさかそんな魔法が治療に必要だとは……。
神の力を降ろせる魔法なんて流石に使えない。
感染者を探し出す事は簡単に出来ると判明したが、治療の方は俺には無理らしい。
「神の力を降ろす神聖魔法が必要だと!? 巫山戯るな!! 神の力を降ろせる聖人なんて世界どころか史上でも数えられる程度しかいないぞ!!」
「それに神の力なんて降ろしたら如何に偉大な聖人でも、降ろしただけで凄まじい負荷がかかる!! そんなので何人も治せる筈が無い!!」
「他に方法は!?」
俺以外にも相当無茶な手段だったようだ。
『無い事も有りません。聖属性魔法なら、人の力だけでも治せるでしょう。聖域でもあれば全員救えるかも知れませんね』
いや、滅茶苦茶簡単だった。
「“聖域”」
間違って魔族の霊体を浄化しないように注意しながら、街全体に聖域を展開する。
魔力を見ても感染はしていなかったが、念の為にやっておいて損はない。
念には念をと言うやつだ。
最初はのぼせ防止魔法だと思っていたが、かなり便利な魔法だったらしい。
話からして、かなり強力な回復と浄化を同時に行えるようだ。
「聖属性なんて、極める以前に何人の適性者がいるって言うんだ!?」
「今、世界に聖属性を使える人間の時点でいるかどうか、も……」
『クハハハハッッ!! 真実を知り絶望しなさ、い……』
絶望した表情のまま、憤怒した表情のまま、嘲笑う表情のまま固まりこちらを目だけ動かして見てくる街よ皆さんプラスアルファ。
「え〜と、続けてください」
尋問の邪魔をしてしまったようだ。
すみませんと作り笑いをしながら手で続きを促す。
「く、薬とか魔法以外の治療法!?」
「そ、そうだ!! な、何か無いのか!!」
動揺しながらも器用に大声で尋問を再開してくれた。
超演技をしても空気が読めるようになる訳じゃないから、危ないところだった。
『く、薬なら、ランク10以上の高位フェニックスの生き血か、羽でも用意すると良いでしょう。まあ、無理で、しょう、が……』
魔族がホルスを見た。
正体に気が付いたようだ。
街の皆さんも釣られてそっと見て、目を逸した。
どうやら街の皆さんの様子を見るに、治療法が見つかった喜びよりも、驚きが勝り過ぎてしまったらしい。
そんな事よりもホルス、羽とかが凄そうな薬の材料になるなんて、お利口で強い上に、そんな事まで出来るなんて、よしよしなでなで何て凄いペットなんだ!
俺達の事は見なかった事にされて、他の尋問が始まった。
「魔王軍の四天王の内、判明しているのは【白原冥帝】バールガンと【黒炎山】ディメグデウス、残りの四天王はどんな存在だ? そもそも四天王達はどんな力を持っている」
疫病の事はもう聞かないようだ。
『冥帝様は全ての死者を統べる御方。神をその身に降ろし同一化したかつてのアッシュール王だ。かの御方は人間だった頃から最高位の魔術師と呼ばれた史上最強の死霊魔術師。どんな英雄も化け物も、かつての魔王ですらも、冥帝様の御業を持ってすれば生前の力を欠く事なくその力を貴様等人類を滅ぼす為に振るうであろう!!』
魔族はここで取り返そうとしたのか、ペラペラと喋る。
しかしそう讃えているのは、俺が倒した魔王軍四天王バールガンの事だった。
魔王軍、報連相がなってないらしい。
いや、単純に情報伝達手段が伝令とか手紙とか、そう言うのしか無いのか?
「かつての英雄すらも生前の力を維持させたまま蘇らすだと!?」
「一瞬で草原をスケルトンで覆ったとは聞いていたが、規模だけで無くそこまで力を引き出せるのか!?」
「本当に魔王がアンデットになったらとんでもないぞ!!」
うん、情報伝達手段が魔法があってもそこまで発達していないらしい。
世界最大の城塞都市が落ちるなんて大事件なのに、この街には伝わっていないようだ。
『ハハハッ! 絶望するのはまだ早いですよ。貴方達が【黒炎山】と呼ぶディメグデウス様は太古の巨人、龍や古の神々に並ぶ超越存在! その巨人の中でも太古より最も力を持つ巨人の長、世界でただ一柱残った巨人【燃え盛る大地の巨父神】! 人間が到底敵う存在では無いのです!!』
バールガンが倒された事を知らない魔族は、街の人達が恐れ戦くのに調子を良くしペラペラと喋り続ける。
しかしその内容は無視できるものでは無かった。
「神話の巨人が四天王だと!? 何故人類の敵に!?」
「巨人の長って、創世神話の邪神を倒すのに最も活躍した神々の一柱だぞ!? そんなの、神々だって敵うか分からない!!」
とんでもない内容だ。
しかし、魔族は更に追い打ちをかける。
『そして貴方達の知らない四天王の御一方は我等が吸血鬼の始祖。貴方達に馴染みがある二つ名で言うと【狂鬼の天災】ヴィルディアーノ様』
ヴィルディアーノ、村で聞いた名だ。
魔導書の変な魔法を生み出した犯人の一人。
『貴方達も知っての通り、始祖様は現代も史上最も優れた魔術師と呼ばれる御方。この世に存在する高位魔術の大部分はかの御方が編み出した。そしてその多くはかの御方以外、未だ扱える者が現れていないと言う天才中の天才。吸血鬼と言う形で不老不死の秘術まで編み出した史上最高の魔術師です! 始祖様が吸血鬼に至る前でも敵わない貴方達人類に勝機は欠片も存在しないのです!!』
どんな文化、物語でも究極と言える不老不死まで成したなんて、変な魔法ばかり作ったみたいだがとんでもない実力を持つ史上最高の魔術師らしい。
……いや、そう言えば俺も不老だし、異世界だと以外に不老不死は大したこと無いのか? と言うか別に血を吸う必要がある訳でも無いし、日の光とか銀とかに弱くなった訳でもないし、仙人の方が数段優れている気がする。
「……天災ヴィルディアーノ」
「数千年も前の魔術師にして、未だ超えられ無い魔術師の最高峰……、最期は力に溺れて自滅したと伝わっていたが、まさか、現代まで存在していたとは……」
しかし俺の認識とは違い、町の人達はかなり深刻そうだ。相当有名な人物らしい。
そんな様子を見て満足そうな魔族だったが、今までとは違い絶望を見てもその先は言わなかった。
続きを言う様子が無い。
「最後の四天王は?」
『ぐ、それ、はっ…』
そして最後の四天王を聞き出そうとすると、ここに来て急に抵抗した。
「誰だ?」
「言えない様な存在なのか!?」
最後の四天王は隠さなければいけない存在なのかも知れない。
『グッ、あグッ、最後の、四天王は――』
 




