ボッチ101 ボッチと魔族の策略
月末投稿です。
「よもや、こんな所まで魔族が来るとは思わなんだ」
リオ爺さんは疲れた様子も見せず、魔族の残骸の前でそう言う。
「リオ爺さん、ありがとうよ! もう駄目かと思ったぜ!」
「リオ様、ありがとうございます。何故こちらへ?」
「魔力が澱んでおったからの、何事かと思い様子を見に来たんじゃ。皆、無事なようで良かった」
リオ爺さんは、街の人達にも知られている有名人だったらしい。
特別強いのかも知れない。流石に村人全員がリオ爺さん波の強さを持つとは考え難い。
「それにしても、魔族は何故こんな辺境へ?」
「儂も長く生きとるが、こんな事は初めてじゃからな」
「重要拠点でも無ければ、重要拠点であったという話も聞きませんね」
「直接魔族に聞くしか無かろうな」
そう言うと、リオ爺さんは紫色の光で魔法陣画いていき、その中心に魔族の残骸を置いた。
「使うのは初めてじゃから、上手く行くとは限らんが、やるだけやってみるとしよう。“喚魂”、“魂縛”、“死人に口あり”」
リオ爺さんが魔法を発動すると魔法陣が輝き、半分透けた状態で倒した魔族の姿が現れた。
「どうやら、成功したようじゃな」
「長老、これは?」
「死霊魔術じゃ。魂を地上に留めて魂を縛り、仮初の姿を与えたのじゃ。本の知識も役立つものじゃな。効力が正しければ、聞いた事を何でも答える筈じゃ。そんなに長くは持たんと思うから、早めに尋問するぞ」
やはりリオ爺さん凄い。
俺とは違い、普通の本の知識で、それも初めて試して一発で成功させるなんて。
戦いでもかなり余力があった様子だし、もしかしたら今まで見た人の中で一番強いかも知れない。
ただ、トロールの侵攻や黒いワイバーンはイレギュラーだったようだが、それでもここら辺の魔獣は相当多いのだろう。
村の人達も強かったし、もしかしたら村にはリオ爺さん以上に強い人もゴロゴロ転がっている可能性も否定できない。
「この街を狙うのはお前だけか? 他に伏兵は?」
魔族の霊を囲って尋問が始まる。
一番初めの質問は一番重要な質問。
敵がまだ潜んでいるかどうかだ。
『わ、私、だけ、だ』
霊の状態でも魔族は抵抗をみせるが、それでも抵抗し切れず質問に答える。
その答えに魔族を囲む人達も幾分か緊張が解けた。
「何故こんな辺境の街を襲った?」
『し、真の標的は、この街、じゃ、ない。この、大陸に、え、疫病、を、ばら撒く事、だ。その為に、この街を、襲った』
「何故疫病をばら撒く事とこの街が繋がる? 作戦の全貌を話せ」
『感染者が、人口の少ない田舎に、疎開すれ、ば、効果は、半減、する、からだ。規模の大きな、街から、始めては、それだけ情報、伝達も早い。対策を遅らせる、目的もあった。
作戦のぜ、全容は、こう、だ。始祖様の生み出した疫病、により、死んだワイ、バーンを、アンデット化、し、上位種、のデスワイバーン、を、生み出した。冥帝、様、の、秘術で、怨念を強化した、デス、ワイバーンは、自分の経験した死を、振り撒く。加えて、強靭な、ワイバーンの、肉体は腐ら、ず、人間共、には、見分けがつかな、い。増幅された疫病が、人間を、滅ぼす、のだ。
そして、疫病が潜、伏、する頃合い、に、トロールの軍勢を、解き放たっ、た。この街を、滅ぼせる程度の、な。足の遅い、トロールだ。前日のワイバーン、で、警戒を強めた、人間共なら、姿が見えた時、付近の街へ逃げる、だろう。そして、ワイバーンの、事など、忘れる筈、だ。こうして、疫病が、広まる、完璧な計画、計画だったのだ!』
倒される前も口走っていたが、本命は疫病で間違い無いらしい。
しかしそうなると厄介だ。
魔族の討伐には成功したが、疫病が残っていればまだ危機は過ぎ去っていない事になる。
「どんな疫病だ?」
『ふん、教えて差し上げましょう。どうせ貴方達には対処不可能でしょうから』
魔族は抵抗をやめて語りだす。
余程自信が有るのだろう。
『デスワイバーンが振り撒く疫病は探知不能。感染しても症状を見せず、感染者を殺す勢力をつけるまで表に出ない。加えて宿主の魔力を喰らい魔力的にも擬態潜伏する。症状を見せた時が最期です。そして症状が出ていない状態でも感染を広げ続ける。
回復魔法も無意味。実質的に我々の創り出した疫病は魔物と言って良い。回復魔法をかければ疫病も勢力を増す。魔力的に擬態をする疫病と宿主を分けて回復するなど不可能。
つまり、一度感染すれば終わりなのです!! どうしますか!? 他の人間共を助ける為に自害しますか!? クッヒッヒッヒヒッッ!!』
狂ったように、狂いながら笑い出す魔族。
対して俺達は顔色を青くする。
「って、なんで貴方まで顔色を青くしているんですか?」
「いやだって、俺達もどちらの現場にもいましたし、感染しているんじゃ?」
「貴方、病耐性カンストしているでしょうに」
「確かにそうですね」
安心安心…って、他の人達は全然安心じゃない!
このままでは、全滅だ!
「疫病を見つける方法は!? 治す方法は無いのか!?」
代官さんが、霊体にも関わらず掴みかかるようにして魔族に問う。
『無い事も有りません。最大レベルの鑑定か、最大レベルの魔力感知でも使えれば見つける事も可能でしょう。まあ、そんな使い手がいればの話ですがね! クアッハッハッハッハ!!』
凶悪な笑い声を上げる魔族。
思ったよりも発見方法は簡単だった。女神様なら鑑定が多分カンストしているし、俺の魔力感知はカンストを超えて覚醒している。
集中すれば魔力的な異物など、簡単に分かりそうだ。
しかし急に笑い出すとは、やっと観念したのか?
「そんな! 巫山戯るな!! そんな使い手いる筈がない!! 居ても世界に片手で数えられる程度だ!!」
「もっと簡単な方法は、無いのか!?」
あれ? 街の皆さんは思っていた反応と違う。
そう言えば、当たり前の様にカンストスキルを持っているが、レベル10のスキルは大陸に一人も使い手が居ない事もある伝説の域だと言っていた気がする。
もしかして、かなり深刻だった?
『クフフ、良い反応です。巫山戯ても、難しい条件を言っているのでもありませんよ』
涙を拭く仕草をしながら魔族は答える。
より絶望を求めるように。
『潜伏し、擬態する性質を持つこの疫病はカンストでもしていなければ鑑定出来ません。そもそも潜伏した状態の病自体、状態異常として鑑定すること自体が至難の業です。魔力に溶け込み擬態するこの病の鑑定は不可能に近い。
精密な魔力感知が可能でも擬態を破り見つける事が出来るでしょう。魔力操作あたりのスキルでも可能かも知れない。しかし、元より病を探る術ではない。非常に身近な魔力の違和感を気付くなら兎も角、それらを飛ばして診察に使うのなら相当な練度が求められる。
他にも幾つかの術を組み合わせれば、より低い実力でも見つける事も可能でしょう。だが、大量に潜む無症状者を探るのは不可能! 一人一人にコストのかかる方法では何の意味も無い!! 感染病を封じ込めるのは不可能なのだ!!』
何か言っている間に魔力感知とかを全開に探って見るが、幸い感染している人、魔力に不自然な何かがある人はいなかった。
リオ爺さんがワイバーンを完全に燃やしたからだろう。
「他に方法は本当に無いのか!!」
『ヒヒッ、良いですね。その顔。ありませんよ。そんなもの。例外はデスワイバーンから疫病を直接高濃度で受けた者くらいです。量が多いとなれば擬態していても反応する事がある。具体的には咳き込む程度の事は起きるでしょう。ただ、通常の咳となんら違いは有りません。遅くとも数刻経てば完全に擬態し症状は無くなる。
そんな少数を見つけたところで無意味です。それだけの濃度の疫病が放たれた時点で、この街の程度の範囲内では全員感染者です』
とか言っているが、本当に魔力的な異常は完治できない。
横を見ると女神様もホッとした様子で、鑑定しても誰も感染者がいなかったのだろう。
どうやら、隠密性に優れ過ぎた疫病の為、魔族にもリオ爺さんに全部燃やされ広がっていない事が分からないようだ。
連続投稿出来るか分かりませんが、少なくとも節分には投稿したいと思います。




